「もし、自分の推しが正体を隠してすぐそばにいたら?」と考えたことはないだろうか。ゲーム配信者と熱心なリスナーの日々が描かれた『となりの席の同僚が俺のリスナーだった件。』(ミツコシ/KADOKAWA)は、配信ブームの今だからこそ、よりリアルに感じられる設定で引き込まれてしまう物語だ。
主人公・市井東(いちいあずま)は、会社員として働きながら、ゲーム配信者・ガリちゃんとしても活動している。ある日、偶然、隣の席の後輩・並野平太(なみのへいた)が自分のリスナーであることが判明する。「絶対にバレたくない」配信者と、その彼を応援する熱心なリスナー。果たして、バレてしまうのか、それとも隠し通せるのか? そんなスリリングな関係が始まる——。
本作の見どころは東の持つ二面性だ。会社では地味で目立たない社員だが、配信ではトークもプレイも冴えわたるカリスマ配信者。そして、メガネの下にはイケメンが潜んでいる——。この“ギャップ”が、読者を惹きつけるポイントのひとつだろう。普段は冴えないが、実は…というキャラクター設定が好きな人には、たまらないはずだ。東自身は、自分がイケメンであることを特に意識していないし、会社でも目立とうとしない。しかし、配信では自信を持ち、リスナーを楽しませるために全力を尽くしている。この二面性が、物語にさらなる面白みを加えている。
さらに、配信者ならではの葛藤がリアルに描かれている点も魅力だ。東の「バレたくない」という気持ちには、彼が配信者として築いてきたものを壊したくないという思い、仕事と趣味を混ぜたくないという繊細な感情がリアルに伝わってくる。
推し活が好きな人なら、間違いなく刺さるだろう。「もし、職場に推しがいたら?」と想像してしまう設定に、読めば読むほどワクワクしてしまう。二人の関係がどのように変化していくのか、今後の展開にも期待したい。
文=ネゴト / すずかん