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薬学部教授が解説! 花粉症の「眠くならない市販薬」の選び方

  • 2025.3.28
【薬学部教授が解説】花粉症薬の多くは「抗ヒスタミン薬」で、副作用としてしばしば眠気を引き起こします。眠くなる薬・眠くならない薬の違いと、選び方のポイント、薬学的に見た注意点を、分かりやすく解説します。

花粉症の症状を軽くしてくれる薬。多くの種類がありますが、「飲むと眠くなる」と感じる方は少なくないようです。処方薬をもらうときに薬剤師から「眠くなりやすいので車の運転など気を付けてください」とアドバイスされたり、市販薬のパッケージに「眠くなりにくい」と書かれているのを見かけたりすると思います。

花粉症の薬を飲むと、なぜ眠たくなるのでしょうか。また、「眠くなる薬」と「眠くなりにくい薬」は何が違うのでしょうか。花粉症と眠気の関係、上手な薬の選び方を分かりやすく解説します。

花粉症の抗ヒスタミン薬で眠気が起こるのはなぜか

「眠気」は脳の働きと深く関係しています。私たちの脳の中には、脳の活動を維持しようとする「覚醒中枢」と、脳を休ませようとする「睡眠中枢」があり、そのバランスによって覚醒と睡眠が切り替わります。眠気が生じるのは、「覚醒中枢」の働きが低下しているときか、「睡眠中枢」の働きが強くなっているときです。

花粉症の市販薬にはさまざまなタイプがありますが、多くは「抗ヒスタミン薬」です。抗ヒスタミン薬は、鼻水やくしゃみなどのアレルギー症状を引き起こす「ヒスタミン」という物質の作用を抑えることができます。口から飲んだ「抗ヒスタミン薬」は胃や腸へ運ばれ、体内に吸収されて血液中に入り、全身へと回ります。成分が鼻に到達すると、鼻水などのアレルギー症状を起こしているヒスタミンの邪魔をして、症状が出にくいように効果を発揮してくれるというしくみです。

しかし、薬の一部が脳に到達してしまうと、脳におけるヒスタミンの働きも邪魔されてしまいます。実はヒスタミンは、脳内の覚醒物質でもあり、脳の活動を高める働きがあるのです。そのため、脳におけるヒスタミンの働きが邪魔されると、眠気が生じてしまいます。

眠くなりにくい花粉症薬は? 市販薬一覧と選び方のポイント

薬が「脳に到達する・しない」を分けている、重要な体のしくみがあります。血流に乗った薬が末梢から頭のほうへと運ばれたとしても、頭蓋内に張り巡らされた血管の壁を薬が通り抜けなければ、脳の神経系には作用できません。脳は大切な臓器ですから、この血管の壁は特別なつくりになっていて、そう簡単には血液中から脳実質内には物質が移動できないように守られています。

専門的な言葉では、「血液脳関門(Blood-Brain Barrier; BBB)」と呼ばれるものです。BBBを通りやすい抗ヒスタミン薬は、脳の神経系に作用して眠気を生じますが、BBBを通りにくい抗ヒスタミン薬は、脳の神経系に到達せず、眠気を生じません。

市販されている花粉症の飲み薬で「眠気を生じにくい」とされる代表的な製品を挙げます。それぞれ()内に記しているのが、BBBを通りにくい抗ヒスタミン薬です。また、どれも1日1~2回の服用で効果が長く続くという特徴もあります。

・アレジオン(有効成分:エピナスチン、1日1回服用)
・新コンタック鼻炎Z(有効成分:セチリジン、1日1回服用)
・アレグラFX(有効成分:フェキソフェナジン、1日2回服用)
・アレルビ(有効成分:フェキソフェナジン、1日2回服用)
・クラリチンEX(有効成分:ロラタジン、1日1回服用)
・タリオンAR(有効成分:ベポタスチン、1日2回服用)

多くの製品がありますが、どれが一番効くのか悩む必要はあまりありません。効果はほぼ同等ですので、好みで選んでいいでしょう。もし過去に病院を受診していて、自分にはよく効いたという覚えがある有効成分を含んだ製品があれば、それを選んでもいいでしょうし、極端な話、CMに出ている俳優さんのファンだから、という理由で選んでもよいのです。どうしても迷うときは、薬剤師さんに相談してください。

「眠くならない」ことは重要か? 覚えておきたい3つの理由

ただし、薬の専門家として、「眠くならない」ということに必ずしもこだわる必要はないというアドバイスもしておきたいと思います。理由は3つです。

第一に、いくらパッケージに「眠くならない」とか「眠くなりにくい」と書かれていても、眠くなることはあるからです。それほどはっきりと薬ごとに「眠くなる・ならない」が白黒はっきり分かれているわけではないですし、当たり前ですが、寝不足だったりすると、服薬とは関係なく日中に眠くなることはあります。

第二に、そもそも花粉症の症状が出ているときは、服薬とは関係なく、眠気を感じやすいからです。アレルギー症状が出ているときは、体の免疫細胞たちが一生懸命働いて、異物である花粉などを排除しようと戦っており、そのために多くのエネルギーが消耗されます。一日中、鼻水をかんだりくしゃみをしたりすることでも、相当の体力を使います。体がだるくなり、自ずと休めようとすることで、眠くなります。ですので、眠くなりにくい成分の薬を使っても、薬が十分効いていないときは眠気が生じて、薬の副作用と勘違いしてしまうこともあります。

第三に、眠くなることは決して悪いことではないからです。もちろん、車の運転や危険を伴う作業をするときの眠気は危険ですが、就寝前に薬を飲めば、よく眠れて体力が回復しやすくなります。適切なタイミングを考えれば、眠くなることはメリットと考えることもできます。

最後にもう1つ補足しておくと、目のかゆみを防ぐには、点眼薬を使うことをお勧めします。眼にさした薬は、飲み薬のように体内に吸収されて全身を巡ることはありません。ほとんどが眼に作用するだけです。つまり、飲んだ場合に眠気を生じやすい薬でも、点眼した場合は脳に到達せず眠気は生じないことも知っておきましょう。

阿部 和穂プロフィール

薬学博士・大学薬学部教授。東京大学薬学部卒業後、同大学院薬学系研究科修士課程修了。東京大学薬学部助手、米国ソーク研究所博士研究員等を経て、現在は武蔵野大学薬学部教授として教鞭をとる。専門である脳科学・医薬分野に関し、新聞・雑誌への寄稿、生涯学習講座や市民大学での講演などを通じ、幅広く情報発信を行っている。

文:阿部 和穂(脳科学者・医薬研究者)

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