婚活では、高年収・高学歴・高身長の男性に人気が集まる。主宰する結婚相談所でカウンセラーを務めている大屋優子さんは「相談に訪れた“ハイスペックな”男性は、すぐにでも結婚できそうな条件を兼ね備えていた。だが、婚活をするうちに化けの皮が剝がれ、私は散々な目に遭った。プロフィールや外見だけで結婚相手を選ばないほうがいい」という――。
※なお、本稿は個人が特定されないよう、相談者のエピソードには変更や修正を加えている。
“ハイスペ男性(34)”がやってきた
結婚相談所は、全国に数千ほどある。
結婚相談所とは、結婚カウンセラーと呼ばれる男女の間を取り持つ仲人が運営するもので、それぞれの結婚カウンセラーが数人~数百人の結婚したい会員たちをお世話し、ご縁を繋いでいくものだ。しかし、自分の結婚相談所内だけの紹介ではご縁繋ぎもごく限られたものになってしまう。
そのため、これら数千の結婚相談所はいずれかの連盟に加盟し、全国あるいは海外から登録している数万人の会員と、お見合いの機会を得て、交際をサポートし、結婚へと導いている。
結婚カウンセラーのアドバイスや考えはそれぞれ違っていたとしても、お見合いや交際、結婚の定義については、連盟を利用して婚活するすべての婚活者に対して同様のルールが絶対に必要である。その最たるものが、「婚前交渉禁止」の鉄の掟だ。
ある日、私の相談所に現れたのは、34歳、初婚、超一流大学卒、年収800万円、身長170cm、加えてイケメン男性。なぜこの男性が、独身なんだろう? 肉食女子たちにあっという間に狩られてしまいそうな申し分のない職業と平均よりかなり上の年収、お目目くりくりの旧ジャニーズ系のルックス。結婚相談所など利用しなくとも、言い寄る女性たちはたくさんいるであろうに……。
「婚前交渉は絶対禁止」というルールがある
彼の第一印象は、それ以外思いつかないほどに「結婚したいのに独身なのが不思議」レベルの男性。言葉使いも、身だしなみも素晴らしく、清潔感あふれる細身のブルーのスーツがとても似合う。ペラペラとおしゃべりするようなチャラいタイプではないが、会話のキャッチボールも過不足はない。結婚に焦っている感は、まったくなし。むしろ、結婚相談所に登録してまで、本気で結婚したいのか? と聞いてみた。
「いい人がいたらすぐにでも結婚したいです」
そう言うなら、もちろん喜んでお世話させていただきたいし、結婚カウンセラーとしては、自慢の一押し男性を会員として迎えたことになる。
どこの結婚相談所でも、入会時には婚活時の約束事をお伝えしている。この約束事はいくつもあるが、一例を挙げる。例えば、以下のようなものだ。
「どちらから申し込んだお見合いでも、成立したらお断りする場合には違約金が必要」
「お見合い時のお茶代は男性負担」
「成婚退会するまで婚前交渉は絶対に禁止」
特に大事な点はかなり強調して説明をしており、当然彼にも、これらのルールについては初回の面談で説明した。
「婚前交渉は絶対禁止です。お泊まり旅行ももちろん禁止です」
結婚相談所は“結婚”が目的である
この話をした時の彼の顔が一瞬曇ったように見えたが、結婚相手と結婚を決め、2人とも結婚の意志が固まっているという「成婚退会」になる状態までセックスを禁止されたら、誰だって嫌だろう。実際に、「マジすか? セックスの相性が悪かったらどうしてくれるんですか?」と食い下がる男性もいる。
だが、ここで婚前交渉禁止のルールについて会員と言い合ったところで、特別扱いもルールの改正も絶対ない。それが嫌なら、結婚相談所で婚活しなければ良いだけのこと。話はこれ以上でも以下でもないのだ。
確かに、そういう彼らの気持ちもわかる。普通に考えたら、結婚相手との婚前交渉禁止だなんて昭和初期じゃあるまいし……ありえないだろ~と思うのも無理はない。いまどき高校生だって、プラトニックラブを貫いているカップルのほうが少ないかもしれない。
