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だから「広島の洋服店」が「世界のユニクロ」になれた…ユニクロが「定番の普段着」ばかりを売る合理的な理由

  • 2025.3.27

決断や選択を迫られると、いつもと同じものを選んでしまうのはなぜなのか。『世界は行動経済学でできている』(アスコム)を書いた橋本之克さんは「人は“自分を傷つけないように”考えてしまう傾向がある。その心理を戦略的に使っているアパレル企業がある」という――。(第6回)

※写真はイメージです
人間は「合理的な判断」ができない

学生時代に好きな人ができると、すぐに告白する友人がいました。失敗も恐れずに告白する姿に、こんな質問をしたことがあります。

「告白して、フラれたらショックが大きすぎるんじゃない? なんですぐに告白できるの?」

すると、友人はこう答えました。

「僕みたいにモテない人の場合、告白しなければ、好きな人と付き合える確率はほぼ0%。でも告白すれば、それが20%にも30%にもなる。合理的に考えれば、告白しない理由はないよね」

この回答を聞いて、なるほどと思いました。確かに、告白するほうが付き合える確率が上がるのであれば、合理的な判断と言えます。でも、人はそんなに簡単に好きな人に告白ができないですよね。世の中の人はどのくらい告白をするのかが気になり、アンケートデータを調べてみました。ある調査によると、好きな人に告白したことがある人の割合は約6割、残りの4割の人は告白をしたことがまったくないそうです。

一方、同じ調査で面白い結果も出ていました。告白経験者のうち半数以上が「これまでの告白成功率は5割以上」と回答しているのです。なんと、半数の人は約2回に1回は成功しているということです! 告白することの成功率はかなり高いにもかかわらず、約4割は一度もしたことがないのは、なぜでしょうか。ここに「合理的な判断ができない」という、人間の特性が出ています。

メニュー選びにも「後悔の回避」が作用している

私たちは、何かの決断や選択をするとき、いろいろな感情や思い込みが合理的な判断を押し退けてしまい、行動を誤ってしまうことがあります(これこそが行動経済学の本質ですね)。告白して、もし失敗してしまったら……。心が傷つく、恥ずかしい、相手との関係が悪化してしまうかもしれない。そんな「やらなきゃ良かった」という後悔のリスクを負うくらいなら、何もしないほうがいいと考えてしまうのです。

この現象を、行動経済学では「後悔の回避」と呼んでいます。やりたいことがあるのに、なかなかできずにいる人には、この心理が働いているかもしれません。「後悔の回避」は、日々の選択や決断にも影響を与えています。

例えば、「ランチでいつも同じメニューを頼んでしまう」「新商品よりも、ずっと使っている商品を選んでしまう」というような日常生活の小さな選択もその1つです。会社内での「何か新しい改革をやろうとすると、リスクをああだこうだ言われて反対される問題」も、決断を下す側の心理に対する「後悔の回避」の影響です。

「失敗したらどうするんだ?」
「今までうまくいっていたのだから、変える必要性がないだろう」
「会社の伝統を壊すのか」

現実的には、変わらないことによるリスクのほうが大きいケースもあります。それにもかかわらず、目先の「失敗への恐怖や不安」が先にくると、変化を避けることが正しいかのような意見が生まれてきます。

出所=『世界は行動経済学でできている』
ユニクロは“後悔を減らすための戦略”を取っている

さらに、人は自分の考えを一度決めると、それを裏づける理屈ばかりに注目するようになります。これは「確証バイアス」と呼ばれる心理です。これによって反対意見はますます強固なものになり、結果的に新しいチャレンジができない状態になるのです。こうした状況に陥る原因は、必ずしも性格や意思の弱さとは限りません。さまざまな心理的バイアスが絡み合った結果なのです。

この「後悔の回避」という人間の特性をうまく活用してビジネスをしているケースは多々あります。例えば、ユニクロです。誰でも一度くらいは「たまには冒険してみたいかも」と、普段は着ないデザインや色の服を買った経験があるのではないでしょうか。しかし、ほとんど着ることがなくタンスの肥やしに……といった結果になってしまうこともありますよね。そんな、服に対する「買わなきゃ良かった」という後悔を減らすための戦略を取っているのがユニクロなのです。

ユニクロのコンセプトである「LifeWear」は、「進化し続ける普段着」と定義されています(「普段着」がポイント)。ユニクロには、極端に高価な商品はなく、品質は良くてもリーズナブルなものがそろっています。過度に流行を追った奇抜なアイテムはなく、色やスタイルもベーシックなものが基本です。

“リスクを考えずに買い物できる”仕組み

ユニクロが主に提供するのは、人から注目を浴びるような斬新さではありません。こうした商品提供の考え方は、世の中にかなり浸透してきました。これはまた、お客さん側のニーズにも合っています。多くの人が、ユニクロに「ベーシックと安定」を求めているのです。

いつ行っても同じ商品が置いてある安心感、誰が着ても様になる定番のデザイン、そして買い物の失敗を最小限に抑えられる価格設定……。これらはすべて、後悔を回避したいという顧客心理を理解したうえでのビジネス戦略なのです。

※写真はイメージです

ユニクロは、お客さんが将来後悔する要素をなるべく減らしてくれているわけです。私たちがリスクを考えずに買い物ができるようにしてくれている、と言うこともできます。別の見方をすればユニクロは、人間の消費行動における「買いたい」という欲求だけでなく、「買うことでの失敗を避けたい」という心理的ハードルまで理解して戦略づくりをしていると考えられます。ここには、誰でも真似できるポイントがありそうです。

