1. トップ
  2. 恋愛
  3. 年収1500万円夫との夢の暮らしのはずが…別居を決断するほど妻を追い詰めた「タワマン生活の意外な苦しさ」

年収1500万円夫との夢の暮らしのはずが…別居を決断するほど妻を追い詰めた「タワマン生活の意外な苦しさ」

  • 2025.3.25

高収入の夫とタワマンに暮らしていた専業主婦の妻は、なぜ夫と別居することにしたのか。離婚や男女問題に詳しい弁護士の堀井亜生さんは「タワマンは周辺環境も含めた利便性の高さが魅力だが、住んでみると意外な欠点があり、それが夫婦間の問題につながることもある」という――。

※本原稿で挙げる事例は、実際にあった事例を守秘義務とプライバシーに配慮して修正したものです。

※写真はイメージです
エリートサラリーマンと結婚しタワマンに入居

会社員A子さん(32歳)は、お見合いで知り合った5歳年上の夫と結婚しました。夫はエリートサラリーマンで、年収は1500万円超。夫が「結婚したらここに住みたいと思っていた」と新居として提案したのは、東京ベイエリアに建つタワーマンションでした。

広い埋立地に建つタワマンは、近隣にスーパーマーケットやホームセンターが入った複合商業施設、ファミレスやカフェ、広い公園、病院が揃った立地で、整備された区画に一通りの施設が並ぶその様子は、さながら未来都市のようでした。教育関係は公立小学校や中学校、それにグローバル教育が売りの国際系の高校が近くにあります。

東京の下町に生まれ育ったA子さんにとっては、とても新鮮な光景でした。ここに住めば生活や子育てのすべてが賄える、子どもはきっと英語が堪能に育ち、いずれは海外留学も……。そんな夢を抱いて、A子さんは夫がローンで購入したタワマンに入居しました。

「主婦になって支えてほしい」という夫の希望で、A子さんは結婚と同時に退職して専業主婦になりました。

「夢のタワマン生活」のはずが深夜まで掃除の日々

住まいはタワマンの20階以上で、夜にはベイエリアの夜景が見渡せます。買い物は近くのスーパーで、休日には公園を散歩……。

絵に描いたようなタワマン生活が始まりましたが、予想外の問題がありました。夫が家の汚れにとても厳しいのです。

夫は毎日仕事で遅く帰ってきた後、家の中をくまなくチェックします。真っ白な壁や真新しいフローリングの床に汚れがないかを調べて、汚れが見つかるとA子さんに掃除のやり直しを命じます。A子さんが掃除をする間、夫はお風呂に入り、ゆっくりと晩酌をします。深夜まで掃除を続けて、夫の再チェックに合格して初めてA子さんは就寝できます。

資産価値の維持が最優先の夫

ある日、夫がタブレットを落として床に大きな傷をつけたことがありました。その時夫はなんと、「物を落としそうな場所に何も敷いていなかったお前が悪い」とA子さんを怒鳴りつけたのです。

そして「床に傷がついたら査定額が下がる、どうしてくれるんだ」と言い出し、このタワマンを買った理由を話し始めました。将来価値が上がりそうな高コスパ物件だと聞いて、売却して利益を得るために購入したというのです。だから1円でも価値が下がらないように、きれいに使わないといけない。そのためにお前を主婦として家にいさせているのに……。そんなことを長時間にわたって怒鳴り続けました。

また、もらえる生活費が少ないこともA子さんの悩みでした。「これでやりくりをするように」と言って、月7万円の生活費しかもらえません。

しかも、夫の要求で買う壁や床の掃除用品の費用がかさむため、食料品や生活用品に回せるお金が極端に少ない状態でした。

近隣のスーパーは決して安いとは言えません。他に店が全くないため、比較して安い店で買って節約することもできないのです。せめて自転車が欲しいと言っても、「近くに何でも揃ってるんだから徒歩で移動しろ」と言われます。夫はほとんど外食なので、A子さんはひたすら自分の食べるものを切り詰めました。

