英語をスラスラ聞き取り、話すために必要な教材はどのようなものか。最速英語習得の専門家である川﨑あゆみさんは「英語をスムーズに聞き取れて、スラスラ話せるようになるには、まず大量のインプットが必要だ。そのことに異論がある人は少ないだろうが、英語学習者が認識している『インプット』と、言語学者の定義する『インプット』ではニュアンスに違いがある。そこを踏まえた教材選びをすべきだ」という――。
※本稿は、川﨑あゆみ『英語が日本語みたいに出てくる頭のつくり方』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。
英語学習の負のスパイラルに陥っていないか
「英語学習」というと、多くの人が、まずは英単語、文法、発音をしっかり身につけてから、その後で読むこと、聞くこと、書くこと、話すことの4つの技能を磨こうと考えます。そして、「積み上げていくうちに、そのうち自然と英語でコミュニケーションがとれるようになるに違いない」と期待します。
しかし、待てど暮らせど、「そのうち」は訪れません。そうこうしているうちに、「もしかして学習法が間違っている?」と疑問に思いはじめて不安になり、結局また別の方法を探してしまう――。
これが、私自身も経験した「英語学習の負のスパイラル」です。
インプットとアウトプットを分けて鍛える
英語学習の全体像を理解すると、英単語、文法、発音は知識でしかなく、インプットやアウトプットを通して使えるようになる練習が欠かせないことがわかります。
また、「○○だけやっていればいい」といった学習法も、「英語がスラスラ聞き取れる・話せる」ためには不十分だとわかります。
ピラミッド式の積み上げ学習ではなく、蜘蛛の巣のように満遍なく広がる英語学習の全体像を意識することで、何を優先的に学ぶべきかが明確になり、バランスのとれた英語力を身につけることができるのです。
では、具体的に英語学習の全体像を確認してみましょう。
英語のインプット(リスニングとリーディング)は、「英語を理解する力」です。アウトプット(スピーキングとライティング)は、「英語で表現する力」です。
会議や授業、日常などで英語をスムーズに聞き取れて、スラスラと話せるようになるためには、英語のインプットとアウトプットを分けて、鍛えていく必要があります。
まずは大量のインプットが必要
英語をスムーズに聞き取れて、スラスラ話せるようになるには、まず大量のインプットが必要です。理解できる英語に触れる量を増やせば増やすほど、英語力が向上することは多くの研究で証明されています。簡単な英語の文章であっても、インプットを続けることで「じぶん英語」(※)も更新されていきます。
このような「英語はインプットが大切」という主張に異論がある言語学者はいないでしょう。ただし、英語学習者が認識している「インプット」と、言語学者の定義する「インプット」ではニュアンスに違いがあります。この違いは非常に重要です。
※注釈:「中間言語」という概念を言い換えたもの。「中間言語」とは、第二言語を身につける際に、学習者が母語と英語(目標言語という)の間に作り上げる学習者独自の言語システムを指します。英語でも日本語でもない独自のルールを構築して目標言語を使いはじめます。この考え方は、アメリカの言語学者Larry Selinker(1972年)が提唱し、現在の第二言語習得研究で広く受け入れられている理論です。
「インプット」とは何を指すか
あなたは英語を学ぶ際に「インプット」として、日本語による解説にばかり触れていたりしませんか? たとえば、日本語で英文法を説明している動画を見たり、日本語による解説がメインの参考書で学習したりなど。じつは、それは「第二言語習得論」では正確にはインプットとはいいません。
英語習得におけるインプットとは、純粋に英語に触れることを指します。英語の教材であっても、日本語で解説しているものはインプットには含まれないのです。
たとえば、日本語の説明が9割で英語の例文が1割の書籍を1冊読んだ場合、その学習におけるインプットは1冊分ではなく英語の例文1割の量とみなされます。一方で、簡単な文章でも「英語のみ」で読んで理解した場合なら、インプットの量は10割になります。
ただし、これは必ずしも日本語に触れること自体を否定しているわけではありません。たとえば、「学習法などの概念」や「気づきづらい文法項目」を学ぶときなどは、日本語を通して明示的に学ぶほうが効率的、効果的なこともあります。
