弟や妹、もしくは小さなペットなど、“新しい家族”を迎えた時、子どもはちょっと不安な気持ちになるかもしれません。また、兄弟や姉妹、もしくはお友だちとのケンカが絶えない…という時、気持ちが不安定になっていることがあります。そんな時に読み聞かせをしたいのが、『くろいへんなやつ』(こがねまるやまと:作、てぃーこ:絵/主婦の友社)です。「他者の視点で考える大切さが育まれる」絵本だといいますが、どんな内容なのでしょうか。
仔犬とケンカしたお兄さん犬の本音は…
パパママと一緒に暮らすお兄さん犬「ぼく」のもとに新しくやってきたのは、「くろいへんなやつ」こと、小さな仔犬。仔犬は「ぼく」のごはんを食べてしまうし、「ぼく」のおもちゃで遊ぶし、「ぼく」の特等席(パパの腕の中)で寝てしまいます。パパママにもすっかり甘えている、無邪気で元気いっぱいの仔犬。そんな仔犬に「ぼく」は納得がいかないようです。仔犬が「ぼく」と仲良くなりたい素振りを見せても「ぼく」は受け入れません。
そんなある日、仔犬が「ぼく」のおやつを食べてしまい…。この時ばかりはがまんできなかったようで、「ぼく」は仔犬のしっぽを噛んでしまいました。
驚いたのは、その後。今までは可愛らしい姿を見せていた仔犬が噛みつき返してきたのです。「ぼく」に噛まれた後、体をふるわせながら怒っていた仔犬。彼もまた、全然相手にしてくれないお兄さん犬にやきもきして、ずっとがまんしていたのかもしれません。
パパとママは「おにいちゃんだから、がまんしなさい」と言いますが、「ぼく」は思うのです。「ぼくはがまんなんかしたくない」のだと。
相手の気持ちになって考えるきっかけに
思わぬハプニングでケンカのように噛み合ってしまった2匹の関係は、その後どうなったのでしょうか。
絵本には、仔犬と一緒におもちゃをひっぱり合う「ぼく」の姿がありました。相変わらず怒っているような表情ですが、頬がちょっと赤くなり、楽しんでいるようにも見えます。仔犬はとっても嬉しそう。2匹の距離が少しずつ近づく様子が手に取るように伝わってきました。仔犬にがまんできなかった「ぼく」と、お兄さん犬と一緒に遊びたかった仔犬。思いも寄らぬ相手の反応があったことで、お互いの気持ちをちょっと想像できたのかもしれません。まさに他者の視点で考えるきっかけを与えてくれる絵本だと感じました。
一緒にいればがまんすることもあるけれど、時には想いをぶつけ合ってもいいし、一緒にいるから楽しく遊べることだってある。本書を通じて、そんな学びも伝えられそうです。人との交流が少なくなりがちな今、人と分かり合うためのヒントを絵本で伝えられるのは、とても価値があることだと感じます。これから新しい家族を迎える子や、兄弟ゲンカばかりしてモヤモヤしている子、まわりのお友だちとぶつかりやすい子にも、ぜひ読んでほしい1冊です。
人気声優・榎木淳弥の読み聞かせも
本書は、人気声優・榎木淳弥さんの読み聞かせ音声つき。優しい声で子どもの気持ちに寄り添ってくれるから、「読み聞かせは苦手…」「疲れているから無理…」という人にもおすすめ。メイキング動画やオリジナルぬり絵の特典もあり、さらに子どもが喜んでくれそうです。
劇作家・マンガ原作者として活躍するこがねまるやまとさんの絵は、大人も癒されてしまう可愛らしさ。お兄さん犬と仔犬の細やかな心の変化が伝わってきて愛おしく、何度も読み返したくなりました。
文=吉田あき