テレビ東京の韓流プレミアで放送中の『暗行御史<アメンオサ>~朝鮮秘密捜査団~』。キム・ミョンスが演じているソン・イギョムは、弘文館(ホンムングァン/重要な書物を管理する役所)に勤めていながら、暗行御史(アメンオサ)として地方の悪徳役人を摘発するために奮闘している。
彼の恋人だったカン・スネ(演者チョ・スミン)は、弟のソン・イボム(演者イ・テファン)と一緒にかつて逃亡した。その理由がイギョムにはまったくわからなかったが、そこには深い真実があった。
というのは、スネは悪徳役人によって「お前の周囲の者たちを天主教(カトリック)の信者として捕らえる」と脅迫されていたのだ。それを見かねたイボムがスネを助けるために一緒に逃れようとした、というのは真相であった。
ここで気になるのが、朝鮮王朝における天主教の布教問題だ。当時は、天主教の信者はどういう立場になっていたのであろうか。その背景を見てみよう。
朝鮮王朝で天主教の信者が徐々に増えたのは18世紀の後半だ。表向きでは、天主教が一応は禁止されていた。しかし、1776年に即位した22代王・正祖(チョンジョ)は、天主教に関しては大目に見ていた。つまり、彼の治世では、天主教の信者を厳しく処罰したりしなかった。さすがに正祖は名君であった。
天主教を強く弾圧した歴史的な大事件
事情が変わったのは、正祖が1800年に亡くなった直後であった。正祖の長男が23代王・純祖(スンジョ)として即位したのだが、10歳だったので王族最長老の貞純(チョンスン)王后が摂政を行った。彼女は英祖(ヨンジョ)の二番目の正室だったが、1800年以降に絶大な権力を握るようになった。
彼女と対立する政治勢力には、天主教を信仰する人が多かった。そのために、貞純王妃は天主教を強く弾圧するようになり、多くの人が処刑されたり流罪になったりした。これが、1801年に起きた「辛酉(イニュ)迫害」だ。
こうした歴史的な大事件を念頭に置きながら、『暗行御史<アメンオサ>~朝鮮秘密捜査団~』のストーリーは作られている。
文=康 熙奉(カン・ヒボン)