SNSに無数のトレンドが溢れているいま、美容のために少し奇抜なことをした経験は誰にでもあるだろう。例えば、塗るボトックス、スラギング(顔全体にワセリンを塗る)、シワ防止ストロー。そして、TikTok発の最新美容トレンドは「牛脂」を使ったスキンケア。
肌に牛脂を塗るなんて突拍子もないことのように思えるかもしれないけれど、この自然療法がSNSで注目を集めているのは事実。古代から美容に使われていたと言われる牛脂は、保湿作用とエイジングケア作用が高く、ひょっとしたら炎症やニキビにも良いということで、いまや奇跡の成分としてちやほやされている。でも、牛脂スキンケアに関する動画を見れば見るほど、その効果を疑いたくなってしまう。だって、ちょっと話がうますぎると思わない?
そこで私は、その効果を自分の目で確かめるべく、牛脂スキンケアを1週間試すことに。また、このトレンドのメリットとデメリットを理解するため、皮膚科医にも話を聞いた。
TikTokで流行中の「牛脂スキンケア」とは?
スキンケアクリニックSkin Wellness Dermatologのy創業者で認定皮膚科医および米国皮膚科学会特別会員のコリー・L・ハートマン医学博士によると、牛脂は「牛の臓器の周りに付いていた脂肪を加熱して溶かし、精製して油脂にしたもの」
TikTokには“牛脂”というハッシュタグの付いた投稿が5万件以上あり、その中には牛脂スキンケアによるメリットを紹介して数十万の“いいね”をもらった動画も。このような動画の多くはTikTokを通して購入できる牛脂製品の販促を目的としているけれど、それを「皮膚科医が秘密にしたがる奇跡の商品」と呼ぶ人もいる。“いいね”の多い動画がアピールしているメリットは、ニキビや肌の色むらを取り除く、肌を保湿して明るくする、炎症を軽減するなど。SNS上で売られているのは大抵、小さなメーカーの“手作り系”牛脂商品。一部のインフルエンサーはDIYの方法を紹介しているけれど、専門家いわく、不適切な調達方法や保管方法は細菌の増殖につながるので注意が必要。
「2010年代後半に大流行したココナッツオイルと同じように、これも一時的な誇大広告に過ぎません。牛脂にエイジングケア、ニキビケア、美白効果があるという明確な証拠はありませんから」と説明するのは、美容整形外科・皮膚科クリニックChicago Cosmetic Surgery and Dermatologyの認定皮膚科医で米国皮膚科学会特別会員のオマル・イブラヒム医学博士。「牛脂は脂肪酸が豊富で、閉塞性(それゆえに保湿作用)が高く、皮膚を柔らかくしてくれますが、牛脂よりも品質と安全性が一貫していて、広く研究された植物性脂肪も存在します」。牛脂の脂肪酸の組成は、原料となる牛の性別、年齢、食事内容によって変化する。また、牛脂は動物由来の副産物なので、調達方法や保管方法を誤ると腐ってしまう。
牛脂スキンケアを1週間試した結果
新しいスキンケアトレンドを試すのは好きなので、これまでにもティーツリーオイルのような自然療法から、イソトレチノイン(処方箋が必要な大人ニキビ用の飲み薬)まで、いろいろと試してきた。顔に牛脂を塗るのは少し気持ち悪かったけれど、これでニキビのできやすい混合肌が改善したら万々歳。
この1週間は朝と夜に牛脂のスキンケア商品を使い、実験の邪魔にならないようメイクも控える。それ以外に使うのは、朝の日焼け止めと夜の洗顔料のみの予定。ちなみに、私が使った牛脂のスキンケア商品の原材料は、100%グラスフェッドの牛脂とホホバオイルの2つだけ。
それで、どうだったかと言うと?
