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大塚国際美術館で開催されたNight Tempoと菊池桃子のプレミアムな一夜【MOMOKO TEMPO ライブレポート】

  • 2025.3.21

【写真】Night Tempoによるグルービーで圧巻のDJプレイ

2025年3月15日(土)、徳島県・大塚国際美術館システィーナ・ホールにて「楽演祭EXTRA 別冊カドカワ × 大塚国際美術館 × A.C.P.C. MOMOKO TEMPO Night Tempo meets 菊池桃子」が開催された。Night Tempoにとっては、かねてから熱望していた菊池桃子との共演が遂に実現したこの日。デビュー40周年のアニバーサリー・イヤーを迎えた菊池桃子にとってもレアなパフォーマンスを披露する機会となった。この日の模様をレポートし、終演後の二人のコメントと共にお届けする。

※大塚国際美術館提供

Night Tempoにとって菊池桃子とラ・ムーはどんな存在なのか?

イベントはNight Tempoと筆者(柴那典)によるトークパートからスタート。Night Tempoが現在の音楽活動をスタートするきっかけとなった原点としての存在が菊池桃子とラ・ムーであることを告げ、ファンとしての深い思い入れを明かす。昨今の世界的なシティ・ポップのリバイバルブームの立役者の一人でもあり、海外でもたびたびDJパフォーマンスを行っている彼。80年代の日本のポップスがなぜ海外で人気となっているかを、大きな熱狂を生んだというLAでのライブパフォーマンスの実体験と共に語り、ラ・ムーのオリジナリティと魅力を解説した。

ライブパートはNight TempoのDJからスタート。菊池桃子の楽曲を中心にダンサブルなナンバーを繰り出し、フロアに熱気をもたらす。背後のビジョンにはVJをつとめたMIKURU YAMASHITAのフューチャーリスティックな映像が映し出され、システィーナ・ホールの荘厳な空間に独特のムードを生み出していた。

そして、大きな歓声に迎えられて菊池桃子がステージに登場。まず披露したのはラ・ムーの代表曲「愛は心の仕事です」だ。この日のために作り上げたオリジナルなアレンジは、原曲よりもダンサブルな仕上がり。菊池桃子のエアリーな歌声が心地よく響く。二人の和やかなトークを挟んで、続いては「青山Killer物語」。さらに「少年は天使を殺す」と、この日に披露したのはすべてラ・ムー時代のナンバーだ。貴重なパフォーマンスに集まったファンも大きな盛り上がりを見せていた。歌い終えステージを降りた菊池桃子を見送ったNight Tempoは最後に「Say Yes!」をプレイ。熱狂の中ライブは終了となった。

ライブ終演後の二人にインタビュー

——まず、ライブを終えての感想はいかがでしたか?

菊池桃子:楽しかったです。

Night Tempo:僕は感動しました。何年も前からライブをご一緒したかったんですけれど、いろんな事情があってなかなか叶わなくて。ほぼ諦めかけていたんですけど、本当に実現してすごく感無量です。

――ステージに立っての印象はいかがでしたか?

菊池桃子:まず、歌う場所としては見たことがないような特別な場所で。その景色もすごく美しかったですし、Night Tempoさんが作ったアレンジで歌うというのが、場所もあいまって、すごく気持ちが良かったです。私だけかと思ったら、聴いてくださっている方々もすごく爽快そうに音楽を楽しんでいました。

——いつものライブとはサウンドもかなり違っていたと思います。

菊池桃子:全然違いますね。私たちは原曲のイメージを持ってしまっているので、すごく不思議な感覚がしました。でもそれはすごくいい意味で、新しくて、楽しいです。

——Night Tempoさんは今回のライブのためにスペシャルなアレンジをしたということですが、どんな曲にしようと思っていましたか?

Night Tempo:やはり原曲の印象が強いので、自分なりに、この空間なりにどんな違うことができるのか最初は悩んでました。原曲にはいろいろな生楽器の音色があるんですけれど、僕はラ・ムーの世界観に近未来感を感じるので、もうちょっと近未来感を出そうと思って。今回は欧米のシンセポップよりのアレンジにチャレンジしてみました。とはいえ桃子さんの声ありきのライブなので、最初にアレンジをした時は確信までには至らなかったんですけれど、リハーサルで一緒にやっていただいて確信ができて。今日は自信を持って皆さんに披露できたと思います。

——菊池さんはNight Tempoさんのサウンドや曲調に関してはどんな風に感じましたか?

菊池桃子:前に他の曲もリエディットしていただいて、リリースしているんですけれども、それを聴かせていただいた時に、なんだか……日本語はすごく上手でいらっしゃいますけど、母国語が日本語だけだったら「絶対ここでは切らないでしょう」というところで切って繰り返したりとか、そのあたりが目から鱗だったんです。それだけじゃなくて、今回もシンセの音の聴こえ方とか、いつも知らない世界に連れて行ってくれるので。未来からやってきた人みたいな、そんな感じがします。

——今回のイベントは大塚国際美術館のシスティーナ・ホールという、なかなかライブには使われないレアな場所でしたが、そのステージに立ってみての感想はいかがでしたか?

