日本には、噴火が警戒されている火山がいくつもあります。火山が噴火する仕組み、火山活動と地震の関連、被害への備え方などを、わかりやすく紹介します。
火山噴火の仕組み
地球の内側には高温の核があり、その外側にはマントルという岩石の層があります。マントルの一部が溶けだしてマグマとなり、地表に噴出するのが噴火です。水蒸気や、火山ガスなどが噴出することもあります。
地球の表面はいくつかのプレートで覆われていて、プレートとプレートの境界にある海溝付近は、火山活動が活発な場所です。
その理由の一つは、プレートの境界から地中に入り込む水にあります。
海側のプレートが陸側のプレートの下に引き込まれるときに、地下に入り込んだ水の影響でマントルが溶けだして、マグマができます。
ドロドロとした高温のマグマには、水やガスが溶け込んでいます。地表近くのマグマだまりに集まると、外側の岩石に触れている部分の温度が下がり、一部が冷えて固まります。マグマの中に溶け出していた水やガスは、残りのマグマの中に濃縮されていき、溶けきらない分がふつふつとした気泡になって地上まで上がってきて、炭酸飲料の栓を開けたように噴き出します。
海溝沿いには、このようにして噴出した火山が海溝と平行に分布している帯状のエリアがあります。海溝側の境界をつないだ線を「火山フロント」といい、日本の活火山のほとんどは、この火山フロントの近くにあります
日本の活火山の数
活火山とは「おおむね過去1万年以内に噴火したことのある火山及び現在活発な噴火活動を行っている火山」と定義されています。
1950年ころまでは、現在活動していない火山のことを「休火山」または「死火山」と呼んでいました。
しかし、火山学の発展により、火山活動の寿命は人の歴史よりも長いことが明らかになっています。たとえ数百年、数千年と噴火していない火山でも、今後噴火する可能性がないとはいえません。
世界には約1500の活火山がありますが、そのうち111の活火山が日本に集中しています。さらにその中の50の活火山は、今後100年程度の間に噴火の可能性があるとして、気象庁が24時間体制で監視しています。
地震と火山の関係性
火山性地震とは、火山とその周辺で発生する地震です。火山活動が活性化しているときに発生することが多く、地中のマグマや熱水の動きと関連して起こると考えられています。
火山が噴火したときに発生する火山性地震のことを、爆発地震ともいいます。空気中の圧力が急激に変化し、大気が振動する空振(くうしん)が起こって、建物や車の窓ガラスが割れることもあります。
日本はプレートの境界に近く、地震の多い国です。
プレートの境界では、陸側のプレートの下に海側のプレートが、年に数センチずつ沈みこんでいます。そのときに陸側のプレートも地下にひっぱられて、ひずみが発生します。ひずみが一定のレベルを超えると、プレートが元に戻ろうとして跳ね返ります。これが、プレートの境界で発生する地震の仕組みです。
このプレートの境界で発生する地震と、火山活動との関連も指摘されています。
南海トラフと富士山噴火の関係
南海トラフ地震とは、富士山の南側に位置する静岡県の駿河湾沖から、九州の日向灘沖にかけてのプレート境界を震源とする地震です。
南海トラフでは過去に約100~150年の間隔で、繰り返し大地震が発生しています。前回の南海トラフ地震から約80年が過ぎ、次の大地震がいつ発生してもおかしくないと警戒されています。
1707年(宝永4年)10月28日に発生した南海トラフ地震では、49日後の12月16日に富士山が大噴火をしています。そのため、今後の南海トラフ地震発生に伴って、富士山が噴火する恐れも指摘されています。
御嶽山では火山性地震が発生(2025年1月)
長野県と岐阜県にまたがる御嶽山では、2024年12月中旬から、山頂付近の直下を震源とする、微小な火山性地震の発生頻度がやや高い状態が続いています。
2025年1月には、噴火警戒レベル1の「活火山であることに留意」から、噴火警戒レベル2の「火口周辺規制」へと引き上げられました。
御嶽山への登山を計画している人は、最新の火山活動の状況を確認し、危険な地域には立ち入らないよう注意してください。
火山噴火による被害
火山が噴火したときには、火砕流、噴石など様々な災害が発生する可能性があります。火山灰が風にのって飛散し、遠くはなれた場所まで被害が及ぶこともあります。
降灰・噴石
火山の噴火にともなって火口から放出される固体の中で、直径2mm未満のものを火山灰と呼びます。顕微鏡でみると、固くとがった鉱物のかけらが含まれています。
降灰が呼吸器や目に入ると健康を害する恐れがあるほか、農作物などに付着すると生育不良の原因となります。また、住宅や交通にも被害をもたらします。
噴石は、火山が噴火したときに火口から勢いよく飛んでくる岩石です。火口付近では、直径が20~30cm以上もある大きな噴石が、弾道を描いて飛んでくることがあります。
また、直径数cmほどの小さな噴石は、風にのって遠くまで飛ぶことがあります。
火砕流
火砕流は、火口から噴出した石や灰などの固体と、火山ガスなどの気体が混ざり合って、地表に沿って押し寄せる現象です。
そのスピードは時速100km以上ととても速く、熱さは数百℃にものぼることがあり、通り道を焼き尽くします。
火山ガス
火山ガスとは、火山活動の影響で地表に噴出する高温のガスです。
主な成分は水、二酸化硫黄、硫化水素、二酸化炭素などで、人体に有害な物質が含まれていることもあります。
火山泥流・土石流
火口から噴出した石や灰などの固体と水が混ざり合って、地表を流れる現象を火山泥流といいます。