ではこんな時代になぜ、結婚相談所では婚前交渉を禁止しているのか。
結婚相談所は、結婚を目的とする男女が真面目に婚活をしているところである。婚前交渉をすれば、女性にとっては妊娠や性病のリスクがあることはもちろん、身体を許すことによって男性を結婚相手としてふさわしいかを冷静に考えることができなくなり、盲目になってしまう可能性があるのだ。
逆に男性は、男女の性差によりセックスをしたことで満足してしまうことがある。達成感を味わい、相手と向き合わなくなる可能性もあるのだ。結婚相談所が婚前交渉自由という状態なら、結婚をチラつかせて、やりたい放題エッチができる“ヤリモク男性の巣窟”になってしまうかもしれない。
“すぐに結婚するだろう”と思っていたが…
そのようなことから、誠実に相手とお付き合いし、長い結婚生活を共に生きていける相手かを見極めていただくための聖地が結婚相談所。ゆえに婚前交渉を禁止している。もっと詳しく説明すると、結婚前提の真剣交際になればキスやハグはできる。それ以上は結婚を決めて退会するまでは、絶対にしてはならない。
結婚相談所は、プロポーズをし、答えがYESならばその時点で成婚料を支払い、「成婚退会」となる。成婚退会すれば、いつでも自由にセックスできる。
厳密に言えば、結婚相談所では婚前交渉禁止というよりは、婚前交渉があった場合には、双方が成婚料を支払い退会することになる。つまり、カップル2人が成婚退会費用を払う覚悟があるなら、セックスしても良いことになる。
さて、彼の婚活は約束事もしっかり理解いただき、順調に滑り出した。何しろ、ハイスペックイケメン。次から次へとお見合い申し込みのメールが鳴りやまない。「これはもうあっという間に成婚退会だろう」と、ウキウキしながら毎日お見合いを取り次ぐ。なにしろこの時の私は、彼の婚活は順調そのものだと思っていたのだから。
男性の“化けの皮”がはがれ始めた
当時、お見合いを申し込まれた数はゆうに200件を超えていた。彼がその中から、吟味に吟味を重ねてお見合いを受けていくのは、大卒以上の美人のみ。さらに言うと、相手の両親の学歴もチェックしており、両親も大学を出ているかどうかまで気にしていた(結婚相談所で見られるプロフィールには、両親の年齢や学歴、職業も記載されている)。
少し気になったので彼に聞いてみると、「うちの両親は大卒なんで、相手とのバランスを考えると」と返ってきた。お見合い結婚だから、相手の家柄を考慮することは悪いことではない。
彼のお見合いが始まった。通常、お見合いはホテルのラウンジで行われる。どこのホテルにするかは申し込みを受けた側が決められるので、彼に場所の選択権が与えられた。彼が希望するエリアをヒアリングし、予約できるホテルラウンジは予約しながら進めるのだが、彼のわがままには振り回されまくった。
お見合い開始当初は、初めて訪れるホテルも多いため、素直に彼は指定の場所に行ってくれていた。だが、慣れてくると、そこからはクレームの嵐だった。
「●●ホテルは混みすぎてるからイヤ」
「●●ホテルのケーキセットはまずいからイヤ」
「●●ホテルは、駅から遠いからイヤ」
「●●ホテルはコーヒーが高いからイヤ」
“ハイスペなのに独身”の理由がわかった
ホテルのラウンジを予約するには、ケーキセットの予約がマストだから仕方がないことを説明したが、土日はどこのラウンジも混んでいるのは当然。
せっかく空いていそうなホテルを探したのに「遠い」と文句を言いだした挙句に「このお見合いのお茶代って、毎回2人分オトコが払うんですかね?」とまで言い出す始末。
「お見合いの茶代は男性が2人分支払いをすることはルールと最初に説明しましたよね?」
「はい、聞いてますが、向こうが会いたいとお見合い申し込んできてるんだから、女性が払うべきではないですかね?」
いやいや、ここで連盟で決められたルールについての議論をしても何の意味もないでしょうが!