Night Tempo:僕は空気感自体が自分の好みすぎて、いつかまたできたらいいなって思うくらいでした。響きも、その空間に桃子さんが前に立っているところも含めて最高でした。

菊池桃子:現実というよりも夢みたいな景色で。もしかしたら夢オチかもしれないって(笑)。こういう経験は日常ではなかなかしないので、今日来てくださった方々も同じ気持ちになってくれていたら嬉しいですね。

ラ・ムーは日本では再評価と言われているが、海外ではもともと評価が高かった(NightTempo)

——今日パフォーマンスされたのはすべてラ・ムー時代の楽曲でした。菊池さんはラ・ムーの楽曲が海外で再評価されていることや若い世代のリスナーに受け入れられていることについて、どう感じていますか?

菊池桃子:単純に時が経ちすぎているので、最初に聞いた時は本当なのか疑いました。でも、私がラ・ムーをリリースした時はCDしかなかったわけですけれど、今はインターネットという繋がりがあるからこそ、世界中の方が聴いてくださるようになって。デビュー40周年のリリースイベントにも10代の方が来てくれたりとか、みんな配信がきっかけなんですね。私がデビューした時はまだインターネットの環境が整っていなかったので、テクノロジーの進化がラ・ムーを今の時代に連れてきてくれた感じがします。

——Night Tempoさんはいかがですか? 今のラ・ムーの再評価については、どんなふうに感じていますか?

Night Tempo:みんな気付くのが遅すぎると自分の中では思ってました。自分としてはずっと前から普通に聴いていたし、自分の周りの海外のDJの友達たちもみんな聴いてたので、当然なことだと思います。日本では再評価と言われますけれど、再評価じゃなくて、もともと評価が良かったんだよって。

Night Tempoさんの世界を自分が理解していったら、もっと面白くなっていくと思う(菊池桃子)

——菊池さんはデビュー40周年のアニバーサリーイヤーを迎えられましたが、振り返ってどんな感慨がありますか。

菊池桃子:40周年って相当長いじゃないですか。自分でも驚いています。私は芸能人とか歌手になりたいと思って自分からオーディションを受けたりアプローチをしたりした人間ではないので、よくこんなに長くこの場所にいることができたなって。最初に藤田浩一さんという音楽プロデューサーにスカウトされた時に、「私、歌の練習はしてないですけど」「お芝居の練習もしてないですけど」って言ったんですけど、「いや、できる」って言われて、誘っていただいたんですね。しかもその藤田さんが事務所の社長で、そこはオメガトライブとか杉山清貴さんとかがいる、音楽に特化した事務所だったんです。拙い私を英才教育してくれたなって思います。

——そういったいろんな巡り合わせや出会いが今につながっている。

菊池桃子:Night Tempoさんが私が歌う曲をまた新しく作ってくれると聞いて「なんで?」と思ったんです。もっとたくさん歌手がいるし、私自身ももっと面白い人がいるんじゃないかなって何人か思い当たる方がいて。でも、当時藤田さんには、私が小さい頃からピアノをやっていたこともあって「8ビートまでしか身体に入ってない」と指摘されて。「僕と一緒に音楽をやるんだったら、16ビートまでちゃんと感じてないとダメだよ」ってことを言われたのが中学生の時で。そこから16ビートを感じるタイプの曲じゃなくても16ビートで分割して音を聞き始めました。そういうところがデジタルの波形を調整していく時にやりやすいのかな、と想像したりしていました。

Night Tempo:藤田さんのコンセプトや世界観、手掛けている方たちの音楽もイメージも含めて僕は全部好きで。こういうプロデュースができたらいいなとずっと思いながら、今は自分もいろいろ勉強しているんですけれど、まだまだ足りないです。

[B菊池桃子:[/B]私は藤田さんの記憶がありますけれども、今Night Tempoさんがこうして音楽をまた新しくしてくださっているのを、お元気で見られていたら、絶対に「ありがとう」って喜んでくれただろうと思います。

——最後に、今回の公演はお二人にとってどんな機会になったと思いますか?

Night Tempo:初めてのスタートラインになったんじゃないかなと思いました。夢としては、またいろいろできたらいいなと思っていて。やっぱり、いつも「はじめまして」が難しいんですよね。そこからはいろんな機会が回ってくるんじゃないかなと希望しています。

菊池桃子:今日の「はじめまして」の感じもフレッシュで、それはそれで価値があると思いたいですけれど、これからNight Tempoさんの世界を私が理解して掴んでいったら、もっと「MOMOKO TEMPO」は面白くなっていくと思うので、またぜひご一緒したいです。

※大塚国際美術館提供
※大塚国際美術館提供
※大塚国際美術館提供

<SET LIST>

第一部トークショー Night Tempo×柴 那典(音楽ジャーナリスト)

第二部Night Tempo 昭和グルーヴDJセット featuring 菊池桃子

Night Tempo×菊池桃子

1.愛は心の仕事です

2.青山Killer物語

3.少年は天使を殺す

取材・文=柴那典 撮影=神保周平(七彩工房)

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