「パートに出たい」と言うと、夫は「掃除をおろそかにするつもりか。そのために住まわせてやってるのに」と猛反対します。

景色のきれいなマンションに、近隣で何でも揃う便利な立地……。理想的な環境のはずが、実際は限られた生活圏で暮らし、夫の機嫌を損ねないように家をきれいに保ち続けるだけの自由のない毎日で、A子さんは1年もしないうちに精神的に孤立して、この生活にすっかり疲弊してしまいました。

※写真はイメージです
タワマンの環境が募らせる孤独感

しかし同じ頃、A子さんの妊娠が発覚しました。「子どもが生まれたら夫も少し寛容になるかもしれない」と考えましたが、長男が産まれた後も、「マンションの価値を減らしたくない」「生活費を渡さない」という夫の考えは全く変わりませんでした。

食べ物をこぼす、よだれを垂らす……。赤ちゃんにつきもののそんな行動も、夫はマンションを汚す行為ととらえて、A子さんを「お前のしつけがなっていない」と激しくなじります。

気晴らしに長男と出かけようとしても、行き先は近所の大型スーパーや公園しかありません。休日も、夫は「外出は金がかかる、この辺にはなんでもあるからいいだろう」と言ってどこにも連れて行ってくれません。

理想的な子育て環境だと思って入居したはずが、タワマンの環境がますますA子さんの孤独感を深めていったのでした。

別居の妻に「甘えるな」「早く帰ってこい」

生活費は7万円のまま増えないため使えるお金もなく、ベビー用品や子ども服を買うお金はA子さんの親が出しています。さらに夫は、子どもが苦手だと言って、育児を一切手伝ってくれませんでした。

ママ友付き合いもできず、昔の友人に会うこともできず、A子さんはどんどん追い詰められていきました。

夜眠れなくなり、食欲がなくなり目に見えてやつれてきたA子さんが「2週間だけ実家に帰りたい」と言うと、夫は渋々了承しました。

長男を連れて実家に帰り、体を休めたりあちこちに出かけたりしていると体調は回復しましたが、家に帰る日が近づくとまた動悸がしてくるようになりました。

父親を通して、心身がつらいのでしばらく別居したいと夫に連絡してもらいました。しかし、夫からは、直接LINEでA子さんに「甘えるな」「早く帰ってきて掃除をしろ」という返事が来るばかりです。

これでは話にならないと思い、A子さんは私の事務所に相談にいらっしゃいました。

A子さんはこれまでの経緯を説明したあと、「実家に帰って初めて気づいたんですが、私、結婚してから出産の時以外、タワマンのある地域からほとんど出たことがなかったんです」とおっしゃいました。

それほど気詰まりな生活を送ってきたのです。「今のままでは結婚生活を続けられない……。まずは夫と関係修復の話し合いをしたいが、修復が難しければ別居を続けたい」ということで、依頼を受けました。

29万の婚姻費用を「5万円」と主張

夫に連絡を取り、A子さんのつらかった気持ちを具体的なエピソードとともに伝えて、修復できないかと聞きました。しかし夫は「主婦なのだから戻ってきて家事をするべき」「マンションの価値を損なわないようにするのは財産の維持行為であるので、家事の一環である」などと反論するばかりで、全く聞き入れてくれません。さらに「妻は関係を修復するつもりになったか?」と矢継ぎ早に連絡をしてきます。

A子さんは「夫が寄り添ってくれることはなさそうですね……」と落胆して、次は別居の話し合いに移行しました。

夫婦は別居中でも生活費(婚姻費用)を支払う義務があり、双方の収入と子どもの人数、年齢によって金額が算定されます。

A子さん夫妻の場合、夫はA子さんに毎月約29万円の婚姻費用を支払う義務があります。

夫に算定の根拠とともに婚姻費用の支払いを請求しましたが、夫が入金してきたのはわずか5万円でした。そして、「これまでは7万円で十分生活できていて、さらに別居により自分の出費が減るはずなので5万円と計算しました」という独自の主張を送ってきたのです。

5万円でA子さんと長男が暮らせるはずがありません。

この夫は交渉では言うことを聞かないタイプだと判断したため、婚姻費用分担調停を申し立てることになりました。

夫がしてきた支離滅裂な提案

夫は自分で調停にやってきて、「妻と子の生活費は5万円で十分」という主張を繰り返しましたが、調停委員から、基準額が決まっているので5万円にはならないと説得されました。

