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AMBUSH®が初のブランド本を出版。YOONが語る、16年間のクリエーションの軌跡と情熱の源泉

  • 2025.4.3

──これまでブランド本を出していなかったことにも驚きですが、なぜこのタイミングで本を出そうと思ったのでしょうか?

実は5~6年前にリッツォーリ社(RIZZOLI NEW YORK)から、「本を出しませんか?」という話をいただいていたんです。ただ、当時私の中でアーカイブ本というのは、何十年ものキャリアを経たベテランの人が出すものというイメージがあったので、自分たちにはまだ早いのではないかと思い、「内容を吟味したいのでもう少し待って下さい」というお返事をして、そのまま保留になっていました。それが、2年ほど前に「その後いかがですか?」という感じで再度声をかけていただいたんです。そのとき、ふと2025年には初めてパリでコレクションを発表してから10年が経つんだなと思ったんです。この10年の間にジュエリーだけでなくアパレルも手がけるようになり、さまざまな進化を遂げながら今に至っている。10年は一つのチャプターの区切りのような気もしたので、一度その変遷を俯瞰してみるのも面白いではないかという思いから、リリースを決めました。

FUNが凝縮した児童書のような一冊

初となるブランドブック『AMBUSH』(2025年3月4日発売/ハードカバー/英語, リッゾーリ インターナショナル パブリケーション社)
初となるブランドブック『AMBUSH』(2025年3月4日発売/ハードカバー/英語, リッゾーリ インターナショナル パブリケーション社)

──どのようなテーマやコンセプトの元、完成したのでしょうか?

児童書のような、子ども向けの本にしたいなというところからスタートしました。普通のブランドブックだとありきたりでつまらないですし、親子で揃って眺めたり、子どもが手にとってページをめくって楽しめるようなものがいいなと。当初はページを埋めるほどのアイテムがないのではないかと心配していたのですが、色々と集めだしたら皮肉なことにアイテムがありすぎて、全部を収録できなくなってしまったんです。もしこれまでのアーカイブをすべて掲載していたら、3冊の本が出来上がっていたと思います。パリでコレクションを発表したところから始まり、時系列で現在までの軌跡を辿る作りになっています。

──20個の円がくりぬかれた表紙には意味があるのでしょうか?

私たちは自分たちの表現をアンブッシュのユニバースと形容していて、例えばWEBサイトで自分たちの好きなアーティストやインスパイアされるモノを紹介する項目にも、同じ言葉を使っています。表紙の円は、そんなアンブッシュの宇宙に存在するさまざまな惑星をイメージしています。宇宙旅行を楽しむような感覚で本を楽しんで欲しいという思いから、こういうデザインにしました。アンブッシュは同じデザインや同じことを繰り返すようなブランドではないので、すべてのコレクションにユニークな物語がある。地球が火星と違うように、火星が冥王星と違うように、どのプロジェクトにも、どのコレクションにも、私たちの一部であるユニークで異なる物語と進化がある。それを表現した表紙になっています。大切な友人たちの言葉も掲載されていますし、ジュエリーに特化したページもあるので、この1冊があれば、私たちが取り組んだすべてを見ることができます。

2016年に発表されたHALBSTARKE(ハルプシュタルケ)コレクション。1950年代にドイツ、オーストリア、スイスなどで現れた一線を画すカルチャーを嗜好した少年達に焦点を当て、彼らが抱える世俗文化への野心を投影した。 Photo_ Amy Gwatkin
2016年に発表されたHALBSTARKE(ハルプシュタルケ)コレクション。1950年代にドイツ、オーストリア、スイスなどで現れた一線を画すカルチャーを嗜好した少年達に焦点を当て、彼らが抱える世俗文化への野心を投影した。 Photo: Amy Gwatkin

──グラフィックデザイナーとしてのバックグラウンドをお持ちですが、その経歴を存分に生かされていますか?

もちろんです。アイデア出しからクリエイティブに関するディレクションはすべて自分で手がけました。実際のレイアウトなどは、NYにいる友人で優れたグラフィックデザイナーのエリック・フーにお願いをして、色々と手伝ってもらいました。私自身、自分の作品に関係するものにはすべて関わりたいタイプなので、今回も一切の手抜きなく進めました。

レイヴカルチャーからインスピレーションを得た2023年春夏コレクション。 Photo_ Suzie & Leo
レイヴカルチャーからインスピレーションを得た2023年春夏コレクション。 Photo: Suzie & Leo

──過去のコレクションやクリエーションを遡ることで、蘇ってきた思い出があったら教えてください。

最初はものすごく不思議な気分でした。ファッションはいつでも次のシーズン、次のコレクション、次のストーリーと、常に先ばかり見ているので立ち止まることがないんです。それが、今回初めてゆっくりと過去を振り返る作業をすることで、この10年間いかに前だけを見て走ってきたかを実感しました。遊び心たっぷりのワクワクするようなモノをたくさん生み出してきたことにも、新鮮に驚いたりして。ただ、この振り返り作業のおかげで改めて自身のルーツに戻ろうという気持ちになり、2025年秋冬コレクションは「HOMECOMING(帰郷)」と題し、アーカイブを再構築し、そこに今を反映したコレクションを発表しました。例えばジュエリーにしても、若い子は、私たちが10年前に手がけていたものを知らないわけです。だから、私たちがどのようにしてジュエリーをスタートし、そこにどんなテクニックを要したかなど、自分たちのジュエリーをサンプリングするのにもちょうどいい時期だなと思ったんです。

2023年春夏コレクションで発表された猫耳ヘッドフォン。 Photo_ Suzie & Leo
2023年春夏コレクションで発表された猫耳ヘッドフォン。 Photo: Suzie & Leo

「手がけたコレクションすべてが私の“子どもたち”」

──「これは特別に心に残っている」というシーズンはアイテムはありますか?

