「ピンク」は、私にとってずっと距離を置いてきた色だった。
今思えば、幼い頃からなんとなく「ピンク」を避けていたように思う。一つ下の妹と一緒に服を買いに行けば、妹はピンク、私は水色を選んだ。暖色系の色より寒色系の色が好きだったのもあるが、「ピンク」というものに付随するイメージが好きではなかった。
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「ピンク」と言うと、どうしても私の頭には「可愛くて女の子らしい女の子のための色」というイメージが浮かぶ。別に可愛くなくてもピンクは身につけていいし、男の子でピンクが好きでもいいと頭で理解している。女の子らしい、なんて時代錯誤だとも思う。だが、漠然とその色にはそういうイメージがある。
そして、私はそういうイメージを持たれるのが嫌だった。こんなことを言うと大変嫌な思いをされる方もいるだろうが、私は「可愛い」も「女の子らしい」も、「男ウケがいい見た目」とか「従順で気弱でちょっとバカ」とかそういうイメージを多少は内包している言葉、と思っている(だから、そういう褒め言葉は人に対してあまり使わない)。なので、それを想起させる「ピンク」という色は苦手だった。他人が身につける分には気にしないし、そういう風には思わないが、自分で選べる範囲でなら絶対に選ばない。小物であろうが下着であろうが選ばない。
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そんな捻くれた私も、大人になって何となく「自分を女性として美しく見せること」が楽しくなりつつある。幼い頃は嫌だったスカートも履くし、スニーカーよりヒールが好きだし、化粧もする。体のラインが程よく出る服はよく着る方だし、それが似合うように運動や食事も少し気を使うようにしだした。
それでも、やはり「ピンク」との距離感は変わらないまま、この歳になった。
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そんな私に今年の年明け早々、転機が来た。
いま流行りの骨格やパーソナルカラー、顔タイプを診断することになったのである。似合う服や髪型がわかる、というので、無駄に服を買ったりヘアアレンジを失敗したくない、と思った私と妹は、ワクワクしながら診断に向かった。
「お姉さんは、骨格ストレート、パーソナルカラーはブルーベースのウインター、お顔立ちはアクティブキュートさんですね」
並ぶ横文字に、事前に調べておいて正解だった、と思いながらもハッとした。
アクティブキュートって「可愛い女の子」系の顔だし、ブルーベースのウインターはコスメとかだと「ピンク」が得意じゃなかったか?
そう思ったので、素直に診断してくれた方にそう言うと、「そうですよ」と言われた。
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衝撃である。
可愛い系?ピンク?私が?
あんまりに驚いている私を見兼ねてか、診断してくれた方が追加で補足してくれた。
「可愛い、と一言で言っても種類があります。お姉さんの『可愛い』は、『可愛いけどそれだけじゃない、スパイスがある強い可愛さ』です。それに、ピンクにも種類がありますよね。パステルカラーのピンクとか。でも、お姉さんの似合うピンクは、ビビッドなピンクです。可愛いのですが、イメージとしては『一筋縄では行かない、強いピンク』ですね。お顔立ちと合ってます」
目からウロコであった。よく考えればそれはそうなのだが、「可愛い」も「ピンク」も種類は多岐にわたる。都合いい女的な意味での「可愛い」もあるが、そうではない「可愛い」もある。ピンクが表す「可愛い」も多様だ。
そう思うとストンと腑に落ちた。
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腑に落ちた、は落ちたのだが、だからといっていきなり「ピンク」や「可愛い」の世界に足を踏み入れることは難しい。だが、まずはやってみないことには始まらないので、プチプラのコスメで似合うと言われたピンクを揃えてみた。
小さな一歩だが、されど一歩である。未だに「ピンク」も「可愛い」もイメージは払拭しきれていないが、それでも少しずつ慣れ始めている。まだピンクの服を買う気は無いが、いつかはサラリと着れたらいいなと思う。可愛い、と言われても素直に受け取れるようになれたらいいな、と思う。
あれほど遠かったピンクも、今は少し身近だ。
■書猫のプロフィール
本と旅行と猫が好き。文章を書くのも好きです。最近、noteを使い始めました。note: https://note.com/novel_tapir8296