すると今度は、「A子さんがマンションを汚したために資産価値が減った、その分を婚姻費用から差し引いていく」という支離滅裂な提案をしてきました。もっとも、そんな主張が認められた事例はなく、具体的にいくら資産価値が減ったかという資料も出せないため、調停委員が聞き入れることはありません。

数回の期日が空転した後、「弁護士に相談したらどうですか」と言われて、夫はようやく弁護士に依頼しました。すると、婚姻費用の金額は動かせないことを説明されたのか、ようやく夫は支払いに応じると言い出しました。

夫が月々約29万円の支払いに加えて、それまでの未払い婚姻費用相当額を払うことで合意ができたのです。

こうしてA子さんは長男と一緒に別居生活を始めることができました。両親と協力しながら、下町の実家で子育てをしています。

タワマンのメリット、デメリット

今回は、タワマンが絡む別居の事例をご紹介しました。

タワマンは周辺環境も含めた利便性の高さが魅力ですが、住んでみると意外な欠点を口にする人もいます。それは、「便利すぎて無駄がないことがつらい」という点です。

タワマンの近くには便利なスーパーや人気のカフェチェーンなど、需要の高い店舗が誘致されていることが多いです。それは当然メリットですが、利用する店や休日の行先の選択肢が限られていて、人工的で特殊な環境であるということもできます。

快適な生活環境を形作るのは、便利で真新しいものだけではありません。一見需要のなさそうなもの、古くて歴史のあるもの、そういった施設があって、好きな時に選んで利用できるという環境が、心にゆとりを生むのです。

このように、タワマン周辺はこれまでになかったタイプの街作りがなされているため、そこに住む人の心理も変わってきます。それが家庭問題と結びついた時に、A子さんのようにつらい経験をする人もいるということです。

行動範囲の広い人であれば問題ありませんが、専業主婦で家から出ることが少ない人や、子どもの場合は、心身に影響を受けることがあります。

そのため、弁護士の立場からは、タワマンが絡む家族問題は、他の環境とは違ったタイプのものが多いと感じています。

「自分の資産の中に家族を間借りさせている」という認識に

また、タワマンの魅力として、売却益が見込めることによるコスパの良さを挙げる人もいます。しかしその一方で、A子さんの夫のように、物件の資産価値ばかりにとらわれて、家族に異常な負担を強いるというケースも実際にあるのです。

「家の値段が下がるから絶対に汚してはいけない」と言って家族を責めるというタイプのモラハラは、実は少なくありません。賃貸の場合も、「原状回復の費用がかかるから」と言って汚すことを極端に嫌う人がいます。

自分で気を付けるのならまだしも、家族に掃除を強制して、自分が汚すことすら家族の責任にする……。そこまでいくと、何のために家族として一緒に生活しているかわからなくなります。このタイプは、A子さんの夫のように金銭的にシビアであることも多く、ケチと潔癖思考が併発した人がタワマンを選んだことでこうなってしまったのかもしれません。

家というのは、家族で生活するための場です。A子さんの夫のような人は、コスパにとらわれるあまり、「自分の資産の中に家族を間借りさせている」という認識になっているのかしれません。

もちろん、タワーマンションで快適な生活を送っている家族もたくさんいます。

タワマンを選ぶ理由は何なのか、タワマンの周辺環境は本当に自分に合っているのか。タワマンを購入する際は、タワマンという言葉の持つ魅力的な響きにとらわれず、現実的にメリットとデメリットを考えるようにしましょう。

堀井 亜生(ほりい・あおい)
弁護士
北海道札幌市出身、中央大学法学部卒。堀井亜生法律事務所代表。第一東京弁護士会所属。離婚問題に特に詳しく、取り扱った離婚事例は2000件超。豊富な経験と事例分析をもとに多くの案件を解決へ導いており、男女問わず全国からの依頼を受けている。また、相続問題、医療問題にも詳しい。「ホンマでっか!?TV」(フジテレビ系)をはじめ、テレビやラジオへの出演も多数。執筆活動も精力的に行っており、著書に『ブラック彼氏』(毎日新聞出版)、『モラハラ夫と食洗機 弁護士が教える15の離婚事例と戦い方』(小学館)など。

元記事で読む
の記事をもっとみる