1. トップ
  2. レシピ
  3. 「ドカ食いだいすき!もちづきさんと同じ食生活をしてみた結果...」/酒飲み独身女劇場 ハッピーエンドはまだ来ない㉖

「ドカ食いだいすき!もちづきさんと同じ食生活をしてみた結果...」/酒飲み独身女劇場 ハッピーエンドはまだ来ない㉖

  • 2025.3.21

『ドカ食いだいすき!もちづきさん』

わたしは、たらふくご飯を食べたあと、うとうと眠くなる時間が好きだ。

四六時中、あらゆる考え事が頭の中から消えず、気が休まらない自分にとって、この時間は日曜日のような心持ちにさせてくれる。

今日みたいに締め切りに追われている日は、流石にジャンクフードを食べておやすみなさいするわけにはいかない。

そういうときは、たくさん食べる女の子を見ることにしている。

その中で出会ってしまったのが漫画『ドカ食いだいすき!もちづきさん』だった。

天使のような微笑みに癒されるゆるふわ天然OLもちづきさんが、いっぱい食べてお腹を満たすほんわかグルメ漫画。

彼女は、出勤中にうっかり約5000kcalほどご飯を食べてしまったとき、満腹と高血糖で酩酊する時間がたまらないと天に羽ばたく勢いで至ってしまう。

これまで、たくさんご飯を食べる作品を見てきたが、この愛すべき酩酊を共感してくれたのは 、もちづきさんが初めてだった。

唐揚げにカロリーハーフマヨネーズをかけたら、計算上かければかけるほどカロリーは減っていくので、実質カロリー0だと信じて疑わなかったりと、少し様子がおかしいところはあるけれど、ジャンクフード好きに悪い人はいないはずなので、細かいところは気にしないようにしている。

それに玄米は、白米と比べるとパサパサしていてなんだかなぁ…と食わず嫌いをしていた自分に、玄米をハーフカロリーマヨネーズでコーティングしたらしっとりして食べられるんじゃないか?という新たなる提案を授けてくれたのも、彼女だった。

わたしは、普段から友だちが少なく、ひとりでも十分楽しい人生を送れると思って生きてきたが、その想いが十数年ぶりに揺らぎはじめた。

もちづきさんと本当に心の底から友だちになりたい。

彼女は現実世界にはいないけど、自分から友だちになってくださいと思える相手が現れたのは、酒村人生史における革命に近い出来事だった。

『酒村自家製4000kcalオムライス』

とある日、スーパーで卵を買った帰り道、うっかり卵を落としてしまい、全て割ってしまったことがあった。

お腹が空いていたとこもあって、ひたすらブルーな気持ちに染まっていたとき、イマジナリーもちづきさんが現れ、わたしに声をかけてくれた。

「簡易オムライスなら、簡単に卵も消費できて、おなかいっぱいにすることができるよ」と。

早速、冷蔵庫からニンジンやブロッコリーを取り出し、ぶんぶんチョッパーという刻みマシンを使って細かくしていく。

ウインナーは包丁で丁寧に…ではなく、小さいのと大きいのが混ざっているけどこれがいいのというもちづきさんの言葉に、不器用なわたしは勇気づけられる。

どこの家庭にもある10合炊き炊飯器 は、わたしの家にはなかったけど、レシピ通り4合のごはんと刻んだ具材たちをケチャップと一緒に炊き込んでいく。

炊き込み中の待ち時間に、お風呂に入る 体力はわたしには残っていなかったので、しっかり者のもちづきさんには頭が上がらない。

完成間近に、先ほど割ってしまった卵を全て溶いたら、オムライスの赤ちゃんをフライパンの上でじゅわぁっとあやしていく。

そしたらあっという間に、簡易オムライス約4000kcalの完成だ。

卵がケチャップライスの傾斜に耐えられず、ちぎれてしまうほどの迫力にごくりと息を呑む。

さらには、調子に乗ってカップ焼きそばまでつくってしまったので、どんちゃんお祭り騒ぎの食卓になってしまった。

喫茶店に出てきそうなきらめきオムライス、卵の部分はとろふわで90点 。

しかし、ライスの方は量を入れすぎたせいか、少しべちゃっとしてしまったので60点。

それでも、大家族向けくらいの量をこんな簡単に自分でもつくれるんだという経験は、自分はだめなんだ…と卵を割ってブルーになっていた自己肯定感を、ぐっと引っ張ってくれる。

