目上の人に聞きづらい質問をする際はどうずればよいのか。フリーアナウンサーの田中知子さんは「相手を気遣うあまり的を射ない聞き方をしてしまうと質問の意図が伝わらず、かえって困らせてしまう。上の立場の人であればあるほど、厳しい質問には慣れているので、相手の懐の深さに『お願いします』と甘えていけばいい」という――。
※本稿は、田中知子『口下手さんでも大丈夫 本音を引き出す聞き方』(かんき出版)の一部を再編集したものです。
「伝えているつもり」では伝わらない
質問するとき、普段からどういうところに意識をおいていますか?
「相手にしっかり伝わっているかな」と、様子をうかがいながら気配りができれば、間の取り方やスピードなど聞き方は自然と変わってきます。しかし、こちらが聞きたいように聞いてしまっては、とたんに相手は答えにくくなってしまいます。営業時代によく上司から「伝える」と「伝わる」は違うぞと言われていました。こちらから「一方的に伝えたつもり」では相手がキャッチできません。相手への思いやりのない聞き方では言葉を発しているだけ。「伝えているつもり」になっているのです。
相手に「余白」を与えているか
コツは「余白を持たせた質問ができているか」です。
余白とは、話を聞いた相手が、聞いたことからイメージして考える余裕のこと。人は話を聞いても考える時間がないと理解につながりません。
絵も余白があると、見ている人にその余白の部分のイメージをゆだねられます。たとえば、白いキャンバスに野原が広がり、ぽつんと家が立っていて、空がえがかれているとします。その絵をただながめたり、どこかで見た自分の原風景と重ねたり見方はその人それぞれ自由。その絵にえがかれている以外のことも感じられるのではないでしょうか。作品の一部として余白を楽しみ、想像することで完成する。
もしそれがキャンバスいっぱいに大きな家がえがかれていたらどうでしょう。その絵から想像は広がりづらいと思いませんか。
テレビもそう。次から次に映像が展開されるとついていけません。たとえば懐かしい自分の故郷の映像が流れる。すると「あぁ、去年の夏以来帰ってないな」「次はいつ帰ろうかな」というような想いが出てくるとします。でも、それを感じる間もなくすぐ次の映像に切り替わったらその一瞬を思い出すこともできなくなってしまいます。
質問も同じ。質問を投げかけたら相手が考える余白、間が必要です。
受け取る相手が、考える余裕を持った質問ができるかが大事。ついつい自分本位にあれもこれもと話しすぎて、自分の言葉で埋めすぎないようにしてくださいね。
聞き上手は質問を「言いすぎない」
聞き上手さんは相手本位、聞き下手さんは自分本位。私もそうならないように気をつけています。聞き下手さんの例をあげます。
「年賀状って毎年書くのが面倒で、去年は結局年末までかかってつくったんだよ。手書きで書くのは大変、でも実際もらうとうれしいし、今年はどうしようかなって悩んでてさ。Aさんは毎年年賀状ってもらうとうれしい? 今年はどうしようかなって思っていてさ。結構時間取られて大変なんだよね。住所の管理とかさ、いろいろ考えるだけで気持ちが上がらない。なんかいい方法ないかな?」
このように聞かれたらどうでしょう? こちらの知りたいことを詰め込みすぎていると渋滞して相手が答えづらくなりますよね。相手は他者が言った情報の3割程度しか受け取れないもの、と考えるとうまくいきます。「こちらが言いすぎない」ことに気をつける。質問にもがまんが大切です。
「年賀状って毎年つくるの面倒だけど、実際もらうとうれしいものなんだよね。毎年どうしている?」
こうすると相手にゆだねる部分が出て、受け取る相手が答えやすい投げかけになります。相手に心地よく聞いて話してもらうために、「息継ぎタイム」をつくること。
絵も余白、テレビも余白、相手にとって考える余白が必要です。シンプルに質問して、「どうぞ」と相手にパスする。その間をとってみるだけでも違いますよ。
気をつかうと最後の釘が刺せない
当時、全日本学生新体操選手権大会で15連覇中だった、無敵の強さを誇る青森大学男子新体操部を取材したことがあります。
当時の監督は男子新体操界のレジェンド、中田吉光さん。チームを優勝に導く名将で、たたずまいに威厳があり、多くを語らないシブさがあります。徹底した完璧主義ゆえに、見えている現実とゴールの差を厳しく指導することも垣間見えました。
また、実技の完成度だけを指導するのではなく、「チームとして何が大事か」「一人一人の役割」など、心の在り方も指導されます。まるで現代の武士道。監督が発するひと言で空気がピリッとする、そんなときもありました。
そんな雰囲気をかもし出している監督にカジュアルに話しかけるのは簡単ではありません。臆病な私は、この張り詰めた空気から質問しづらく気づかうばかりに長ったらしい聞き方をしてしまいました。
「いやー、連戦連破の王者の貫禄が見えます。練習ひとつから完成度の高さをうかがえます。素人目ながら、次の大会も優勝は間違いないような気がしますがいかがでしょう。主将もチームを引っ張って活気あふれていますし。例年と比べたらどうでしょうか」
