今は元気な親や家族が、いつ介護のお世話になるか知れません。
突然やってきてもあわてない! 何事も知っておけば安心です。相談窓口から心構え、お金のことまで基本的なことを解説します。
教えてくれたのは・・・
介護・暮らしジャーナリスト
太田差惠子先生
「遠距離介護」「仕事と介護の両立」などの視点から、さまざまな情報を発信する。『親の入院・介護ですぐやること・考えること・お金のこと』(翔泳社)ほか、著書多数。
親が元気なうちに介護関連の情報収集を!
ある日突然始まる親の介護。ふだんの仕事や家事と、親への責任の板挟みになり、冷静に判断をするのは難しくなることも。
「介護が必要になったからと、『仕事を辞めて付き添う』とか『急いで介護施設を探して入居させなければ』と早々に決めてしまう人がいますが、それがいい結果につながらない場合もあります」と、長年、介護の取材に携わってきた太田差惠子さん。
介護は先が見通せないもの。ましてや、大人世代は、自分や夫の老後も間近に見えています。仕事を辞めると自分の老後の経済的不安や、介護一色の生活で体調を崩すこともあるのです。
「介護保険やサービスをはじめ介護関連の制度など情報収集することです。例えば介護保険では申請をして、要支援・要介護の認定を受けると、要介護度によってさまざまなサービスが受けられます。また、入院中の場合すぐに家に帰るのではなく、転院先を探す方法もあるので、その間にどういう態勢で介護するか考えるのをおすすめします」。
まさかの時にあわてないために、介護保険の制度のこと、お金のこと、介護と向き合う心構えについて、考えてみましょう。
【介護の駆け込み寺!】 まずは「地域包括支援センター」へ相談を
介護を始める人がまず行きたいのが、地域包括支援センター。
社会福祉士や保健師、主任ケアマネジャーなどが常駐し、介護に関する情報提供や手続きを手伝ってくれます。
☑︎ 今から介護準備や介護サービスを利用したい
☑︎ 近頃言動がおかしい、認知症かも!?
☑︎ 突然の入院で寝たきりの不安が
こんな困ったに専門家が応じます
⚫︎ 介護保険や保健・福祉サービスの紹介、利用手続きの援助
⚫︎ 介護をしている家族への支援
⚫︎ 認知症などの高齢者が「成年後見制度」を利用する手続きの援助
⚫︎ 高齢者への虐待に関する相談
⚫︎ 介護予防事業の紹介
相談・情報提供は無料。
電話での相談も受けつけてくれるので、気軽に問い合わせを。
事前に相談内容をまとめておくとスムーズ。
介護サービスの手続きのサポートなど頼りになる機関
親の介護、どうすれば?
そんな時にまずアプローチする場所が、自治体が設置する「地域包括支援センター」(名称は自治体により異なる)です。
ここは、介護保険のサービスの紹介や利用手続きの手伝い、高齢者を介護する家族への援助などの相談ができる窓口です。
ヘルパーさんってどうすれば利用できるの?という質問や、介護保険の申請をしたいけれどよくわからない、介護施設に関する情報が欲しいなど、なんでも相談ができます。
また、介護保険の申請に、親本人が行くのが難しく、子どもも遠方に住んでいる場合は、同センターに代行してもらうことも可能です。
おおむね中学校の校区にひとつの割合でセンターがあり、住所によって管轄するセンターが違うので親が住む自治体のHPなどで確認を。
入院中で、退院後に介護の心配がある場合は・・・ 「医療ソーシャルワーカー」が頼りに
病気やけがで親が入院し、退院後の自立が難しいという場合も多数あります。
その場合は、病院内にいる医療ソーシャルワーカーに相談を。
転院を希望する場合の病院や老人保健施設などの紹介、退院後の療養生活の準備、入院費のことなど、幅広く相談に乗ってくれます。
医療ソーシャルワーカーがいない場合、医師や看護師に遠慮なく相談しましょう。
介護保険のサービスを受けるためには?
