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【凶器はおしり!】おとなしいウォンバットの恐ろしい武器

  • 2025.3.23
おとなしい癒し系は持つ驚きの凶器とは / Credit: Wikimedia Commons

コロコロしたモフモフ。甘ったれで寂しがり屋。ウォンバットには癒ししかありませんよね。

ネットに上がっている動画には、野生のウォンバッドの「背中カイカイ」もいろいろ上がっていて、キュン死する人が続出しています。

おとなしくて、野生でも「ちょっと背中カイカイさせてね」とばかりに寄ってくるウォンバット。でも、このカイカイはウォンバットを滅ぼす危険もあるのです。

それ以外にも、ウォンバットをとりまく危険はどっさり。

でも、ウォンバットもやられているだけではありません。追いつめられると反撃に出ることも。

ウォンバットの最終兵器、それは「おしり」です。

このおしりがめっちゃ凶悪!迫りくる肉食獣を撃退。それでも諦めない相手は、何とおしりで斬殺です!

おしりで斬殺?

いったいどういう秘密があるのか、早速見ていきましょう。

目次

  • ウォンバットの最終兵器はおしり!
  • ゴンドワナ大陸と有袋類の進化

ウォンバットの最終兵器はおしり!

ウォンバットはカンガルーと同様、オーストラリア固有の有袋類です。草食で、おとなしい夜行性。穴を掘って巣にします。穴を掘っても袋に土が入り込まないよう、袋の穴はおしり方向を向いています。うまくできていますね。

こんな動物がいること自体驚異ではと思えるのどかさ / Credit: Wikimedia Commons

このウォンバット、現在では数が減っています。

ウォンバットは毛皮や肉目的で乱獲されたわけではないのに数を減らしてしまいました。ひとつはオーストラリア大陸に人間が増えたことです。

牧場になるなどして、ウォンバットの生息する土地はどんどん狭められていきました。人間は牛や羊を連れてきたからです。

牛や羊は草食性のため、ウォンバットの餌が減ったほか、どこでも巣穴を掘るため、牧場主によって駆除されたり、巣穴を塞がれたりして牧場から追い出されました。

それ以外にも、狩猟用に連れてこられたウサギがいます。ウサギは繁殖力の高い生き物です。ウォンバットと同様、草食性で穴を掘って巣にしているため、狭くなってきている土地はウサギにも奪われました。

人間が狩猟用に連れてきたウサギも敵になった / Credit: Wikimedia Commons

また、これも人間が連れてきた犬が野生化した野犬もウォンバットの敵になりました。

元々、自然発火による大規模な火災も多いオーストラリア。住む土地は人間によって狭くなり、競合する草食動物の登場や、元からいたディンゴなどに加え、新たな肉食動物によって、ウォンバットは一時期、100頭にも満たないほどに数が減ってしまったのです。

実はあの可愛い「背中カイカイ」もウォンバットの敵です。

このダニが大量に寄生し皮膚に潜り込んで疥癬(かいせん)という皮膚病を起こすと毛が抜けてしまいます。

やがて細菌が体内に侵入し、ダニの感染から約3カ月でウォンバットは死んでしまうのです。このダニのため生息数が大幅に減ってしまった地域が出るほど。

ゆゆしき事態です。そこでボランティアスタッフによって家畜用ダニ駆除薬が使われることでだいぶ改善しました。

しかし、巣穴に残ったダニが他のウォンバットに寄生することでも広がっていくため、完全に駆除することはまだ難しい状況です。ボランティアスタッフの努力に頭が下がります。

普段は単独行動のウォンバットですが、巣穴は自分で掘るだけではなく、そこにあるものに適当に入ったりもするようで、そのためにウォンバットはユニークな行動をします。

巣穴の外に自分のフンを置いておくのです。それって「入ってます」みたいな……。

あまりに四角くて笑ってしまう / Credit: Wikimedia Commons

目よりも鼻がいいウォンバットにとって、都合のいい表札がわりですね。普通はむしろ巣穴から離れたところに排泄したり「溜めフン」したりするものだと思いますが、ウォンバットは巣穴の入口あたりに並べておくのです。

