ふとした瞬間に彼らと過ごした時間を思い出す。
20代も後半に差し掛かり私もれっきとした大人になってしまった。
心の中の私はあの時の22歳のままで成長していないように思うが、時間は無情にも過ぎ去りいつの間にかアラサーの仲間入り。
数年たった今の私だからあの時の感情を言葉にできるような気がする。
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「彼ら」というのは学生時代のバイト先で出会った人物たちである。
大学3回生時の海外留学を終え、多少なりとも培った英語力を生かしたいと思いそのバイト先で働くことを決めた。海外留学したことに対して私自身は自分に誇りを持っており、周囲の人間も褒めてくれることの方が多かった。しかし中には「そんなことをして意味あったの?」や「時間の無駄でしょ」と心無い言葉を投げてくる輩もいた。
そんな人間との間に波風を立てたくない私はたいがいヘラヘラその場をしのいで終わったが、正直傷ついていた。
そのバイト先はそんな傷ついた私にはうってつけだった。同じように海外での生活の経験がある人間同士の集まりだったからだ。
そこには留学を馬鹿にするような人間はいなかった。むしろ「将来は海外で暮らすんだ」「グローバルな職場で活躍するんだ」と明るい未来を夢見る若者だらけだった。
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そのなかでも特に仲の良かった3人。私と大体同じ年齢だった。
バイトのシフトがかぶれば喜びあい、ウキウキしながら仕事をした。バイトの後はみんな日本酒が好きだったから近所の居酒屋に行っては大酒を食らった。
正直どんな話をしたのかなんて覚えていない。ただただ笑っていた。朝まで飲んでは誰かの家に行って雑魚寝をし、時には急遽隣の県の温泉に行ったりとハチャメチャだった。
こんな日常が続けばいい、と心の底から思った。
時は過ぎ、卒業の季節。別の県に進学や就職をしたりそれぞれの進路を進む時が来た。
最後に飲む時は泣いたりするかと思ったがそんなこともなく意外とあっさりと終えた。
社会人になってから忙しさと距離を理由に数年バイト先のあった県に行くことがなかったが
やっと仕事が落ち着き、彼らと再会する算段が整った。
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はじめは近況を話し、働いていた当時の昔話で多少盛り上がった。
が、その盛り上がりも束の間違和感を覚え始めた。会話のテンポが合わない。なんともしっくりこない。私たちの会話でこんなにも沈黙が訪れるなんて、と内心焦る自分を今でも昨日のことのように覚えている。
それぞれが新しい環境で新しい人間関係を築いたことで、私が知っている彼らは「当時の彼ら」ではなくなった。彼らからしたら私も「当時の私」ではなくなったに違いない。
もちろんはそれは悪いことではない。それぞれの場所で私たちは成長したのだ。
時の流れは残酷だ。もう私たちは大人になってしまったのだ。
一緒に働いていた当時を「子供だった」とは言わない。おそらく私たちは「子供と大人の間」の心地のいい時間を一緒に過ごしていたから完全に大人になることへのわくわく感を共有しあんなにもキラキラとした時間を過ごせていたのだと思う。
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彼らとはあの再会を最後にもう数年会っていない。彼らのことが恋しい。
ただもう会うことはないだろう。
当時の思い出はそっとしまって、死ぬときの走馬灯の候補にしよう。
ふとした瞬間に私のことを思い出してくれたら、と願う。
■うなぎいものプロフィール
本と映画とお酒がすき。学生時代を京都で過ごし現在は九州。いつもなに食べようかと考えている96年生まれ。