街路樹として見かけることが多いハナミズキは、近年シンボルツリーとして人気が高まっています。街路樹に選ばれるということは、強い生命力を持っている証で、放任してもよく育ってくれることを物語っています。この記事では、庭木としておすすめのハナミズキを深掘りして解説します。
ハナミズキの基本情報
植物名:ハナミズキ
学名: Cornus florida(Benthamidia florida)
英名:Flowerdogwood
和名:アメリカヤマボウシ
科名:ミズキ科
属名: サンシュユ属(ヤマボウシ属)
原産地:北米東部からメキシコ北東部
形態:落葉高木
ハナミズキは、ミズキ科サンシュユ属(ヤマボウシ属)の落葉高木です。原産地は北米東部〜メキシコ北東部で、寒さ、暑さともにやや弱い傾向にあります。最終樹形は8mにもなりますが、剪定によって樹高をコントロールすることができるので、一般家庭では4m以内におさめておくとよいでしょう。成長の速度はやや遅く、樹形も自然に整うので、メンテナンスしやすい樹木です。
ハナミズキの開花期は4月中旬〜5月中旬。花色は白、ピンク、赤があります。花弁に見える部分は苞で、じつはその真ん中に丸く集まったものが花の本体です。大変花つきがよく、開花期に満開になる様子は見応えがあるので、庭のシンボルツリーとして活躍します。
日本のハナミズキの歴史
1912年に東京市長が友好の印として、アメリカのワシントンD.C.に桜の苗木を贈った返礼に、アメリカからハナミズキが日本へ届けられたことが普及の始まりです。最初は白花が、その2年後に赤花が届いたとされています。その後広く親しまれ、花の美しい「ミズキ」として「ハナミズキ」と呼ばれるようになりました。漢字では「花水木」と書きます。
ハナミズキの花や葉、実の特徴
園芸分類:庭木・花木
開花時期:4月中旬~5月中旬
樹高:4〜10m
耐寒性:やや弱い
耐暑性:やや弱い
花色:赤、ピンク、白
ハナミズキは4月中旬から5月中旬にかけて花を咲かせ、同時期に葉も茂りはじめます。開花期が長めなので、花を十分に楽しめます。
赤やピンク、白の特徴的な花の形で知られるハナミズキですが、花弁に見える部分は実は「総苞片(そうほうへん)」と呼ばれる葉の一種。本来の花は総苞片の中央部分にある黄緑色の部位です。
花が咲き終わると、1cmほどの赤い小ぶりな実がつきます。秋には美しい紅葉の様子が見られるのも、ハナミズキの魅力の一つです。
ハナミズキの紅葉
ハナミズキは開花後に新緑が出て夏には緑陰をもたらし、秋が深まるとともに赤く紅葉します。「紅葉は高冷地ほど発色がよくなる」といわれますが、ハナミズキは温暖な地域でも鮮やかに紅葉してくれるのが特徴。開花期の春と紅葉の秋、2回の観賞期がある花木です。
ハナミズキの実
ハナミズキは、10月頃に艶やかな赤い実をつけます。小さな実が複数集まる姿は愛らしく、こちらも観賞価値があります。おいしそうにも見えますが、渋くて食べられたものではありません。毒はなく、鳥たちが食べにやってくるので、庭にいながらバードウォッチングを楽しめる一面も。鳥たちに実を食べてもらうことで、飛び去った移動先で落としたフンからタネが芽を出して繁殖するという生存戦略を持っています。
ハナミズキの名前の由来や花言葉
ハナミズキは、同じミズキ科のなかでもひときわ美しい花が咲くことから名付けられています。
1912年に東京からアメリカに桜を贈った返礼として、ハナミズキが日本に寄贈されました。このことから、「私の思いを受け取ってください」「返礼」「永続性」などの花言葉があります。
なお英語の花言葉には「永続性」を意味するdurabilityや、「逆境に耐える愛」を意味するlove undiminished by adversity、「私があなたに関心が無いとでも?」と問いかけるAm I indifferent to you? などがあります。
ハナミズキの代表的な品種
ハナミズキは人気の花木のため、品種改良が進んでさまざまな品種が出回っています。品種ごとに開花時期や花の大きさ・色などに違いがあるので、個性の違いを楽しめるでしょう。
