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『べらぼう』に描かれる、人間の光と闇。悪徳高利貸し・鳥山検校の幸せをも願ってしまう、その理由とは【NHK大河『べらぼう』第13回】

  • 2025.4.3

*TOP画像/蔦重(横浜流星) 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」13話(3月30日放送)より(C)NHK

吉原で生まれ育ち、江戸のメディア王に成り上がった蔦重の人生を描いた、大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」(NHK総合)の第13話が3月30日に放送されました。40代50代働く女性の目線で毎話、作品の内容や時代背景を深掘り解説していきます。

 

蔦重は吉原にとってヒーローだが、別のだれかにとっては盗人同然

本放送は、蔦重(横浜流星)と喜三二(尾美とりのり)が本の構想を喜々と語り合うシーンから始まりました。本では吉原を国、女郎屋を郡に見立ててはどうかとユーモアあふれるアイデアを出し合っています。

 

*TOP画像/蔦重(横浜流星) 喜三二(尾美とりのり) 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」13話(3月30日放送)より(C)NHK

 

蔦重にツキがまわってきた一方、生活が検校の高利子によって一変した人たちの存在が…。鱗形屋の主人・孫兵衛(片岡愛之助)もその一人です。

 

孫兵衛(片岡愛之助) 蔦重(横浜流星)大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」13話(3月30日放送)より(C)NHK

 

蔦重は孫兵衛の近況を心配し、彼から細見を500冊買うことを試みました。しかし、孫兵衛は蔦重の心遣いを受け入れず、「そろそろ返してくんねえですか。うちから盗んだ商いを」と言い放ちました。

 

蔦重は孫兵衛からひどい仕打ちを一方的にされてきたにもかかわらず、この主人に手を差し伸べる聖人君主のようにも見えます。しかし、蔦重に悪意がないとはいえ、この男の存在が孫兵衛の商いの足を引っ張っているのも事実。さらに、蔦重は鱗形屋の衰退によってチャンスをつかみ、株を上げてもいるのです。蔦重自身もこれらを理解し、罪悪感を抱いているものの、板元から手を引くことはしません。孫兵衛やその家族が蔦重に恨みつらみを抱くのも分かるような気がします。

 

蔦重(横浜流星)大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」13話(3月30日放送)より(C)NHK

 

この世の中、みんなが幸せになれればいいし、成功できればいい。しかし、現実は残酷です。誰かが得をすれば別の誰かが損をすることはありますし、誰かの失敗によってチャンスを手にする人がいるのも事実です。

 

孫兵衛は鱗形屋の回復に苦労していたところ偽版の容疑を再度追及されました。今回の主犯は徳兵衛という下働きの男。彼は鱗形屋の証文が座頭に流れた件を主人には伝えず、偽版を陰で作ってしのいでいたのです。

 

孫兵衛の状況は徳兵衛の行為によりさらに悪化しました。とはいえ、孫兵衛のこの行為は青本で回復の兆しが見えてきた鱗形屋を守りたいという思いによるものです。孫兵衛には店の主として従業員にこうまでさせたいという魅力があるということでしょう。

 

私たち視聴者は孫兵衛が蔦重の足を引っ張ろうとひどい仕打ちをする姿を見てきましたが、本を愛し、従業員に責任をもっていることも知っています。

鳥山検校は繊細すぎる男なのかもしれない

源内(安田顕)が「本屋ってなぁ 随分と人にツキを与えられる商いだと 俺ゃ 思うけどね」と口にすると、蔦重は「本が運んでくれる幸せにゃ俺も覚えがあります」と答えていました。

 

瀬似(小芝風花)と一緒に朝顔(愛希れいか)に本を読んでもらった思い出も、瀬似と一冊の本に未来を託した日々も、蔦重を形成する要素となっています。

 

しかし、今回は、蔦重と瀬似は本によって困難な状況に追い込まれることになりました。目が見えなくても、人の心を読む力に長ける鳥山検校(市原隼人)は、瀬似の心が自分にないことに気づきます。

 

瀬似(小芝風花) 鳥山検校(市原隼人) 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」13話(3月30日放送)より(C)NHK

 

瀬似が蔦重と話すときと自分と話すときでは声色が違うことに気付き、彼女の心は自分ではなく、蔦重にあると考えたのです。瀬似がもつ本を調べさせ、これらの本はいずれも蔦重が携わったものであると知ると、自身の憶測に確信を得ました。

 

瀬似の本 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」13話(3月30日放送)より(C)NHK

 

怒り狂った鳥山検校は蔦重を屋敷に呼び寄せ、彼が話す内容によっては命を奪うことを決めました。瀬似は激昂する鳥山検校に自分の胸の内を伝えます。

 

「重三は わっちにとって光でありんした。あの男がおるならば 吉原に売られたことも悪いことばかりではない。[中略]けんど…分かっておるのでござりんす。主さんこそ わっちを この世の誰より大事にしてくださるお方であることは…。人の心を察し過ぎる 主さんを わっちのいちいちが傷つけているということも!」

 

瀬似のこれらの言葉は本心と解釈してよいでしょう。瀬似は蔦重が最愛の人であるものの、鳥山検校が自分に抱く愛情をありがたく受け取っています。誰よりも愛し、大切に思ってくれる彼に好意を抱いているだけでなく、最愛の人ではないことに申し訳なさも感じています。

 

鳥山検校は経済的に成功したものの、暗い闇の中で一人孤独に生きている男です。彼のまわりには人が大勢いるけれど、雇われた人たちや彼の権威にぶら下がる人ばかり…。

 

鳥山検校は人の心を察するのに長けていますが、それは彼の繊細さゆえなのかもしれません。多くの人たちから恐れられている存在であるものの、彼こそが誰よりも他者に対して疑心暗鬼であり、人を恐れているようにも見えます。

 

暗闇の中で視覚以外の感覚を絶え間なく働かせて生きてきた鳥山検校にとって、瀬似は“光”でした。鳥山検校は悪徳な高利貸しですが、誰かを一途に愛し、その人の幸せを自身の喜びとする心をもつ男でもあります。

 

本作には鳥山検校の悪どさ、彼に搾取された人たちの苦しみが描かれています。しかし、筆者は鳥山検校の幸せをそれでも願っています。

 

老中・意次(渡辺謙)は検校の高利貸しを問題視し、座頭金の実情を明らかにするために動き出しました。

 

意次(渡辺謙) 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」13話(3月30日放送)より(C)NHK

 

史実では鳥山検校は処罰の対象となり江戸を追放されたといわれていますが、本作ではどのように描かれるのでしょうか。

 

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