そして、お見合い後は、次から次へとお断りしまくる。その数10人以上。
「写真と別人のブスだった」
「育ちが悪そう」
「洋服のセンスが悪かった」
「歯並びが悪かった」
「Fラン大学だった」
などがお断りの理由だった。
なりを潜めていた彼の性格が顕著に現れてきたのだ。これらの彼の言動から、このスペックで独身なのはさもあろうと、納得する気持ちがどんどん膨らんでいった。
性格があまりにも悪すぎた
彼が勤務している一流企業には、正社員の女性たちだけでなく派遣社員の女性たちもたくさんいるはずで、彼のルックスなら秒殺で誰かに狙いを定められ、狩られているはずだと思った私の第一印象は誤っていた。
何しろ性格が悪すぎる。このレベルの性格の悪さは、私の人生の中でもトップ5にはランクインしてくる。さすがに、この性格の悪い男とは、誰もが結婚したくないに違いない。同じ職場なら彼の悪評はとどろいているであろうし、「結婚したくない男ナンバーワン」と言われているんじゃないかと勝手に想像した。
お見合い相手をブスだの、育ちが悪いだのこき下ろしてとにかく気分が悪かった。「大学のレベルがFラン? 確かにあなたは、Sランクの大学を卒業し、Sランクの企業に就職したかもしれないが、性格がFランクなんだよっ!」と言いたい気持ちをぐっとこらえた。むしろ彼がお断りしてきた女性たちに、「残念がる必要はないですよ」「それで良かったんですよ」と伝えたいくらいであった。
私も当初は、彼に対して「結婚とはこのようなもので、このような相手と結婚するのが良いですよ」とか、「お見合いの1時間では相手の人柄もわかりませんから、もう一度会ってみてはどうですか?」などのアドバイスを懇切丁寧にしていた。
“超美人の資産家の娘”に出会って豹変
しかしそのたびに彼に小馬鹿にされたような、奥歯がひきつった笑いを浮かべられ、「そんな保証はどこにもないですよね」「何を根拠におっしゃってますか」「結婚して苦労するのは僕ですから」など、次から次へと否定される。もう勝手にしやがれ! と叫びたくなったのは言うまでもない。
そんな彼が、ある日豹変した。2歳年下の、超美人のお嬢さまとのお見合いを境に、である。
お相手のお父様は医者で、かなりの資産家のように見受けられた。お見合いしたお嬢さまは世間ずれしていない印象で、どこかのアイドルと言っても過言ではないほどの美しさ。肌も髪もツヤツヤ。彼によると、その上、性格もめちゃくちゃ良いのだという。
この彼女と仮交際になり、彼は私のアドバイスにも耳を傾けるようになる。
今度のデート先の食事はどこがいいですかね? 女性はどんなものをプレゼントしたら喜びますか? などの相談も積極的にしてくるようになった。“Fランの性格”は雲隠れし、なんだ意外といいやつかも……と束の間の安堵を感じた。
彼女のほうもハンサムな彼に夢中のようで、このままいけば結婚になるかもしれないと思っているところで、彼は爆弾を投下してきた。
「身体の相性を確かめたい」と一歩も引かなかった
「やっぱり身体の相性を確かめてからでないと結婚はできません。彼女と旅行に行きたいです」
出た!
鉄の掟破り発言だ!
「婚前交渉禁止のルールは最初からお伝えしている通りです。しかもまだ仮交際中です。なにがあってもそれはなりませんっ」
「体の相性が良い女性なら、もっとかわいいと思えます。今まで付き合ってきた女性も、1回エッチして、こりゃだめだと別れたこともあります」
それならなおさらダメに決まっている。何を根拠に“エッチがダメ”と判断したのか聞きたくもないし、あなたがただセックスが下手だっただけかもしれないだろうと心の中で思ったが、グッとこらえた。
彼は、彼女との旅行に行きたい、まずは身体の相性を確かめたいと一歩も引かない。当然ながら、こちらも一歩も引かない。ああ言えばこう言う口達者な彼は、婚前交渉の必要性について、時間の無駄でしかない議論を繰り広げてくる。そして、言わずもがな私との関係、縁談そのものも決裂した。
ルールがあるから、安心して相手を探せる
その数日後、先方カウンセラーから交際終了の連絡が入った。理由は、彼から旅行のお誘いがあったからとのことで、「そちらの相談所では、会員に指導していないのか!」と先方カウンセラーからこっぴどく私はお叱りを受け、土下座の勢いでお詫びをした。
相手の女性は資産家の生まれで、性格はピュア。芸能人顔負けのルックスのお嬢さまとの縁談は水の泡となった。だが、これは彼の行動に起因した結果であり、自業自得以外の何者でもない。
身体の相性が大事で、それを確かめなければ結婚はできないと考えるならば、結婚相談所以外の場所で相手を探すべきなのだ。こういう考えの男性は結婚相談所の婚活は向いていない。いや、向いていないのではなく、ルールがある結婚相談所で婚活してはならないのだ。
「婚前交渉禁止」という鉄の掟があるからこそ、会員が安心して、真剣に結婚相手を探せるのが結婚相談所なのである。
大屋 優子(おおや・ゆうこ)
結婚カウンセラー
1964年生まれ、株式会社ロックビレッジ取締役。ウエディングに特化した広告代理店を30年以上経営のかたわら、婚活サロンを主宰。世話好き結婚カウンセラーとして奔走。著書に『余計なお世話いたします 半年以内に結婚できる20のルール』(集英社)がある。