清楚な白花で花つきがよく、最もポピュラーな品種は‘クラウドナイン’、苞が反り返って、まるで王冠のような咲き姿になる白花の‘フェアリークラウン’、濃い赤花で若木のうちからよく花を咲かせる‘レッドジャイアント’、赤花の大輪品種で大変華やかな‘チェロキーチーフ’、小型の矮性品種で樹形がコンパクトにまとまる‘レッドドワーフ’、赤花でやや遅咲きの‘レッドビューティー’などがあります。
また、ハナミズキとよく似たヤマボウシとの交配種‘ステラピンク‘は、5〜6月に淡いピンクの花を咲かせます。寒冷地でも育てやすく、うどん粉病にもかかりにくい丈夫さが特徴の品種です。
ハナミズキとヤマボウシの違い
ハナミズキとヤマボウシは同じミズキ科の植物なので、姿がよく似ています。しかし、花や葉、実の特徴に少しずつ違いがあり、見分けることはそれほど難しくありません。
ハナミズキの花(総苞片)は先端の中央部分が凹んだ特徴的な形をしているのに対し、ヤマボウシの花弁の先は尖っています。また、ハナミズキの開花期が4月中旬〜5月中旬ですが、ヤマボウシは5月~6月が開花期です。
なお、ハナミズキは開花と同時期もしくは少し後に葉が茂りはじめますが、ヤマボウシの葉は花よりも前についています。
ハナミズキとヤマボウシは実にも違いがあります。ハナミズキは1cmほどの小ぶりな赤い実をつけ、ヤマボウシは2〜3cm程度のオレンジ色・または赤色の実をつけます。ハナミズキの実は食べられませんが、ヤマボウシの実は食べられるのも、異なる点です。
ハナミズキの栽培12カ月カレンダー
開花時期:4月中旬〜5月中旬
植え付け・植え替え:12〜3月
肥料:5月中旬(鉢植え)、5月中旬〜6月上旬(庭植え)
種まき:3月頃
ハナミズキの栽培環境
日当たり・置き場所
ハナミズキを栽培するときは、日当たりのよい場所に置くことが基本です。
ただし、近年の日本では夏場の暑さがかなり厳しいため、強すぎる日差しで土壌が乾燥して、株がダメージを受けたり、葉焼けする可能性があります。
地植えの場合は、午前中だけ光が当たる場所がよいでしょう。西日が当たる場所はなるべく避けた上で、土壌の乾燥を防ぐバークチップなどのマルチング資材を使うのも方法です。
耐寒性・耐暑性
ハナミズキは耐寒性・耐暑性ともにやや弱い植物です。
地植えの場合は、北風が当たる場所や西日が強く当たる場所を避けて植えましょう。
鉢植えの場合は、夏は涼しい場所に移動し、乾燥に注意しながら管理します。冬場はあまり暖かい環境だと休眠が不十分になるため、日が当たらない涼しい場所に置くことがおすすめです。
ハナミズキの育て方のポイント
用土
【地植え】
植え付けの2〜3週間前に、直径、深さともに50cm程度の穴を掘りましょう。掘り上げた土に腐葉土や堆肥、緩効性肥料などをよく混ぜ込んで、再び植え穴に戻しておきます。粘土質や砂質、水はけの悪い土壌であれば、腐葉土や堆肥を多めに入れるとよいでしょう。土に肥料などを混ぜ込んだ後にしばらく時間をおくことで、分解が進んで熟成し、植え付け後の根張りがよくなります。
【鉢植え】
樹木用にブレンドされた培養土を利用すると手軽です。赤玉土(小粒)7、腐葉土3の割合でよく混ぜ、配合したオリジナル用土を用意してもよいでしょう。
水やり
【地植え】
植え付け後にしっかり根付いて茎葉をぐんぐん伸ばすようになるまでは、乾いたら水やりをしましょう。根づいた後は、地植えの場合は下から水が上がってくるので、ほとんど不要です。ただし、真夏に晴天が続いて乾燥が続く場合は水やりをして補いましょう。真夏は昼間に水やりすると水の温度が上がり株が弱ってしまうので、朝か夕方の涼しい時間帯に与えることが大切です。
【鉢植え】
日頃から水やりを忘れずに管理します。土の表面が乾いたら、鉢底から水が流れ出すまで、たっぷりと与えましょう。茎葉がややだらんと下がっていたら、水を欲しがっているサインです。植物が発するメッセージを逃さずに、きちんとキャッチしてあげることが、枯らさないポイント。特に真夏は高温によって乾燥しやすくなるため、朝夕2回の水やりを欠かさないように注意します。真夏は気温が上がっている昼間に水やりすると、水の温度が上がり株が弱ってしまうので、朝夕の涼しい時間帯に行うことが大切です。冬は休眠し、表土も乾きにくくなるので控えめに与えるとよいでしょう。