このフンがまた直方体をしていて、置いておきやすくなっているんですね。ウサギの糞みたいに乾いた感じではありますが、とても都合よく転がりにくい形で排泄されます。積み木かw

ウォンバットのフンがどうして四角くなるのか、ご丁寧に研究した人もいます。食べた餌と腸の動きで見事この形になるそうで、肛門が四角いわけではありません。ただ、飼育下だと餌の違いでなかなか直方体にならないこともあるようです。

巣穴の使い回しには便利ではありますが、ダニが移るのは困りますね。

疥癬にかかるなどして弱ったウォンバットは捕食者につかまりやすくなります。弱ったウォンバットだけでなく、若い個体もターゲットになりやすい傾向があります。

では、元気いっぱいのウォンバットの場合はどうなるでしょう。

実はウォンバットは時速40kmで走ることができます。逃げ足が速いのです。でも、この速度は90秒ほどしかもちません。

走ると速いウォンバット(ただし超短時間) / Credit: Wikimedia Commons

この90秒が勝負です。ウォンバットは巣穴に逃げ込みます。

そして、そこでストップします。

ウサギのように巣穴の奥深く逃げるのではありません。なぜならウォンバットは有袋類の中で一番体が大きな、穴を掘る生物だからです。巣穴の入口が大きくて、逃げ込めば助かることも多いウサギの穴とは違います。

そこで、おしりで巣穴に蓋をしてしまうのです。

おしりで敵を防ぐウォンバット / Credit: Wikimedia Commons

自分の体の一部で蓋をするという斜め上の発想。そんなことをして助かるのでしょうか?

実はウォンバットのおしりは大きな軟骨で覆われています。軟骨の上に脂肪、そして毛皮。とても硬いのです。おしりをノックしてみると、コンコン!と音がするほど。

そのおしりで巣穴に蓋をします。肉食獣が噛みついても歯が立たず、ウォンバットも痛みは感じません。そうやって肉食獣が諦めて去るのをじっと待ちます。

でも中には諦めの悪い相手もいるんですね。そんな時、ウォンバットは蓋をゆるめます。肉食獣は「おっ、ついに諦めたか」とばかり頭を突っ込みます。そうするとウォンバットは……

ゴン!

勢いよくおしりを振り上げます。硬いおしりで敵の頭を巣穴の天井にぶつけるのです。これを何度も繰り返すと、敵は頭蓋骨を砕かれてしまいます。

頭蓋骨を砕かれて死んだ肉食獣の死体がウォンバットの巣穴の転がっているのを見ることがあるそうですが……これが理由でした。

おしりにやられたんですね。

ウォンバットの最終兵器、それは頭蓋骨をも砕く凶悪な「おしり」だったのです。

ゴンドワナ大陸と有袋類の進化

ウォンバットに限らず、オーストラリア大陸の動物はユニークなものが多いですね。最終兵器がおしりのウォンバット、逃げ足が速いだけでなく、その足が強力な武器にもなるカンガルー、飛べないけれど走るのが速いエミュー、卵を産むのに哺乳するカモノハシ。

その特徴は袋の中で子育てする有袋類の多さと、卵を産んで哺乳で育てる単孔類がいること、そして飛べない鳥。それぞれユニークな特徴を持っています。

オーストラリアにユニークな生き物が多い理由とは / Credit: Wikimedia Commons

オーストラリア大陸はどの大陸とも繋がっていません。そのため、ユニークな固有の生物が進化しているのですが、では、なぜ有袋類や単孔類のようなユニークな生物がオーストラリア大陸に多いのでしょうか。

