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ヴィンテージの定義とは? アーカイブやアンティークとの違いや見分け方を解説

  • 2025.4.2
Collage with woman and plaster head

1979年、ファッション史研究家のアン・ホランダーは、その鋭い洞察力で水面下で進んでいた変化をとらえた。人々は何十年も前の衣服に興味を持ち始め、古い服への関心は高まる一方であることをUS版『VOGUE』に寄稿したエッセイ『Boom…In Vintage Clothes(原題)』で記し、ファッションを取り巻く文化が変化しつつあることを察知したのだ。

歴史的にファッションは、年月が経つにつれて価値を失うとされていたとホランダーは指摘。かつてはおしゃれに敏感な女性にとって、母親のクローゼットに眠っている衣服を着るのはあるまじきことで、「昔は、一度流行から外れた服は、トレンドに返り咲くことはなかった」と述べている。“時代遅れ”とみなされた服は、滑稽で仮装パーティーなどにのみにふさわしい“奇なるもの”に格下げされていたという。だが20世紀後半になると、状況は変わっていた。

大量生産、ハリウッドの影響、そして映像作品の普及が相まって、ファッションは不滅のものとなった。そしてホランダー曰く、私たちは「過去のスタイル、その究極形を独特な形で温存」するようになった。カメラの安定した描写力のおかげで、過去のファッションは当時の美しさのまま映像に収められ、それがまた魅力的に映り、次世代の人たちを惹きつけていたのだ。

そして時は流れ、2025年。ホランダーの観察はまさに予言のように感じられる。ヴィンテージはもはや単なるニッチな趣味ではなく、一大カルチャーだ。ミュグレーMUGLER)、アライアALAÏA)、ジャンポール・ゴルチエJEAN PAUL GAULTIER)のアーカイブピースがレッドカーペットの定番アイテムとなり、TikTokでは中古のリーバイスLEVI’S®)にディオールDIOR)の「サドル」バッグを取り上げたリールがZ世代を夢中にさせている。かつては「知る人ぞ知る」隠れたブティックや蚤の市でしか触れることのできなかったヴィンテージの世界は、今ではファーストディブス(1STDIBS)ヴェスティエール・コレクティブ(VESTIAIRE COLLECTIVE)ザ・リアルリアル(THE REALREAL)といった中古ブランド品のリセールサイトを通して、簡単に楽しめるようになった。ホランダーが予見していたように、「古い映画も古着も、今や一部の人が密かに偏愛するものではない。どちらも大衆に広く親しまれている、身近な趣味なのだ」

そしてヴィンテージファッションへの需要はとどまるところを知らず、サプライチェーンはそれに応えるべく急速に進化している。例えばパリのヴィンテージ・クチュール界の帝王、ディディエ・リュド(DIDIER LUDOT)は今年、パレ・ロワイヤルに構えていたアイコニックなブティックを畳んだ。ブティックの閉店は、ひとつの時代の終わりを合図するとともに、時勢を反映している。かつてはインサイダーの領域だったヴィンテージファッションは、今や誰もが求める、移り変わりが激しい分野となった。そのシーンのあり方と客層の変化に嘆き、リュドは店じまいを決意したという。

だが、“ヴィンテージ”というコンセプトにとらわれるあまり、本物のヴィンテージ品と一般的な古着の違いがわからなくなってしまうことがある。「ヴィンテージ」という言葉は、しばしば「アーカイブ」や「アンティーク」と同じ意味で使われるが、決定的な違いがある。海外ブランドのヴィンテージピースを見分けるのに特に役立つ、その定義は以下の通り。

「ヴィンテージ」「アンティーク」「アーカイブ」。その違いは?