肥料
地植え、鉢植えともに開花が終わった5月中旬〜下旬頃に緩効性化成肥料を与え、土によくなじませます。たっぷりと花を咲かせてエネルギーを消耗した木に体力を回復させる目的で与える肥料なので、「お礼肥(おれいごえ)」といいます。「たくさん花を咲かせてくれてありがとう」という気持ちを込めて、肥料をあげてくださいね。
注意する病害虫
【病気】
ハナミズキがかかりやすい病気は、うどんこ病、白紋羽(しろもんぱ)病です。
うどんこ病は、発生すると葉の表面に白い粉が吹いたようなカビが見られます。光合成を阻害されたり、葉から養分を吸収されたりして、木の勢いがなくなり、見た目も悪くなります。放任してひどくなると枯れてしまうこともあるので注意。兆候が表れたら早期に殺菌剤などを散布して対処しましょう。乾燥する時期に発生しやすい傾向にあるので、水もち、水はけのよい土壌作りと、適切な水やりの管理が回避のカギです。窒素成分の多い肥料を与えすぎるのも、発症のきっかけになります。
白紋羽病は、発症すると、木全体の葉が縮れて枯れ込み、根や地際に近い樹皮に白灰色の菌糸束や菌糸膜が見つかります。手遅れになると枯死し、周囲に病気が蔓延するのを防ぐために、早めに抜き取って土ごと処分することも考えなければなりません。樹勢が弱ると発症する傾向にあるので、勢いのある健康な状態を保つことが大切です。
【害虫】
ハナミズキにつきやすい害虫は、アメリカシロヒトリ、コウモリガ、テッポウムシなどです。
アメリカシロヒトリは蛾の一種で、葉に卵を産みつけて孵化した毛虫が葉を食い荒らします。大発生することがあるので要注意。見つけ次第、適応する薬剤を散布して駆除します。
コウモリガは蛾の一種です。秋頃、地上に産卵されて越冬し、孵化した幼虫は雑草などを食べて育ちますが、成長すると樹木などへ移動し、幹や枝の中に侵入して食害します。食害が進むと、樹勢が弱って枯死することもあるほど。春以降、周辺に雑草がはびこらないように草取りをまめにしておくと予防になります。見つけたらエアゾールタイプの薬剤を穴から注入して駆除しましょう。
テッポウムシは、ゴマダラカミキリの幼虫です。成虫が幹などに産卵し、木の内部に入って食害します。幼虫は1〜2年にわたって木の内部を食害し、木は徐々に樹勢が弱り、枯死することも。木の周囲にオガクズが落ちていたら、内部にテッポウムシがいることが疑われます。発見次第、侵入したと見られる穴に薬剤を注入して駆除しましょう。
ハナミズキの詳しい育て方
苗の選び方
苗を購入する際は、樹形が美しく、しっかりとした苗木を選ぶとよいでしょう。
植え付け・植え替え
ハナミズキの植え付け適期は、休眠期の12〜3月です。
【地植え】
土づくりをしておいた場所に、苗の根鉢よりも一回り大きな穴を掘って植え付けます。しっかり根付くまでは支柱を立てて誘引し、倒伏を防ぐとよいでしょう。最後にたっぷりと水を与えます。
【鉢植え】
鉢で栽培する場合は、8〜10号鉢を準備します。用意した鉢の底穴に鉢底ネットを敷き、軽石を1〜2段分入れてから樹木用の培養土を半分くらいまで入れましょう。苗をポットから取り出して鉢に仮置きし、高さを決めます。水やりの際にすぐあふれ出すことのないように、土の量は鉢縁から2〜3cmほど下の高さまでを目安にし、ウォータースペースを取るとよいでしょう。土が鉢内までしっかり行き渡るように、割りばしなどでつつきながら培養土を足していきます。最後に、鉢底から流れ出すまで、十分に水を与えましょう。
剪定
ハナミズキの剪定の適期は、休眠期の12〜2月と、開花後の5月です。