さらに、もちづきさんは、オムライスはケチャップだけじゃない。

好きなもの、マヨネーズだってかけてもいいんだよということに気付かせてくれる。

なんでもマヨネーズをかけていて、やめなさいと怒られていた子供の頃の自分に、免罪符としてこの漫画を持たせてあげたい。

ただ、不思議と三分の一ほど食べ進めたところで、急にスプーンを運ぶ手がぴたりと止まってしまった。

どうして? わたしの手、動いてよ。

カップ焼きそばまで欲張ってしまったせいか、お腹いっぱいになってしまったのだ。

もちづきさんは、ほとんど食べ終えて次の日軽くお弁当に持っていく程度で済んだのに。

その後、数日間オムライス生活が続き、もちづきさんに友だちになってくださいなんて言える立場ではないことを思い知らされた。

それから 数ヶ月後、ケンタッキー、ステラおばさん、鎌倉パスタ、あらゆる食べ放題で胃袋を拡張し、再びわたしはもちづきさんの簡易オムライスをリベンジする日を迎えた。

『リベンジオムライス』

なんと、もちづきさんのコラボカフェが期間限定で開催されていたのだった。

殺伐とした店内では、もちづきさんの友だち 候補の仲間たちが、デスゲームに挑むような姿勢で鎮座している。

そして、わたしもそっと席につき、そわそわしていると再びあの簡易オムライス約4000kcalが目の前に現れた。

ごぉんと小惑星が飛んできたのかと勘違いしてしまうほどの大きさ。

恐る恐る一口食べると、ケチャップが甘しょっぱくておいしーーー!!

本家の方が、味がしっかり輪郭を描いている。

お米に芯もなければ水っぽくもなく、流石としか言いようがない。

確かに、これだったらぺろりと食べ切れるかもしれない。

注意書きには「体調がすぐれないお客様はご遠慮ください」と書かれていたので身構えてしまっていたけれど、これで一安心だ。

ケチャップライス中央にはお馴染みの具材たちが、宝石のように眠っているので、味に飽きることなく、健やかな気持ちで至ることができた。

完食した人しかもらえないステッカーは、これまでもらってきたどの賞状よりも誇らしい。

ところが周囲は、簡易オムライスどころか、全メニュー制覇する勢いでコラボフードを注文していたので、これが野生のもちづきさんかと夢と現実の間でうっとり。

ドカ食い気絶寸前で、語彙力も低下していたので、声をかけることはできなかったけれど、もしあの時、誰かしらに声をかけることができていたら、もちづきさんのような友だちをつくることができたのだろうか。

はたまた、食事に集中しているところを妨害したと見なされ、威嚇されただろうか。

ちなみに、食後のデザートにと頼んだコーヒーセット。

食後はほっと一息つかないと、ここに泊まることになってしまうので、コーヒー飲んで目を覚まそうとしたのも束の間。

一緒についてきたチョコバーを一口食べてみたら、息ができなくなるほど重たいチョコバーで、ねずみとり餅のように口の中をキャラメルが占領してきて窒息するかと思った。

最後の最後まで、もちづきさんのコラボカフェは油断ならない。

そんな彼女を見習って、翌日健康診断に行ってみたら、衝撃なことに体重が4キロ増量していた。

しまったな…。これからしばらくは、玄米とカロリーハーフのマヨネーズに支えてもらうか。

元記事で読む
の記事をもっとみる