織物の町として知られる京都の西陣。応仁の乱で西軍が陣を構えたという歴史あるエリアの社寺は、春になると地元の愛され桜で華やぎます。そのような寺院は、昔から絵師や芸術家との縁が深く、今もそれぞれの至宝を大切にしています。さらに、茶道の表千家、裏千家の家元が本拠を構えるのもこの地。和菓子とお抹茶でほっこりしながら、西陣の春を満喫しましょう。
西陣の知る人ぞ知る秘密の桜めぐり3選
西陣の桜めぐりは、水火天満宮からスタート。京都駅からバスで約30分の天神公園前で下車すぐです。
平安時代に創建された日本最初の天満宮は、春になると2本の紅しだれ桜が枝いっぱいに花を付け、境内がピンク色に染まります。参道を歩くと、まるで天から桜が降り注ぐよう。2本の桜は、それぞれ早咲きと遅咲きなので、見ごろが長く続くのもポイントです。
境内には、ご祭神の菅原道真公の霊が降り立った鴨川の石「登天石」が残り、水難火難除けに加え、就職祈願に訪れる人も多いそう。お参りの後に、心ゆくまで桜を楽しみましょう。
水火天満宮を後にし、メインストリートの堀川通から1筋東の小川通に入ると、間もなく右手に見えてくるのが本法寺です。
仁王門を彩る桜に迎えられ、参道の桜並木を進みます。満開の時期は、ピンクの雲に多宝塔が浮かぶように見えることも。その先の本堂前には、ひときわ立派な1本桜。お堂や塔と桜が響き合う春の風景を見ると、京都に来たということが実感できますね。
また、本堂前にたたずむのは、本法寺を頼り京都での絵師生活をスタートした長谷川等伯の像。境内奥では、江戸時代の茶人であり芸術家でもあった本阿弥光悦が手がけた「三巴(みつどもえ)の庭」や宝物館も公開されています。
本法寺を出て小川通を南へ下ると、風情ある裏千家宗家、そしてお城の門を思わせるような表千家宗家が連なります。突き当りを左に曲がると姿を現すのが、鎌倉時代に京都最初の日蓮宗道場として創建された妙顕寺です。
広い門前には気品ある紅しだれ桜、境内にはソメイヨシノも咲き誇ります。また、夜間拝観も予定されており、客殿前の「四海唱導の庭」に美しく浮かび上がるしだれ桜も見逃せません。
さらに、書院前には江戸時代の絵師・尾形光琳の作品をイメージした「光琳曲水の庭」、ネスカフェのCMにも登場した「孟宗竹の坪庭」など、隠れた見どころがいっぱいです。
四季の襖絵と遊び心ある桜の窓「妙蓮寺」
妙顕寺からは、寺之内通を西へ徒歩で約6分。この辺りにお寺が多いのは、豊臣秀吉の都市計画によるものなのだとか。
鎌倉時代創建の妙蓮寺は、秋から徐々に咲き始め春に満開になる「御会式桜(おえしきざくら)」が知られていますが、花を描いたすてきな絵画にも出会えます。
藤の花咲く下で、かわいい鹿たちが戯れる襖絵は、幸野豊一氏による昭和時代の作品。幸せそうな雰囲気が好まれて、最近では結婚式の前撮りスポットとしても人気があるそう。
襖絵のある書院からは、御会式桜やツツジが咲く枯山水庭園が眺められます。こちらの「十六羅漢石庭」は、釈迦と16名の弟子たちを描いたといわれますが、中央の大きな石を釈迦とし、残る15石と庭を見る自分自身をあわせ十六羅漢とする解釈もあるそう。
渡り廊下で面白い窓を発見しました。桜の形をしています。妙蓮寺は御会式桜だけでなく、ソメイヨシノ、しだれ桜、最後は八重桜と多彩な桜が少しずつ時期をずらして満開になります。桜の窓がピンク色に染まる頃が楽しみですね。
茶の湯の聖地にたたずむ「茶ろん たわらや」
茶道の家元が集まる小川通と寺之内通の交わる辺りに、白いのれんを掲げる和菓子屋さんがあります。今から約270年前に創業した俵屋吉富が手がける茶房です。店横の小径の先にある隠れ家のような空間で、和菓子やあんみつ、わらび餅などの和甘味を楽しめます。
京都の茶の湯文化を支える老舗和菓子店で味わいたいのは、やっぱりお抹茶とお菓子。2~3種から選べる上生菓子と丸久小山園の抹茶で、ひと息つきましょう。
あんみつも他では見ない珍しいスタイル。大きな寒天に2色の白玉、丹波大納言小豆の粒あんとアイスクリームが添えられており、白蜜、黒蜜、和三盆の3種から好みの蜜をかけます。
帰りには、併設のショップで、銘菓「雲龍」などのおみやげ探しも楽しめますよ。
銭湯を改装したレトロカフェ「さらさ西陣」
近年注目を集めている昭和レトロ。水火天満宮や妙蓮寺から徒歩で10分ほどの「さらさ西陣」は、銭湯として親しまれていた築90年超の趣深い建物をリノベしたカフェです。
店内に足を踏み入れると、壁を彩るカラフルなタイルが目に飛び込んできます。大正から昭和初期にかけて流行した「マジョリカタイル」という装飾だそう。男湯と女湯を仕切る壁もそのまま残されていますよ。
人気のランチメニューは、とんかつにふわとろ玉子、トマトスパゲティ、エビフライ2尾をのせた「トルコライス」。お子様ランチのようでもあり、お店のレトロな雰囲気とリンクして懐かしさがこみ上げてきます。
もちろん、パフェやケーキなどのスイーツも豊富なので、午後のティータイムに立ち寄るのもよさそうです。
西陣の桜さんぽ、いかがでしたか?「西陣」という地名は知っていても、実は行ったことがないという人も多いかもしれません。2度目、3度目の京都の春を楽しむなら、ぜひ訪れてみてくださいね。