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足がなくなると生活はどう変わる?車いすや義足ユーザー5人のインタビューをまとめた、心に迫るノンフィクション【書評】

  • 2025.3.21
もしも明日、ぼくの足がなくなったら 舟崎泉美/Gakken

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車いすや義足を使用している人に対して「かわいそう」といった感情を持っている人がいたら読んでほしい。読み終わってそう強く感じたのが舟崎泉美氏の『もしも明日、ぼくの足がなくなったら』(Gakken)だ。

本書は、なんらかの理由で足を失い、車いすや義足を使用することになった5人へのインタビューを、小説『ギソク陸上部』(Gakken)の著者である舟崎氏がまとめた一冊。登場する5人の足を失った理由は病気や事故など様々だが、医師から足の切断を迫られた際の葛藤や決意までの心の動きなど、当事者だからこそ伝わってくるリアルな感情が心に迫る。

しかし、登場する5人はその体験と苦悩を義足によって切り拓き、前向きな明るさを持ち合わせ、そして足を失った自分が義足や車いすという武器を得て健常者の社会に一石を投じようとしているようにも感じられる。

まず本書では、健常者では普段意識しないことがリスクであることを教えてくれる。

例えば事故で両足を失ったsakiさんは退院後に車いすで街に出るが、まだ自力で車いすに戻ることができなかったsakiさんには転倒のおそれがある「段差」がとても怖かったという。

股関節離断により股関節義足を使用しているイラストレーターの須川まきこさんは、足の筋肉が少ないので足を滑らせてしまうと踏ん張れずに倒れてしまうため、滑りやすい濡れた床などは気を付けている。

このような健常者が日常とくにリスクとして意識していないことが、車いすや義足の人たちにとっては大きなリスクになっていたことに気付かせてくれる。

また、バリアフリーのデザインが障がいを持つ人たちにどのように役に立っているのかもsakiさんは教えてくれる。

駅での設置が増えたエレベーターは入り口と出口が反対であることが多いが、これは車いすユーザーにとってはエレベーター内で車いすを反転させる必要がなく、乗った方向のままエレベーターを降りることができるようにするためである。デパートなどのエレベーターは乗降口は一つだが、大きな鏡がついているため、車いすでバックで降りる際に鏡で後ろを確認できるので便利なのだという。

本書のなかでもイラストレーターの須川まきこさんの言葉はとても心に残る。股関節離断の手術後に義足をはいてリハビリをおこなう際に、子どもから高齢者まで、皆が頑張って練習している姿を見て、「足がないことへのマイナスイメージ」が一気に消えたという。

引用----

“みんなマイナスじゃなくてゼロなんだ。ここからスタートしてプラスになるんだ”

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須川さんのこの言葉は障がいを持つ人たちだけでなく、健常者にも大切な言葉だと思う。

ほかにも「骨肉腫」と診断された勅使河原みなみさんは足を温存するか切断するかを選択しなければならなくなったが、「走ること」のために左足の切断を決めたという。

本書に登場する人たちは足を失ったことに対して向けられる周囲の目や「かわいそう」という感情に不快感を抱いている。なかでも「かわいそう」という感情は根深い。それは足を失ったことが「マイナス」であると健常者も考えてしまうからだ。だからこそ須川さんの「ゼロなんだ」という言葉は大切だ。

足を失っても「ゼロからスタート」を可能にするのが義足であり車いすなのである。

障がいを持つ人を「知る」ことから理解が得られ、理解から自然と助け合いの世の中になる。本書はそんな「知る」を始める一冊となるだろう。

文=すずきたけし

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