介護が必要な人が無条件にサービスを受けられるわけではなく、「支援や介護が必要な状態」の認定を受ける手続きが必要です。
1か月程度かかるので、早めの動き出しが肝心です。「要介護認定」までの流れ
サービスは65歳以上から家族または本人が申請
介護保険の申請を行うと、数日後に認定調査員の訪問を受けます。
74項目の聞き取り調査と主治医の意見書などをもとに、どのくらいの介護を必要とする状態かの審査・判定が行われます。
認定結果がでるまで申請から1か月程度かかります。① 要介護認定の申請
② 要介護認定の訪問調査
③ 認定(介護サービス利用開始)
④ ケアプランの作成
認定調査で聞かれること(74項目の一例)
⚫︎ 両足で10秒立てますか
⚫︎ 座った状態から立ち上がれますか
⚫︎ 約1m先のものが見えますか
⚫︎ 普通の声が聞こえますか
⚫︎ 自分で歯磨きをしていますか
⚫︎ 自分でズボンの履き替えをしていますか
⚫︎ 1週間にどのくらい外出していますか
⚫︎ 自分の生年月日や年齢を言えますか
⚫︎ 今の季節がわかりますか
⚫︎ 自分でお金の管理をしていますか
⚫︎ 日常の買い物をしますか
….など
【親の介護】備えあれば憂いなし!知っておけば安心の各種サービスを紹介
みんなが入っている介護保険
介護が必要になった人を、社会全体が支える仕組みが介護保険制度です。
40歳になると国民みんなが介護保険に加入し、健康保険と一緒に月々の保険料を納めています。
介護保険のサービスを受けられるのは、原則65歳以上(65歳未満で一部疾患の人は適用)。
65歳になると、被保険者証が郵送されてきます。
介護保険には、さまざまなサービスがあり、「要介護認定」で、支援や介護が必要だと認定されると、これらのサービスを利用することができます。
介護が必要な親の要介護認定を受ける
要介護認定を受けるには、本人が住む自治体の窓口に、本人または家族による介護の申請が必要です。
申請を受けて、市区町村の職員が自宅を訪問し、認定のための聞き取り調査を行います。かかりつけ医によって、健康状態についての「意見書」も作成されます。
調査の内容を受けて、原則30日以内に要介護度が決定されます。
要介護認定の方法は全国一律で、本人の健康状態だけではなく、家族や住まいの環境などもこまかく質問されます。
「親世代は遠慮やプライドもあり、できないことでも『できます』『問題ありません』と答えてしまうことがありますが、それでは正しく認定されません。
認定調査には、必ず家族も付き添いましょう」。
ケアマネジャーが「ケアプラン」を立てる
要介護認定を受けたら、どういったサービスをどれだけ利用するかを決める「ケアプラン」が作成されます。要支援の場合は、原則、地域包括支援センターでケアプランを作成してもらいます。要介護の場合は、ケアマネジャーと呼ばれる専門職に依頼します。
ケアマネジャーは、サービス事業者や施設との連絡調整、利用料の管理も行ってくれる、頼れる存在です。
ケアマネジャーを自分たちで探して契約する必要があるので、かかりつけの病院の関連事業所や近所の事業所に連絡を。面談して話しやすそうだと思ったら契約します。
ケアマネジャーは途中で変更もできます。
要介護度には、要支援1~要介護5までの7段階がある
要介護度は、日常生活の能力が基本的にはある要支援1から、介護なしには日常生活が営めず意思伝達も困難な要介護5まで、要支援1、2+要介護1~5の7段階があります。
認定調査の時に、何に困っているか、どんな介助をうけているか正確に伝えないと、軽い段階に認定されてサービスが十分に受けられないことに。
要介護度によって受けられるサービスの幅が異なる
認定された要介護度に応じて、サービスの利用に対する給付額の上限が定められています。
サービスを利用した場合、自己負担割合は、所得によって1割~3割と定められています。支給限度額を超えた分は全額自己負担となります。
施設への入居などは急いで考えない
遠方に住む親が要介護になった場合、すぐに施設での介護を検討する人もいます。しかし、親の人生なので、本人の意思をしっかり確認することが大切です。
健康状態が変わるかもしれないので、在宅でリハビリしながら、施設への入居についてゆっくり話し合うのも一案です。
認定されれば手厚い!介護保険のサービス
在宅なら、ホームヘルパーの訪問を受けたり、デイサービスに通って入浴やリハビリをしたり。
介護用具のレンタルや購入ができるなどさまざまなサービスが。
訪問介護やデイサービスなど組み合わせて活用を
介護保険で受けられるサービスはさまざま。
在宅で介護を受ける人は、ホームヘルパーの訪問を受けて、食事、排泄、入浴などの介助が受けられるほか、理学療法士などによるリハビリ指導も受けられます。
デイサービスセンターという日帰りの施設もあり、入浴や食事、機能訓練などを受けることもできます。
こちらは、ワゴン車などで利用者宅を巡回して、自宅まで送迎してくれるサービスで、朝8時半ごろに迎えに来て、夕方16時過ぎに送ってくれるというスタイルが一般的です。
ショートステイという宿泊サービスを利用すれば、介護する人の負担を軽減できるかもしれません。
介護ベッドのレンタルや、転倒防止のために自宅の段差を撤去したり、手すりを付けるなどの改修をするための補助も出ます。
介護で仕事を休みたいときは? 「介護休業制度」を活用しよう
介護離職を防ぐために、家族の介護が必要になった人がとれる
のが、介護休業。パートや派遣社員を含めたほぼすべての労働者がとれるもので、対象家族一人につき、通算で93日まで(3回まで分割可能)の休業を取得できます。