まるで質問になっていません。聞きたいことを聞けずに気づかいと質問がぐるぐる回っていて最後の釘が刺せていない。
そういう聞き方ばかりしていたので、結局、監督からも「ああそうですね」「その通りだよ」くらいの答えしか返ってこなかったのです。「もっと質問のしかたがあったんじゃないかな」「取材者として失格だ」と反省した経験があります。当時はどのように聞いたらよいか、要領を得ていなかったのです。
聞きにくい質問こそストレートに聞く
「ニュースシブ5時」でディレクターをして1年目、番組プロデューサーから
「田中の質問のしかたって本質を得てないよね」
とグサッとくることを指摘されたことがあります。相手の表情を気にするあまり、相手に同調するような聞き方しかできず、「結局、何を聞きたいの?」とよくわからなくさせていました。たとえば、会見でも質問者の質問が長くて答える人が聞き返すことありますよね。そうなってしまってはダメです。質問した瞬間に、相手が答えを浮かべられるくらいじゃないと。質問は簡潔にしないといい答えは返ってきません。聞きにくい質問こそ短くする。監督に聞くときは、
「今回の大会も連覇がかかっていますが、実際のところ自信のほどはどうですか?」
って、パンって聞けばよいのです。聞きづらいことこそ、パンパン聞けるようになったのもこういう経験からです。
監督は威厳があり厳しい印象もありますが選手思いのとても優しいハートフルな一面も存じています。取材の経験上、横綱、幕内力士、著名人など、超一流の方ほど人格者で気さく、実は物腰やわらかなんだと感じています。
こちらが相手のお名前や経歴、凄さを知っていると尻込んでしまいそうになりますが、「聞きづらい」という雰囲気にのまれてはいけません。実はストレートに聞いたほうがスムーズにコミュニケーションができるのです。どんな質問でも「愛と敬意」を忘れなければ大丈夫。その想いは言葉足らずでも相手に伝わるはずです。
また、上の立場であればあるほど、厳しい質問、鋭い質問には慣れていらっしゃるので変に気をつかわなくても大丈夫。こちらがぐるぐる考えるのではなく相手の懐の深さに「お願いします」と甘えていけばいいのです。
「愛と敬意を持ってストレートに聞く」。相手が目上の方であってもこのことを忘れなければ大丈夫です。
ポジティブな言葉を添えて質問する
次の質問、どちらが受け手として気分よく話しやすいでしょうか?
A「営業マンからアナウンサーになったきっかけ、何度も同じ質問を受けていると思います。恐縮ですが、教えてください」
B「営業マンからアナウンサーになったところが一番面白いと思ったんです。きっかけがどうしても知りたくて! 教えてください」
Aは「何度も聞かれている質問ですみません」、と聞くこと自体に申し訳なさを感じています。Bは「一番面白い」や「そこが知りたい」とポジティブな言葉がついていて、純粋に興味があり聞きたいという気持ちや熱量が伝わってきて答えたくなります。先ほどの青森大学の中田監督への聞き方を添削してみると……、
「今日の練習を見ていて、調子よくていけるんじゃないかなと思いました。連覇の自信のほどはどうですか?」
ポジティブな言葉を前につけた上でストレートに聞く。すると「いやいや、そう言ってもらってうれしいんだけど、まだまだなんですよ」と言うかもしれないし、「そういうふうに見てもらえてうれしいです。今回、自信あるんですよ」と答えてもらえたかもしれないです。
聞くのはハード情報ではなく「想い」
私がインタビューをするときに「自分の心が動く聞き方」をしているかどうかを大切にしています。調べたらわかること、メールであとで確認すればいいこと、「連勝数」などのハード情報は本人に聞くことではありません。せっかく本人が目の前にいるのにそれだけで時間を使うのはもったいない。
聞きたいのは調べてもわからない「想い」のところ。本人に聞く意味はそこにあるのです。想いを聞くには「なぜそう思ったのか」「やってみてどう思ったのか」というように「質問をする自分の心が動く」質問をするようにしています。
振り返ると営業のころ、すぐに「すみません」と言う後輩がいました。後輩がある資料を探していたので渡してあげると「すみません」と言うので、
「悪いことをしているわけじゃないんだから、『すみません』って言う必要ないよ。『ありがとう』におきかえたほうが相手はいいと思うよ」
と伝えたことがあります。たったひと言で受け手の印象がグンと変わるので、ぜひプラスの言葉を添えて聞いてみてください。
田中 知子(たなか・ともこ)
コミュニケーション講師
フリーアナウンサー。大相撲愛好家。コミュニケーション講師。株式会社ちゃんこえ代表取締役。通称「たなとも」。リクルート求人広告営業から31歳でNHKキャスターに転身。NHK大相撲取材から学んだ独自メソッド「金星コミュニケーション」を講演しながら、「人と話すって楽しい!」「勇気を出して挑戦すると道が開ける!」を伝えることをミッションとして全国を飛び回っている。