休眠期に行う剪定は、樹形を整えるため。地際から立ち上がっている「ひこばえ」は、元から切り取ります。木の内側に向かって伸びている「逆さ枝」、垂直に立ち上がっている「立ち枝」、勢いよく伸びすぎている「徒長枝」も元から切り取ります。枝が込みすぎて日当たりや風通しが悪くなっている部分は、間引いて枝の数を少なくしましょう。「少し切りすぎたかも?」と思うくらいがちょうどよく、ハナミズキは春からどっと枝葉を伸ばして旺盛に茂ります。
開花後の5月に行う剪定は、充実した花芽をつくるため。込んでいる部分の枝を透かして、木の内側までまんべんなく光が差し込むように軽く剪定する程度にとどめましょう。枯れ枝や細い枝、樹形のバランスを崩している長い枝などを、元から切り取らずに、途中まで「切り戻す」程度に剪定します。太い枝の剪定は休眠期まで待ってから行いましょう。
増やし方
ここでは、ハナミズキの増やし方をご紹介します。いずれも植物の生命力に対して感動を覚える体験ができますよ! ただし、花を咲かせるまでには数年はかかることを覚えておきましょう。
【接ぎ木】
接ぎ木の適期は3月頃です。
接ぎ木は、台木と接ぎ穂の2本を用意し、それらを合体させて人為的に育成する方法です。台木は種まきから育てて2〜3年経った若木を、接ぎ穂は増やしたい品種の新芽が出て1〜2年の若い枝を切り取って使います。台木の地上部を地際近くまで深く切り取り、切り口の端に縦に切り込みを入れ、接ぎ穂を差し込んでビニールテープなどで固定します。湿度を保つために、小さな穴を複数あけたビニールを巻いて固定し、直射日光や雨が当たらない涼しい場所で管理しましょう。接ぎ穂から新芽が出て生育し始めたら、接ぎ木の成功です。
【種まき】
熟した実から果肉を取り除いてタネを採取します。そのまますぐ播いてもOK。よく水洗いをしたのち、園芸用培養土にタネを播きます。発芽まで乾燥しないように管理し、成長とともに鉢増ししながら育成します。
タネを保存する場合は、乾燥させないようにすることがポイント。キッチンペーパーを湿らせてタネを包み、冷蔵庫で保管しましょう。越年させた場合は3月頃にタネを播きます。
ハナミズキを育てるときの注意点
花木は、一度植え付けて根付いてしまえば、剪定以外のメンテナンスはほとんど不要です。しかし、環境などによって木が弱ってしまうポイントもいくつかあります。その弱点を把握しておけば、早期に対処することができるので、以下にまとめました。
ハナミズキは毒性がある
秋になるとハナミズキはつややかな赤い実をつけ、鳥たちのエサになります。しかし、実には毒性があり、人間が食べることはできません。ハナミズキよりも少し大きな実をつけるヤマボウシの実は食用できるので、混同しないように注意しましょう。
また、枝や葉を切る際に出る樹液が肌につくとかぶれることがあります。剪定の際には気をつけましょう。
ヤマボウシよりも寒さに弱い
ハナミズキは丈夫で育てやすく、栽培にさほど手間をかけなくても育つため、街路樹でもよく見かけます。しかし、近縁種のヤマボウシに比べると耐寒性がやや弱いので、寒冷地で栽培する場合は必要に応じて防寒対策をしなければなりません。
北海道中部あたりまでは、場所を選べば地植えも可能ですが、心配な場合は気温に応じて移動できるように鉢植えで育てるのがおすすめです。
隔年開花の傾向がある
可憐な花が人気のハナミズキですが、じつは隔年で開花する性質があります。そのため、前年にたくさんの花が咲くと、翌年は花の量が減るケースがあります。
毎年一定量の花を咲かせるためには、つきすぎた蕾を摘蕾(てきらい)して、花の数を調整するとよいでしょう。
また、日照りによる土壌の乾燥や栄養不足、樹齢が若すぎる場合にも花つきが悪くなることがあります。
ハナミズキは庭木におすすめ
ハナミズキは生育スピードがやや遅めで、樹形が整いやすいため、メンテナンスのしやすい庭木の一つです。開花、新緑、結実、紅葉、落葉と、表情を変えて四季の移ろいを告げてくれるのも魅力。シンボルツリーとして大人気のハナミズキを、ぜひ庭に植えてみてはいかがでしょうか。
Credit
文 / 3and garden
スリー・アンド・ガーデン/ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。