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「ファッションは“偏愛”と“面白い”がこれからのキーワード」【スタイリスト白幡啓連載】

  • 2025.3.25

スタイリストでstyling/のディレクター白幡啓(インスタアカウント@1030kei)が独自の視点でファッションにまつわる気になる「アレ」を取り上げる連載。あだ名はおケイ先生。ちなみに「アレ」とは白幡さんの口ぐせ。

これからのファッション業界は“面白く”なくっちゃダメよ!

ファッションの意味が多岐にわたる今、提供するだけという一方通行はもう通じない。
そこで今回“面白い”ことを共有したくて、私の周りにいる面白い大人たちをお招きし、あれこれ聞いてみることに。
2025年、“面白い”をテーマにしてみたら、物事はスムーズに進むと考えます。

面白い大人3人の出会いは開運旅で訪れた出雲

―おケイ先生の知人でコミュニケーションディレクターとして活躍する中河レナさんと、彼女の旧友でもありビームス シニアクリエイティブディレクターの土井地博さん、3人が知り合ったのはウェルネスコミュニティROOMYSの開運出雲ツアーでのこと。面白い大人3人が集まることでファッション談義にも花が咲いたようで……。
 
白幡さん(以下K) この間の出雲ではお世話になりました! ひとりひとりへの心遣いなど、土井地さんのホスピタリティがとにかく素晴らしかったです!
中河さん(以下R) 出雲観光大使でもある土井地さんの完璧なサポートのおかげで、ディープな出雲を知ることができたことに感謝です。スタイリストの風間ゆみえさんをはじめ、開運旅に参加したメンバーさんも大満足の旅になりました。
土井地さん(以下D) こちらこそありがとうございました。まだまだ紹介したいところがあるので、ぜひまた出雲に遊びにきてくださいね!

今のファッション、ぶっちゃけどう?

ビームス 執行役員
シニアクリエイティブディレクター 土井地 博さん「自分らしさを楽しむ人が増えてきたよね」

K というわけで、今回時間を作ってもらったのは、感度の高いお二人と話したいことがあったからなの。出雲では神様に夢中で忙しかったから(笑)。話したいのは、ファッションの在り方について。
D ここ数年でファッションの在り方はずいぶん変わりましたよね。
K 実はこれまで、何度もメンズのスタイリングを頼まれたけど、奥が深過ぎるから断っていたのね。歴史とかをきちんと知らないとやっちゃいけないテリトリーだと思っていたから。
D 確かにメンズって何かとウンチクが満載で、女性にはハードルが高いイメージがあるかも。そもそもメンズ服は全てミリタリーや制服といったユニフォームがベースになっていて、何気なく付いている装飾やディテールにも意味があるんだよね。
 
K ですよね。逆に女子はトレンド命みたいなところがあったけど、最近の若いコはメンズ寄りになってきてない? 特に洋服が好きなコは、奥が深くないとつまらないって感じている気がするの。大の洋服好きで、アパレルにも長く携わってきたレナさんはどう思う?
R 最近はSNSで流れてくるモノがどうしたって目に入るので、〝欲しい〟よりも脊髄反射的な〝買う〟に乗ってしまうことも多い気がしていて。一方で、その消費の仕方に疲弊してしまった人たちが〝語れるモノ〟に移行してきていて、そうした中では結構メンズにヒントがあったりするのかなと思ったり。
K 男性って情報に振り回されずにちゃんとお金を使えているから、そこも見習わなきゃ! って思っていたときに土井地さんに出会ったの。だからメンズ目線の意見もいろいろ聞きたくて。
D 女性ほど情報には振り回されないかもね。メンズはトレンドがほとんどないから、自分のスタイルを持っている人も多いし。あと、最近感じるのは、昔よくあった、周りと同じ洋服やブランドを買っていないと流行に遅れる文化が、男女共になくなっていること。トレンドじゃなくて、いろいろな意味で自分らしさを表現するようになってきたかな。
K 昔はこのブランドを着ておけば安心! とかあったけど、今は個性の時代になってるよね。ただ、私がstyling/のお店に立っていて感じるのは、何を探しているのか、何が欲しいのか分からない人が多いってこと。つまり、ファッションは〝やり過ぎ〟か〝やらない〟かの両極端になっている気がするの。
R それは感じますね。洋服が売れなくなっていることも考えると、割合的には〝やらない〟ほうが圧倒的に多いかも。
D それでも〝やり過ぎ〟も一定数はいるから、その人たちに向けて面白いことを発信していきたいなって。今は洋服を買うだけでなく、遊びや食、暮らし、旅行といった広い意味でファッションというようになってるし。
K 土井地さんに賛成! 私もどうせやるんだったら、〝やり過ぎ〟の人たちに向けていろいろやりたいの。