1日目
初日の朝は、いつも通りぬるま湯で顔を洗い、タオルで軽くたたいて乾かした。それから、いつもの保湿液と美容液の代わりに牛脂を塗布。私が恐れていた嫌な臭いは意外にもなかったけれど、1日中ベタベタしていたらどうしよう。牛脂が肌に吸収されることを期待して、日焼け止めを塗る前に10分ほど待ってみたけれど、脂の薄い膜が残った。
その夜は、いつもの洗顔料で顔を洗ってから牛脂を塗布。枕に頭を置くまでに牛脂が吸収されることを願って就寝の約2時間前に塗ったけれどやっぱりダメで、ものすごくベタベタした。
2日目
顔に大きなニキビが3つもできているのを見た瞬間、この実験をやめようかと思ったけれど、このニキビは牛脂のせいじゃないかもしれないと自分に言い聞かせて踏みとどまった。そもそもニキビができるのは珍しいことではないし、まだ1日しか経っていない。ということで、この日も朝と夜に牛脂を使った。
それにしても、これだけ脂っぽい商品を使っているのに肌が乾燥するのは一体なぜか。もともと超乾燥肌というわけではないけれど、牛脂を使っている間は少なくとも肌が潤うと思っていたのに。牛脂を塗ると顔の表面がベタつく一方、その下にある肌は乾燥してつっぱっている感じがする。この商品には閉塞剤(脂肪とオイル)しか入っておらず、肌に潤いを与える保湿剤が含まれていなかったからかもしれない。
3日目
新しいニキビはできていなかったものの、頬にコメド(面ぽう)とミリア(稗粒腫)ができていて、鼻と口の周りの皮膚が明らかに乾燥していた。でも、私は自分の決意を変えず、朝と夜に牛脂を使った。
4日目
朝起きると、普段はできないアゴのライン、頬、おでこにもニキビができてしまっていた。まさに試練のときと言える。しかも、アゴのニキビは嚢胞性でかなり痛い。肌の乾燥も続いていたので、そろそろ何とかしなければと思い、普段使っているヒアルロン酸の美容液と保湿液を牛脂の下に塗ることに。プラス、この日は加湿器をつけて寝た。
5日目
昨日の乾燥対策が効いたのか、今日は肌の調子がいい。ニキビのせいで鏡を見るのは辛いけれど、今日も朝晩、ヒアルロン酸の美容液+保湿液+牛脂を塗った。
6日目
6日目は報告するようなことが何もなかった。でも、まだ実験中なので、牛脂だけに戻したらどうなるかを見ることに。結論から言うと、美容液と保湿液抜きはやはりダメ。明日が最後で本当によかった。
7日目
最終日の朝に見つかった新しいニキビは1つだけ。でも、残りのニキビはいまだ健在。この実験中はメイクを一切しなったので、原因は間違いなく牛脂にあると思われる。
そして、この日は牛脂がメイクに与える影響を調べることに。通常の流れ(色の付いた日焼け止め、下地、コンシーラー、パウダー、ブラシ、ブロンザー)でメイクをしてみたところ、塗るのには問題がなかったけれど、下地を使ったにも関わらず、いつもより早くメイクが崩れた。
夜に全部落としたときは、スッキリさっぱり。明日から普段のルーティンに戻れるのが楽しみで仕方ない。
とはいえ、私たちの肌は1人ひとり違うので、自分で試してみたい人はネットショップでベストセラーの商品を探してみよう。
牛脂を肌に使うメリット
SNSの意見はさておき、牛脂を肌に使う最大のメリットは保湿作用と栄養価。私の場合は肌が乾燥してしまったけれど、ほとんどの専門家は、そのメリットに“ある程度”同意している。
「牛脂が持つ閉塞性は、肌の保湿と肌バリアの保護に役立ちます」とハートマン医師。また、イブラヒム医師によると、牛脂に多く含まれる脂肪酸(オレイン酸、リノール酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸など)も閉塞性を持っているため、肌バリアの維持に役立つ可能性がある。「乾燥肌の人には有効かもしれませんが、無菌環境で製造されたベーシックなこってり系保湿液より優れているわけではありません」
牛脂には多種多様なビタミン(ビタミンAなど)が含まれているため、「レチノールのような作用」があると言う人もいるけれど、イブラヒム医師いわく、これらのビタミンはごく微量でロットごとに異なる。「残念ながら、牛脂に含まれるビタミンAは測定できるほど多くありません」
牛脂を含むスキンケア商品の副作用
主な副作用は私も経験したニキビ。「牛脂はコメドジェニックなので、毛穴を詰まらせることがあります」とハートマン医師。「オイリー肌の人やニキビができやすい肌の人は、牛脂の使用を避けたほうがいいでしょう」
イブラヒム医師によると、牛脂の使用には感染のリスクも伴う。「一番の問題は、どこから牛脂を調達するか。適切に保管しないと細菌が増殖する恐れもあります」
牛脂を肌に使うと、肌が炎症を起こしたり日光に敏感になったりするという小規模な研究結果も存在する。ただし、さらなる研究が行われないと、正確なことは言えない。
結論
残念ながら、今回の実験中にSNSで言われているような効果が次々と現れることはなかった。昔から少しニキビができやすいタイプではあるけれど、牛脂を塗るとニキビがどんどん出てきてしまって、いまも治すのに苦労している。オイリー肌の人やニキビができやすい肌の人は、この流行に乗らないほうがいいと思う。でも、私たちの肌は1人ひとり違うので、私に向かないものが他の人にも向かないとは限らない。
「牛脂にできることなら、ココナッツオイル、シアバター、ホホバオイルなどの植物性油脂にもできますし、後者のほうがエビデンスも多いです」とイブラヒム医師は言う。でも、ハートマン医師によると、乾燥肌の人は牛脂を使う意味があるかもしれない。ただし、「敏感肌、オイリー肌、ニキビができやすい肌の人は使わないようにしてください」
そして、アトピー性皮膚炎や乾癬などの疾患がある人は、牛脂を試してみる前に必ず皮膚科医に相談を。
※この記事は『Prevention』からの翻訳をもとに、日本版ウィメンズヘルスが編集して掲載しています。
Text: Shannen Zitz Translation: Ai Igamoto