火口から熱水が噴出する場合や、火口付近にある湖や池が噴火によって押し流される場合、雨水と火山灰などが混ざり合うことなどがあり、発生の要因はさまざまです。
土石流とは、水と土砂が斜面に沿って流れることで、火山の噴火が落ち着いてからも続くことがあります。火山泥流、土石流ともに、時速は数十kmにのぼることがあります。
融雪型火山泥流
冬の積雪時に火山が噴火して、溶岩流や火砕流が火山を覆っていた雪を溶かし、火山泥流となって地表を流れるのが融雪型火山泥流です。
時速は数十kmにのぼることがあり、谷や川に沿って遠くまで到達する恐れがあります。
火山噴火による人体への影響
火砕流は猛スピードで斜面を下り、流れ出した先にある家や車を焼き尽くしていきます。
スピードがとても速いため、気がついてから逃げたのでは間に合わず、人が巻き込まれると命を落とす危険が高くなります。
1991年に発生した雲仙・普賢岳の大火砕流では、消防団や警察官、報道関係者など43人が犠牲となりました。
2014年に発生した御嶽山の噴火では、水蒸気爆発による大きな噴石が山頂付近にいた登山者を襲い、死者58名、行方不明者5名にのぼる大災害となりました。小さな噴石でも、砲弾のように勢いよく飛んでくるため、ぶつかると危険です。
火山ガスを吸い込むことによる呼吸器の損傷、ガス中毒にも注意が必要です。2000年に発生した三宅島の噴火では、火山ガスが噴出され続け、全島避難指示が4年以上も続きました。
また、火山灰は広範囲に被害を及ぼす恐れがあります。1707年に富士山が噴火したときには、火山灰が風にのって江戸の町まで降り注いだという記録があります。
吸い込むと気管支や肺を傷つける恐れがあり、とくに喘息など呼吸器の疾患がある人は注意が必要です。目に入ると角膜が傷つくこともあります。こすらず、水で洗い流すようにしてください。
火山噴火による飛行機や車、家電などへの影響
火山の噴火は、ライフラインにも大きな影響を及ぼします。降灰が多いと、昼間でも外は暗くなり、視界が悪化することがあります。
降灰の影響で公共交通機関がストップすることも少なくありません。特に航空機は、わずかな降灰でも運休となります。
雨などの水分を含んだ火山灰はとても重たく、降り積もった灰で家が壊れたり、電線が切れたりすることがあります。火山灰が浄水施設に降り注ぎ、水質が悪化する恐れもあるので、停電や断水にも注意が必要です。
建物の中に入り込んだ火山灰によって、パソコンなどの精密機器が故障する恐れもあります。
火山噴火への備えとは
噴石や火砕流はスピードがとても速く、噴火に気がついてから避難をしたのでは逃げ切れない恐れがあります。火山の近くに住んでいる人は、日ごろから噴火警報を確認し、警報のレベルに応じて、早めの避難を心がけてください。
登山などのレジャーで山を訪れる人も、噴火警報を確認し、危険な場所には近づかないようにしましょう。
入山の前に登山届を提出し、家族にも登山の予定を知らせておくことも大切です。
近くにある活火山の状況を知る
気象庁のサイトなどで、近くにある活火山の「噴火警報レベル」を確認しましょう。
火山灰が降る範囲と、降る灰の量を知らせてくれる「降灰予報」は、噴火前、噴火直後、噴火後の状況に応じて、「運転や外出を控える」、「外出時には傘やマスク等で防護」など、取るべき行動を具体的に知らせてくれます。
降灰に備えて防災グッズを準備する
降灰に備えて用意しておきたいのは、次のような防災グッズです。
・マスク
火山灰は粒子がとても小さく、鋭くとがっているので、吸い込むと呼吸器を傷つけます。マスクを着用するなどして、鼻と口から火山灰を吸い込まないようにしましょう。
・ゴーグル
火山灰が目に入ると、角膜を傷つける恐れがあります。コンタクトレンズは外し、ゴーグルを着用して目を守りましょう。
・傘
外出時には、降ってくる火山灰を避けるために、傘をさしましょう。
・レインウェア
火山灰が衣服や肌につかないよう、外出時に服の上から着用しましょう。
・除雪スコップ
玄関先などに降り積もった火山灰を取り除くために使います。
・車のカバー
火山灰の細かな粒子で、車に傷がつくことがあります。すぐに車を使う予定がないのであれば、カバーをかけておきましょう。
その他
・水と食料
・懐中電灯
・携帯ラジオ
・カセットコンロ
など
降灰の影響で停電や断水が発生する恐れがあります。また、降灰が多いと昼間でも暗くなります。水と食料、懐中電灯などの基本的な防災グッズも忘れずに用意しておきましょう。
ポータブルバッテリーがあると、停電時でも冷蔵庫や電子レンジ、電気ポットなどの家電製品を使うことができます。
外出するときは火山灰への備えを万全に
降灰があるときは、不要不急の外出は避けたほうがよいでしょう。
やむを得ず外出するときは、マスクやゴーグルを着用して、呼吸器と目を守ることが大切です。服の上にレインウェアを着用したり、傘をさしたりして、火山灰が肌や衣服に付着するのを防ぎましょう。
電車やバス、航空機などは、運休になることがあります。車を運転する人は、昼間でもライトをつけて、徐行運転をするなど、安全にいっそうの注意をしてください。降灰が多いときは、運転を控えましょう。
まとめ
日本は世界でも有数の火山大国です。普段は登山客などでにぎわっている山であっても、噴火の恐れがあるということを忘れないようにしましょう。
家の近くに活火山がある人は、日頃から噴火警戒レベルを確認し、停電などに備えて防災グッズを用意しておきましょう。
<執筆者プロフィル>
山見美穂子
フリーライター
岩手県釜石市生まれ。幼いころ両親から聞いた「津波てんでんこ」の場所は、高台の神社でした。