家族の範囲は、親や配偶者はもちろん、配偶者の親・祖父母・兄弟姉妹も含み、2週間以上、常時介護が必要な状態というのが基準です。
「介護休業は、法律で決められた制度なので、就業規則になくても、労働者が申し出たら企業側は拒否できません」。
介護休業中は無給となるケースが多いですが、93日間は雇用保険から「介護休業給付金」として給料の67%が支給されます。
遠距離介護、交通費の出費が痛い! 航空会社の割引制度をチェック
遠距離の親を介護する場合は、そのたびの交通費が痛い出費に。
全日空、日本航空など一部の航空会社では、介護による帰省をする際の割引運賃を設定しています。
前もって予定が立っている場合は早期割引、急な帰省は、介護のための割引と使い分けるのもいいでしょう。
「割引サービスを利用しても、交通費は大きな負担になります。交通費も介護の経費と考えて、分担方法を親やほかの兄弟と相談することが大切です」。
*割引率などは各社HPなどで確認ください
家族間のコミュニケーションが大切! 介護でストレスにならないために
介護は「マネジメント」
「親の介護というと、入浴やトイレ、食事の世話と思いがち。しかし、ケアを家族だけで担うのは大変ですし、プロに任せた方がうまくいく場合もあります。もっと広い意味で、家族にしかできない介護があります」(太田さん)。
例えば、通院に付き添って病状を聞く、介護サービスの内容をケアマネジャーと相談する。別居していても、親の様子を見に行ったり、電話することもあるでしょう。
また、親の経済状況を確認することも大切な役割です。
そう考えると、介護も一種のマネジメントと考えられます。離れていたり、仕事があってつきっきりの介護ができない人も、「親の世話を自分で見ないなんて……」と落ち込まずに、マネジメントも介護の形と考えれば、できることがあるはずです。
食事や排泄の介助なんて無理……と考える男性でも、いろんな人に連絡したり、介護の方針を決めるマネジメントなら、むしろ得意かもしれません。
家族間で「キーパーソン」を決める
親の介護にあたり、大切になるのがキーパーソンです。
親本人の意向を聞き、家族間の意見を調整する役割を担います。
例えば要介護者の家族が、ひとりは施設入所を希望し、別のひとりは在宅での介護がいいと言ったら、ケアマネジャーは誰の意見を聞いたらいいか戸惑います。
そんなとき、キーパーソンが本人に代わって窓口になって対応するのです。ほかにケアマネジャーと介護プランを決定したり、何かあった時の、緊急連絡先にもなります。
キーパーソンは必ずしも、親の近くにいる人がベストとは限りません。意見をまとめたり、交渉上手な人がいいので、男性にも向いています。
親が介護サービスの利用を拒否したら?
介護を子どもが抱え込まないためには、介護サービスを利用することが大切。
でも、当事者である親が「他人を家にいれたくない」「介護は家族がするもの」と考えていて、介護サービスを受けることをかたくなに拒否する場合があります。
「そんな時は、感情的になると、親子喧嘩で消耗するだけです。これもマネジメントのひとつとして客観的になって。取引先と接するときのように親の意見を聞きながら交渉しましょう」
説得法ですが、子どもの話は聞かない親でも第三者の意見には耳を傾ける傾向があります。
かかりつけの医師から介護保険の申請を勧めたらすんなり同意したというケースも多いそう。
ホームヘルプサービスに抵抗がある場合は、まず、訪問看護サービスの利用から提案すると、受け入れやすくなる場合もあります。
親を呼び寄せての介護は、うまくいく?
介護のために、遠方にいる親を呼び寄せたい人もいるでしょう。ただ、多くの親は住み慣れた家を離れたがりません。
義理の家族に気を使って窮屈な思いをしたり、家族が仕事に出ている間に一人きりになるのも心配です。
ご近所さんや友人もいる、住み慣れた環境にいて介護サービスを受けて暮らすほうがよい場合もあるので、よく相談を。
きょうだいで仲たがいひとりっ子の方がラク!?
法律上、親に対する扶養義務は、長男、長女の区別はなく、同居の子だけに世話をする義務があるわけではありません。でも現実は、誰かに負担が偏ったり、意見が対立することも。「ひとりっ子のほうが、介護の方針を決めやすくてラク、という意見もあるくらいです。それぞれの環境の違い、親への思いの温度差もあるので、話し合いで解決することが大切です。
子どもと親とどっちが大切?
出産年齢の高齢化が進み、子どもがまだ手のかかる年齢なのに、親の介護がスタートしてしまうという問題も増えています。
介護と育児どちらをとるか悩んだ場合は、介護はサービスなどを活用し、育児を優先することをおすすめしています。
病院は長居できない
医療保険の制度上、ケガや病気で入院する「急性期病院」は、通常、長期間入院することができません。
もっと長くリハビリを受けてから退院させたい場合は、医療ソーシャルワーカーに相談を。回復期リハビリテーション病院や、介護保険を利用できる老人保健施設などの、転院先探しを手伝ってくれます。
離れて暮らす親の健康チェック
親の多くは、子に心配をかけたくないため、具合が悪くても知らせないことが多いもの。親と話していて「あれ?」と思うことがあれば、メモをとって。
メモがたまって異変が感じられる場合は、地域包括支援センターに相談したり、受診の検討を勧めること。
また、保険証やお薬手帳の場所を共有してもらうなど、日ごろのコミュニケーションを大切にしましょう。
イラスト/丹下京子 文/田中絵真
大人のおしゃれ手帖2025年3月号より抜粋
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