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【潜入レポ】過去と未来が交錯する未完の漫画、手塚治虫「火の鳥」展で生命の神秘とストーリー構造の奥深さに心を震わせて

  • 2025.3.23

数々の名作を生み出した漫画家、手塚治虫。彼が「自らのライフワーク」と称した作品、それが『火の鳥』です。その血を飲んだものは永遠の命を得るという伝説の鳥・火の鳥を追い求める人々の葛藤を描く長編で、作品は過去と未来を交互に行き来しながら、「生と死」「輪廻転生」といったテーマを壮大なスケールで表現。哲学的で独特な世界観は、連載開始から70年が経った今も人々の心をとらえ、揺さぶり続けています。そんな手塚の最高傑作『火の鳥』初となる大型展覧会が3月7日から、六本木ヒルズ森タワー52階・東京シティビューでスタートしました。

この展覧会の面白さのひとつに挙げられるのは、生物学者であり作家の福岡伸一氏が企画監修をおこなっている点。黎明編から太陽暦編まで主要12編の展示は、福岡氏の仮説によって深掘り解説されています。人間にとって深遠のテーマである生きることと死ぬことの意味を問い続け、不死鳥・火の鳥が“生”に執着する人間を翻弄しながら動いていく物語。あらゆる生命が時代時代に合わせて姿形を変えながらも連綿と受け継がれていく輪廻転生の生命観と汎神論的な世界観。当時すでに「破壊と創造」というイノベーションにたどり着いていた手塚治虫の発想力と画力にあらためて驚かされます。

会場構成も、物語に合わせてプロローグから始まる3章立て。手塚の貴重な直筆原稿約400点に加え、映像、関連資料、そして『火の鳥』の世界観を表現するグラフィックなど計約800点の展示品が並びます。特に原画は目を凝らしてじっくり観察したくなるほどの充実ぶりで、漫画の神様・手塚治虫の筆致を「見て・読んで・体感できる」展覧会になっています。本作は未完に終わっていますが、結末について、手塚が物語のなかに残したヒントから福岡氏がひとつの仮説を立て、『火の鳥』最大の謎を考察しているのもユニークです。

さらに魅力的なのが「プロローグ 火の鳥・輪廻シアター」と名づけられたエントランス展示。海抜250m、東京シティビューの眺望を背景に、時空を超えて変容する生命の象徴として描かれた火の鳥の“動的平衡”アニメーションと6基のモニターにランダムに映し出される『火の鳥』の名シーンは、まさに圧巻の一言。六本木の風景と相まって、鑑賞する時間帯によってはまるで自分自身もコスモゾーンに迷い込んだかのような錯覚に陥りそうです。

「火の鳥」展ミュージアムショップには、ここでしか手に入らないオリジナルグッズも充実!ステッカーやブックマーカー、ノートにマスコットの他、福岡伸一氏が独自の切り口で『火の鳥』を紐解き、展覧会では紹介しきれなかった解説や、手塚治虫が死の直前に描きたかった最後の1コマにまで迫る「会場限定公式ブック」も入手可能です。原作ファンはもちろん、『火の鳥』をまだ読んだことがない人をも夢中にさせる展覧会。ぜひご家族で訪れてみてはいかがでしょう。

【展覧会概要】
手塚治虫「火の鳥」展 —火の鳥は、エントロピー増大と抗う動的平衡=宇宙生命の象徴—
会期:〜5月25日(日)
会場:東京シティビュー(六本木ヒルズ森タワー52階)
開館時間:10:00〜22:00(最終入場21:00)
公式サイト:hinotori-ex.roppongihills.com
お問い合わせ:東京シティビュー 03-6406-6652(受付時間:10:00〜20:00)
©Tezuka Productions

この記事を書いた人

エディター/ライター 久武ミキ

久武ミキ

出版社、広告会社勤務を経て独立。女性誌、専門誌などでビューティー&ウェルネス、アートを中心に、ライフスタイルにまつわる記事を多数執筆。東京と鎌倉で2拠点生活をおくる猫好き編集者。

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