また、そもそも、英語のまま触れるなんて知識が足りないし無理だと思われるかもしれませんが、ご自身のレベルで理解できる簡単な英語からで大丈夫です。本書では、それぞれのレベルに合わせて英語を英語のまま触れられる方法を具体的にお伝えしますので、ご安心ください。
シャドーイングはアウトプットではない
英語学習における「アウトプット」とは、自分で文章を組み立てて、書いたり話したりすることです。
ここで注意してほしいのは、すでにある英文を読み上げる音読や、聞いた音を繰り返して話すシャドーイングはアウトプットとは呼ばない、ということです。なぜなら、そこには「自分で文章を組み立てる」という重要なステップが含まれていないからです。第二言語習得論的には、シャドーイングはむしろインプットです。アウトプットで重要視するのは、「自分」で文章を組み立てて書いたり、話したりすることができる力なのです。
さらに、アウトプットをすることによって、インプットの吸収力も高まります。たとえば、「childの複数形は何だったっけ?」「Subtleはサトルという発音だっけ?」というように、うろ覚えだった英単語を会話で使おうと思ったとき、疑問が湧くことがありますよね。この疑問が刺激となり、次にその英単語に出会うときに理解が深まるのです。
なんとなく知っている英単語も、アウトプットすることで、ニュアンスや使い方など、より細かいことに意識が向くようになり、その結果、自然と使いこなせる英単語に昇格していきます。
このことを料理でたとえるなら、最初はセロリという野菜の存在は知っているけれど、どうやって料理するのかわからないという状態だとします(なんとなく英単語を知っているレベル)。一度料理に使ってみることで、「こんな食材に合うな」「切り方はこうしたほうがいいな」など、食材としてセロリを使いこなす方法がわかってくるというイメージです(英単語の意味や使い方を理解して使いこなせるレベル)。
英語はアウトプットすることで、気づき、理解し、定着していきます。自分自身で気づくこともあれば、誰かから指摘されたり、相手に通じなかったことで「はっ!」と気づくこともあります。
インプットとアウトプットの相互作用
インプットとは、いわば、耳に入ってきた英語の音や目に映る英語の文字に、どんな意味があるのかをパッと理解することです。
ただ単語や文法を知っているだけではなく、その場でパッと瞬間的に「こういう意味だ」「こういう内容のことを言われている」と理解できるようになるまで練習を重ねます。会議や会話の場でも、英語ではなく、内容に集中できる状態を目指します。
インプットで得た英語の力をベースに、自分の伝えたい内容を瞬時に英語で表現するのがアウトプットであり、2つはつながっているのです。言葉に詰まることなく、即座に英語で表現できるようになるまで、インプットとアウトプットの練習を積み重ねるのが大切ということがわかるでしょう。
そして、「じぶん英語」もインプットとアウトプットを繰り返すことで育っていくのです。
本書の第3章では、スムーズに聞けるようになるためのインプットのための学び方を、第4章ではスラスラ話せるようになるためのアウトプットのための学び方を具体的に解説していきます。
学習のオンタイムとオフタイム
リスニングとスピーキングは、その場で反応するためオンタイムのスキルです。リーディングとライティングは、時間をかけてできるためオフタイムのスキルです。どちらも重要ですが、とくに「オンタイム」のスキルは瞬発力という点で難易度が高くなるため、基礎を固めたい方は「オフタイム」の学習をベースにじっくりと理解し、表現することを意識してみてください。
どのスキルにも共通して言えるのは、最終的に目指すのは、スムーズに使いこなせることです。単語や文法はあくまで知識であり、それを使える「能力」に変えるために練習するのです。
〈まとめ〉
英語習得は「インプット」と「アウトプット」を繰り返すことで促進される。
川﨑 あゆみ(かわさき・あゆみ)
英語講師
最速英語習得の専門家・グロバリ代表。講師歴10年以上、延べ5000名以上に英語を指導。英語力ゼロで、アメリカで自信を喪失した自身の経験から、日本人が英語を効率よく習得し英語でも人生でも成功できる方法を求め、10年以上かけて、独自の「グロバリメソッド」を開発。