新しいことにトライできない、やりたいことができない、変わらないといけないのに変われない……。そんな声をよく聞きます。今は変化の速い時代です。仕事でも、昨日までの成功法則が、明日には通用しないかもしれません。そんなときに「後悔の回避」は障壁になる可能性があります。

「不安」や「リスク」を分解して言語化する

では、私たちはどうすれば「後悔の回避」を取り除けるのでしょうか。そして、どうすれば新しいチャレンジの一歩を踏み出せるのでしょうか。まずは、自分の判断も他人の判断も「後悔の回避」の影響を受けていると認識することです。そのうえで、私がおすすめしたいのが、後悔のもとになる「不安」や「リスク」を徹底的に分解し、それを言語化すること。

「後悔の回避」が起きるのは、後悔を生むかもしれないと思っている「不安」や「リスク」があるからです。でも、この不安やリスクは、たいていの場合は解像度が低く、ぼんやりとした状態で存在しています。大きな、漠然とした不安やリスクだと、どう対策したらいいかわかりません。

そこで、この「不安」や「リスク」をどんどん細かく分解していき、「小さな不安」や「小さなリスク」にしていきます。そうすることで、「対策」があることに気がつきます。小さな不安やリスクならば、対策を具体化できるのです。

やるべきことがわかれば、不安から解放される

実はこの方法はスポーツ心理学で取り入れられているもの。スポーツ選手は、不安を感じると、実力どおりのパフォーマンスを発揮できません。失敗したときのことを想像して心身が萎縮してしまうからです。

そこで推奨されているテクニックが、不安な要素を細かく分解して言語化することです。漠然としていた不安を分析し、根本的な原因がわかれば、対策を練ることが可能になります。やるべきことが具体的になれば、それに集中することで不安から解放されるのです。

この作業をすると「対処法がない不安」、つまり自分ではどうにもできないこともはっきりします。そうすれば、自分ではどうしようもない不安は捨てる、といった気持ちの整理も可能になるのです。

出所=『世界は行動経済学でできている』

この方法で、仕事に関するさまざまな不安も解消することができます。例えば、取引先に新規案件を提案することになり、上司から「あなたにプレゼンを任せたい」と打診された場合。せっかく声をかけてもらえたのだからやりたいけれど、これまでに経験がなかったり、以前に失敗してしまったりしたことがあり不安……ということもあるでしょう。そんなときも、漠然とした「どうしよう……」という不安を分解してみるのです。


◎不安に思っていること
・何を話せばいいのかわからない
・参加者にちゃんと伝わるだろうか
・うまく話せなかったらどうしよう

◎なぜ、そう思ってしまうのか
・内容がまとまらない、資料づくりが難しい、話す順番が整理できない
・質問に答えられない、つまらないと思われそう、批判されるのが怖い
・緊張で声が震える、頭が真っ白になる、言葉に詰まる

◎不安への対処法
・先輩や上司にプレゼン資料のつくり方を教えてもらう、わかりやすい資料づくり
の本などを読む
・話す順番や内容を整理して、事前に同僚などに練習相手になってもらう
・声の出し方や表情のつくり方を意識しながら練習をする
・想定される質問と回答を事前に準備しておく

後から「やれば良かった」と思わないためには

「後悔の回避=現状のままでいいや」という気持ちの裏側には、不安やリスクを避けたいという気持ちが隠れています。でも新しいチャレンジができないと、せっかくのチャンスを逃したり、あとになって「やれば良かった」と後悔したりする可能性もあります。

橋本之克『世界は行動経済学でできている』(アスコム)

アメリカで80歳以上の高齢者を対象に「人生で最も後悔していることは何ですか?」というアンケートを取ったところ、なんと7割の人が「チャレンジしなかったこと」と回答したそうです。人生の終盤になって後悔するのは、失敗したことよりも「やらなかったこと」だということですね。

忙しい毎日に忙殺されて忘れていた「やれば良かった」「やりたかった」という過去への思いが、人生を振り返るタイミングに、大きな後悔となって蘇ってくることもあります。そんな気持ちを抱え込まないためにも、自分自身も「後悔の回避」に左右されてしまう性質があると知るべきです。

そして新たな一歩を踏み出してみましょう。その際に不安をなくす具体的な方法として、行動を躊躇させる不安要素を細分化、言語化、明確化して、1つずつ対処法を考え実践するという方法をぜひ、試してみてください。

橋本 之克(はしもと・ゆきかつ)
マーケティング&ブランディングディレクター
昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。東京工業大学工学部社会工学科卒業後、大手広告代理店を経て1995年、日本総合研究所入社。1998年、アサツーディ・ケイ入社後、戦略プランナーとして金融・不動産・環境エネルギー業界等多様な業界で顧客獲得業務を実施。2019年、独立。現在は行動経済学を活用したマーケティングやブランディング戦略のコンサルタント、企業研修や講演の講師、著述家として活動中。著書に『9割の人間は行動経済学のカモである 非合理な心をつかみ、合理的に顧客を動かす』『9割の損は行動経済学でサケられる 非合理な行動を避け、幸福な人間に変わる』(ともに経済界)、『世界最前線の研究でわかる! スゴい! 行動経済学』(総合法令出版)、『モノは感情に売れ!』(PHP研究所)などがある。

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