すべてが私の子どもたちなので、一つというのは選べないですね。本当に毎シーズン、どのコレクションも全部違っていて、楽しくもあり、ちょっとカオスで多面的でもある。どのストーリーもユニークなので、本を手にした方も楽しく読み進められると思います。デザイナーにはさまざまなタイプの人がいると思います。ピアニストに例えるとしたら、クラシックを専門とする、テクニックと伝統をもって寸分も狂うことのないデザインをするような人もいる。でも、私はジャズのスタイルが好き。アドリブを入れたり、自由でルールに縛られないけど、根底にはしっかりとした旋律がある。今後もこのスタンスを維持したいなと思っています。それがアンブッシュだから。

〈右〉ブランド創立のきっかけになったアイコニックなジュエリー「POW!®」
〈右〉ブランド創立のきっかけになったアイコニックなジュエリー「POW!®」

──編集作業中にエモーショナルになるようなことありませんでしたか?

それよりもむしろ、「10年間よく頑張って駆け抜けたな」という思いのほうが強かったです。ブランドの立ち上げが2008年なので、キャリアとしては16年になりますが、 何かを始めてそれを今日まで継続するというのは簡単ではなく、多くの努力が必要です。同時期にブランドを手がけていた人の多くは、現在シーンから離れていたりします。私はいつでもデザイナーとして向学心と向上心を持ち続けたいと思っています。もし失敗をしたら再度学びなおせばいい。この10年で1,500点以上ものデザインをしていたなんて、正直自分でも驚きでしたから。

──常に学び続け、新しいものを生み出そうとするそのエネルギーはどこから来るのでしょうか?

自分に満足していないからだと思います。常に学ぶことはあるし、学ばなければいけないと思っています。ただ、面白いもので学習欲というのは、満たそうと頑張れば頑張るほど、余計に湧いてくるものなんです。人は学習し、成長を続けなければいけないと思いますが、もし自分のやっていることが退屈だと感じるようになったら、それは危険信号なのできちんと向き合う必要があると思います。私もデザインだけに縛られないように、色々な趣味をみつけて常に脳の配線を変えています。あるとき、仕事に忙殺されて疲労困憊し、「街に刺激がないから、こんなにつまらないんだ」と思ったことがあります。ただ、世界の中でも最も刺激的な街に住みながら、何を文句を言ってるのだと自分の考えを改め、文句を言う代わりにカメラを持って街の撮影を始めたんです。上手な写真を撮ろうとかではなく、単純にカメラを手に街を歩き回ることで、これまで気づかなかった景色や、見えていなかったものが見えてくる。それが成長なんです。私は常に旅をしていますが、実際に自分の目で見て、感じて、理解することが何よりも大事だと思います。インターネット越しに見る世界はすべてが正しいわけではないですから。世界は無限なので外に出て色んな人と出会い、クリエイティブな会話をすることが、私を満たしてくれる一番の燃料だと思います。

心に残るカール・ラガーフェルドの言葉

2017年、LVMHヤング・ファッションデザイナー賞のファイナリストに選出し、審査員を務めた故カール・ラガーフェルドと対面した。 Photo_ Getty Images
"Young Fashion Designer" : LVMH Prize 2017 Edition At Louis Vuitton Foundation In Paris2017年、LVMHヤング・ファッションデザイナー賞のファイナリストに選出し、審査員を務めた故カール・ラガーフェルドと対面した。 Photo: Getty Images

──ブランド設立後、最も嬉しかったことは?

以前はファッション誌で見るだけの存在だったデザイナーたちと実際に会ったり、肩を並べたりすることができるようになり、人によっては今や友だちだったりするのは嬉しいと同時に変な感じですよね(笑)。その中でも特に感慨深かったのが、2017年のLVMHプライズでファイナリストを選ぶセミ・ファイナルの審査です。候補者たちはそれぞれ小さなセクションに待機し、大勢の業界人たちが個々の作品を見てまわるのですが、その中にカール・ラガーフェルドの姿がありました。彼は一度私のブースの前を通り過ぎたのですが、すぐに戻ってきて20~30分ジュエリーを眺めて、「ものすごく面白い」「アイデアが素晴らしい」と褒めてくれんたんです。業界の生きる伝説で、自分が尊敬する人に良きフィードバックをもらえたことは、大きな喜びでした。

ブランドブック『AMBUSH』

発売日/2025年3月4日発売(ハードカバー、288p、英語)

出版社/リッゾーリ インターナショナル パブリケーション社

問い合わせ先/アンブッシュ® ワークショップ 03-6451-1410

https://www.ambushdesign.com/

Photos: Akihito Igarashi Interview: Rieko Shibazaki Editor: Mayumi Numao

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