これはオーストラリアがゴンドワナ大陸から分裂してできたことに関係しています。

ゴンドワナ大陸は1億8000万年前頃(ジュラ紀中期頃)、超大陸パンゲアが分裂して生まれました。

超大陸パンゲアから分裂したゴンドワナ大陸が鍵 / Credit: Wikimedia Commons

パンゲアが分裂したことで北半球側のローラシア大陸、南半球側のゴンドワナ大陸となり、ゴンドワナ大陸は、現在のアフリカ大陸と南アメリカ大陸を含む西ゴンドワナ大陸と、南極大陸、インド亜大陸、オーストラリア大陸を含む東ゴンドワナ大陸に分裂しました。

単孔類に分類される動物は、哺乳類の初期系統から分岐した現存する特殊なグループであり、卵を産んで哺乳するという特徴を持っています。これは現代ではオーストラリア大陸に生息するカモノハシやハリモグラとして残っており、卵を産み、哺乳して育てる希少な存在です。

単孔類はオーストラリアだけに生息 / Credit: Wikimedia Commons

その後、有袋類が生まれ、その後に有胎盤類(いわゆる普通の哺乳類)が生まれたことがわかっています。

単孔類や有袋類は有胎盤類との競争に敗れました。ただ、オーストラリア大陸と南アメリカ大陸には地理的な影響で有胎盤類が侵入できなかったと考えられています。

その後、南アメリカ大陸での有袋類は生き残りに苦戦したようで、アメリカ有袋類として残っているのはオポッサム科目と少丘歯目のみ。北米大陸へは唯一、北オポッサムのみが移動して生き残っています。

ほとんどの有袋類がオーストラリアで繁栄しているのは、オーストラリアがどことも繋がらない、独立した大陸だからなのでした。そのため有胎盤類に駆逐されることなく、有袋類や単孔類が生き残ったのです。

オーストラリアとアフリカ大陸が、かつてどちらもゴンドワナ大陸だったことがよくわかるのがバオバブです。

アフリカやマダガスカルのイメージがあるバオバブはオーストラリアにもある / Credit: Wikimedia Commons

葉のない時期には空に向かって根が生えているような、あの不思議植物バオバブは、アフリカ大陸、アフリカ大陸に寄り添っているマダガスカル、そしてオーストラリアにのみ生えている植物です。

アフリカとオーストラリアは遠く離れているのに、どうして同じようにバオバブが見られるのか。これもゴンドワナ大陸がキーになっているのです。現在、南米に見られるツノガエルもゴンドワナ系の生物です。

他のエリアにはいないユニークな生物が大陸移動に関係していることがわかると、生物を見る時の目がちょっと変わってきますね。

おしりが凶悪な最終兵器のウォンバットはオーストラリアに棲息するユニークな有袋類です。

それは、元を辿ればバオバブやカモノハシ同様、ゴンドワナ大陸に関係しています。オーストラリア大陸が、他のどの大陸とも繋がらない独立した大陸として成立したことで、多くの有胎盤類に駆逐されず独自の生存戦略で生き延び、進化した結果なのでした。

ゴンドワナ大陸からのオーストラリア大陸分裂。これがユニークな動物がオーストラリアで繁栄している、また、最終兵器が凶悪なおしりになったウォンバットの秘密だったのです。

このまま増えていってほしい野生のウォンバット / Credit: Wikimedia Commons

参考文献

世界唯一”四角いうんち”する「ウォンバット」の謎 モフモフ毛皮とつぶらな瞳の可愛すぎる生態
https://toyokeizai.net/articles/-/638093
Wombat researchers’ Tasmanian study develops new theory on mange mite transmission(ウォンバットの疥癬について)
https://www.abc.net.au/news/2023-09-19/tasmanian-wombat-mange-research-burrow-theory/102870538

元論文

大陸移動説と生物地理学との関係(II)
https://doi.org/10.11238/mammalianscience.12.1_1

ライター

百田昌代: 女子美術大学芸術学部絵画科卒。日本画を専攻、伝統素材と現代素材の比較とミクストメディアの実践を行う。芸術以外の興味は科学的視点に基づいた食材・食品の考察、生物、地質、宇宙。日本食肉科学会、日本フードアナリスト協会、スパイスコーディネーター協会会員。

編集者

ナゾロジー 編集部

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