女の子なら誰しもが望む言葉。女の子の夢と憧れが詰まった魔法。
「かわいい」
たったその四文字は、私にとって呪いの呪文だった。
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ピンク。キラキラのラメ。リボンやレースがついたワンピース。物心つく前からそんなものが大好きで、気づけば身の回りにいっぱい溢れていた。机はピンクだったし、文房具も食器もピンクで揃えた。選択肢の中にピンクがあれば、必ずピンクを選ぶ。かわいいものを見ればわくわくして、身に着けると幸せな気持ちになった。
小学校の途中ぐらいからだろうか。同じクラスの男子に顔の特徴をからかわれたことがきっかけで、自分の容姿を極端に意識するようになった。意味もなく、一日に何度も鏡を見た。鏡の向こうにいるのは、猫背で身長が低い冴えない少女。丸くふくれた輪郭には、小さい目、大きな鼻と腫れぼったい唇が目立つ。当時の自分にとって、そんな姿にとうてい「かわいい」という言葉は似合わないように思えた。
“かわいいものは、私には似合わない”。いつのまにか、自分で自分に呪いをかけていた。レースもリボンも避けて、ズボンばかり履くようになった。ピンクの文房具たちは引き出しの奥にしまわれた。
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高校生になってSNSを始めると、さらにコンプレックスは加速していった。そこには自分と歳の変わらない、けれど自分よりはるかに顔が小さくて目が大きくて、手足の細長い女の子たちがたくさんいた。髪を巻いて、大きなリボンのついたワンピースを着て、カフェでスイーツを食べる彼女たち。好きなものを堂々と好きと言えるのが何よりも羨ましくて、妬ましかった。そんな歪んだ性格の自分をますます嫌いになっていった。
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―—生まれて三十秒で最初に聞いた言葉は、当たり前にそりゃ覚えてないけど、うれしかったはず。——
大学一年生の冬だった。暇つぶしに見ていたユーチューブに現れたアイドルの映像に、心を奪われた。
画面いっぱいに映る、七人の少女たち。大きなリボン、フリルをふんだんにあしらったカラフルな衣装、弾けるような笑顔とダンス。全身を使って「かわいい」を体現する彼女たちに、卑屈さや謙遜なんて一切感じられない。そこにある「かわいい」は、顔の造形の美しさを指すものではなかった。「私、かわいいでしょ!」そう全力で主張する自信に満ち溢れた姿そのものが、最高にかわいくてキラキラ輝いて見えた。似合う似合わない、そんなことを気にしていた自分がなんだかちっぽけに思えて、長年の呪いから解放されていく気がした。
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クローゼットの奥で埃をかぶったワンピースを引っ張り出してみる。思い切って、髪をピンク色に染めた。
今でも見た目のコンプレックスは消えないし、人目を気にして好きな服を着れないこともある。ためらうたびに、ステージの上で踊る彼女たちの姿が勇気を与えてくれる。「かわいい」いつかこの言葉が私を縛る呪文ではなく、私を幸せにする魔法の言葉に変わることを願って、今日もピンクを手に取る。
■かがみもちのプロフィール
大学生。趣味は映画鑑賞です。食べることと寝ることが好きです。