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一般的には、「おおよそ20年以上から100年前に作られた服やアクセサリー」がヴィンテージと呼ばれている。つまり、今で言うと1920年代から2000年代初頭の間に製造されたものを指す。Y2K時代のローライズデニムにへそ出しタンクトップ、しなやかなスリップドレスもすべて、れっきとしたヴィンテージ品なのだ。そもそもカテゴリーとしては流動的で、時代を追うごとに“ヴィンテージ”とみなされる服は増えていく。

それに反して“アンティーク”は、100年以上前の衣服のみが該当する。すなわち、1915年のエドワード朝時代のティーガウンはアンティークだが、1935年に製作されたバイアスカットのイブニングドレスはヴィンテージだ。この違いは単に学術的なものではなく、現実的に今でも着られるか、着るとしたらどのように着られるかといった点をもとに区別される。

そして、最近ではトレンドワードにもなりつつある“アーカイブ”という言葉もある。“アーカイブピース”とは、デザイナーやブランドの過去のコレクションに登場した特定のアイテムを指す。一例をあげると、プラダPRADA)の2010-11年秋冬コレクションのルックは、過去のものではあるが、厳密に言うと年数的にはまだヴィンテージではない。アーカイブピースはすべて、いずれヴィンテージになるが、その逆はない。ほかにもコンサインメント、リセール、セカンドハンドといった言葉があるが、これらは服やアクセサリーそのものよりも、店の種類や販売形態を示す。

これらの微妙なニュアンスは、単なる雑学ではない。ニュアンスを知ることでファッションの歴史そのものをより深く理解でき、100年にわたってそれぞれのヴィンテージピースを形作ってきたデザイナー、アトリエ、着用者とのつながりを感じられるのだ。1950年代のシースドレスであれ、1990年代のジョン・ガリアーノJOHN GALLIANO)のガウンであれ、「ヴィンテージ」という言葉の意味を正しく理解し、アイテムの製造年代や価値を知ることは、服を着るというシンプルな行為をより豊かな体験にしてくれる。

ヴィンテージ品を区別する、5つの要素

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1. ファスナーの素材

ヴィンテージ玄人にもなると、ファスナーを見るだけでそのアイテムがヴィンテージか否かを簡単に見分けることができるという。1960年代後半までは金属製のジッパーが一般的で、通常サイドシームや背面に縫い付けられている。プラスチックやナイロン製のジッパーは1970年代から普及し、その頃から特に大量生産の衣料品に使われるようになった。ゴツゴツとした金属製のジッパーが付いているのであれば、1950年から60年代以前のアイテムである可能性が高い。

2. 品質表示ラベル

組成表示といった品質表示ラベルに記載されている情報も、ヴィンテージを見分けるヒントとなる。アメリカでは、1960年に米国連邦取引委員会(FTC)によって、服に使用されている繊維の種類と含有率を明記することが義務付けられた。もし衣服に素材名や混合率などの表示が一切ない場合は、表示が義務化される前のものである可能性が高い。また、ナイロン、ポリエステル、アセテートといった合成繊維が主流になり始めたのは第二次世界大戦後、特に1950年代から60年代にかけてのことで、それより前に製造された衣服はシルク、コットン、ウールといった天然繊維で作られているものが多い。

3. 国際婦人衣料労働組合ラベル

特にアメリカ製のヴィンテージ服を見分けるのに確実な手がかりとなるのが、国際婦人衣料労働組合ラベル(International Ladies Garment Workers' Union)のタグだ。タグのデザインは約10年ごとに変化しており、ネットに上がっているタグガイドと照らし合わせれば、生産時期を大幅に絞り込むことができる。

4. サイズと原産国

サイズのタグもまた、ヴィンテージ品を見分けるのに役立つ。1960年代のUS12は、現代のサイズ6に近い。これは、売上増のため,実際よりも小さめのサイズを表示する「バニティーサイジング」が何十年にもわたって着実に浸透した現れだ。原産国表示もグローバル化とともに変化し、1990年代以前は、ハイブランドのアイテムであっても「Made in USA」の文字が誇らしげにあしらわれていることがよくあった。

5. 服の構造と縫い目や裾のディテール

服自体の構造にもヒントが隠されている。裁ち目をのこぎりの歯形などのように切る“ピンキングシーム”は、1940年代から50年代にかけて一般的な縫い目で、オーバーロックが縫えるミシンが誕生する前の時代の服に見られる。そして手仕上げや重みをもたせた裾、複雑な裏地はすべて、職人の手仕事に重きが置かれていた時代に製作された服であることを示す。

ヴィンテージがかつてないほど手に入りやすい現代。そんな時代において、このような知識を身につけることは、究極のおしゃれだとも言える。

Text: Lilah Ramzi Adaptation: Anzu Kawano

From VOGUE.COM

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