“偏愛”と“面白い”がこれからのキーワード

コミュニケーションディレクター 中河レナさん「昔の販売員さんは本当に面白かった!」

K そういえばスタイリストを始めたばかりのころ、名物編集者に好きなブランドを聞かれて「ビームスとアルバローザ!」って答えたら、「アナタ面白い!」って言われたことを土井地さんとお会いして思い出した(笑)。セレクトショップっていうカテゴライズがなかった時代に、セレクトしたインポートを置いていたからビームスって好きだったんですよね。
R セレクトとサーファーの両極端のブランドが好きだったなんて、さすがおケイ先生! ビームスといえば、今も昔も個性豊かなスタッフが多い印象。ファッションはもちろん、マニアックな趣味の世界も極めているイメージがあります。
D いろいろなスタッフがいるんだよね、ウチ(笑)。以前、某雑誌から自転車好きを探していると連絡があって、全国の店舗に聞いてみたんですね。そしたらすっごくマニアックな自転車を愛用している人がたくさんいて。ビームスには何かに精通した、オタク気質のスタッフが本当に多いかも(笑)。
R まさにまさに! 今までもそうでしたけど、これからはさらに偏愛×時の共有が大切になるのかなと。昔って、名物販売員さんが商品のマニアックなネタを教えてくれたり、行きつけのお店で「秘密ですけど絶対似合うやつが入ってきましたよ」ってこっそり連絡をくれたりして。ただモノを売るというよりも、パーソナライズされたサービスがそこにはあって、正直面倒くさい部分もあったんですけど(笑)、その面倒くさいところも含めて面白かったんですよね。時代に作られた正解のある消費より、一期一会の出会いや、いい意味での違和感を楽しめる場ができたら、売る側も買う側も幸せなんじゃないかなぁと思います。
D ネットも否定しないし、僕もよく利用するけど、人から買いたいなって最近は思う。誰から買うか、どこで買うかというようなことも含めたストーリーを理解した上で手に取るモノって、便利なネットショッピングで買ったモノとは違うから。あと、なんとなく思うのは、コロナ以降は〝やっぱり〟という言葉のもと、「やっぱりライブがいいよね」とか、「やっぱり洋服はお店で買うほうがいいよね」ってなっている。だからこそレナさんが言うように、販売員の在り方もこれからのポイントになってくると思うんだよね。
K 私は売る側が一方的に提供する時代は終わったと思っていて、これからは面白く売って面白く買う時代になってくると思うの。買う側が「これは面白いからお金を出して買ってもいいよ!」っていうふうにならないと、モノを売るのはどんどん厳しくなっていく気がするんだよね。そしてファッションって面白い! って思えるようなことを土井地さんとレナさんとはできると思うから、面白いことをどんどんやっていきましょ!
D&R ぜひぜひ!

ビームス 執行役員
シニアクリエイティブディレクター 土井地 博さん
ショップスタッフを経て、20年以上にわたってビームスの宣伝、PR業務を行う。現在はビームスのディレクターを集結させたディレクターバンクの室長や出雲観光大使、ラジオパーソナリティ、大学非常勤講師など、幅広いフィールドで活躍中。

コミュニケーションディレクター 中河レナさん
アパレル&ライフスタイルの小売業界を経て、スタイリストの風間ゆみえさん主宰のウェルネスコミュニティ「ROOMYS」の運営などを中心にディレクターとして活動中。カタチがないものを言語化・立体化するのが得意で、おケイ先生も絶大な信頼を寄せている。

photograph:TOMOYA YAMASAKI text:KYOKO CHIKAMA

otona MUSE 2025年4月号より

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