「緊張による腹痛や下痢に悩まされている」という人は少なくありません。
この「過敏性腸症候群(IBS)」は、通常の医療検査では異常が見つからず、「気のせい」「仮病」との誤解を受けやすい病気です。
そんなIBS患者の見えない苦痛を可視化する新しい研究が発表されました。
川崎医療福祉大学の研究チームはVRを活用し、ストレスを受ける場面でのIBS患者の脳活動を解析しました。
その結果、IBS患者特有の脳の反応パターンが明らかになりました。
この研究は2025年2月24付けの学術誌『Journal of Gastroenterology』に掲載されました。
目次
- 過敏性腸症候群の患者が抱える「見えない苦痛」とは
- 過敏性腸症候群は「気のせい」ではない!脳活動に明らかな違いを発見
過敏性腸症候群の患者が抱える「見えない苦痛」とは
過敏性腸症候群(IBS)は、ストレスが原因で腸の動きに異常が生じる病気であり、日本人の約10人に1人が罹患すると言われています。
患者は強い腹痛や下痢、便秘などの症状に苦しみますが、検査をしても異常が見つからないことが多いと言われています。
そのため、医師や周囲の人々に理解されず、「気のせい」や「精神的な問題」だと誤解されがちです。
IBSが原因で休む必要が生じても、気を遣われるどころか、「仮病」だと非難されることさえあります。
その結果、患者は病気本来の苦しみだけでなく、社会的な孤立や精神的な負担も抱えることになります。
こうした患者の苦痛を科学的に証明し、正しく理解されるようにするため、研究チームはVR技術を用いた実験を行いました。
この研究では、VRゴーグルを使用して、被験者に現実に近いストレス状況を体験させました。
被験者は、「誰もいない教室で登壇する場面」「聴衆がいるが注目はされていない場面」そして「聴衆全員から注目される場面」の3つの状況を順番に体験しました。
その際、脳の血流変化を測定できるfNIRS(簡便に脳の活動を測定できる赤外線を使用した検査方法。従来の100分の1のコストで導入可能)を用いて脳活動を記録しました。
さらに、被験者の心拍変動や主観的なストレス評価も行い、ストレスがどのように身体に影響を与えるのかを分析しました。
過敏性腸症候群は「気のせい」ではない!脳活動に明らかな違いを発見
実験の結果、VR空間での精神的ストレス場面において、IBS患者の脳では、健常者には見られない特徴的なパターンが観察されました。
特に、左腹外側前頭前野の活動が過剰に活発になり、左背外側前頭前野の活動が低下していることが確認されました。
この結果は、IBS患者が精神的ストレスに対して過剰に反応し、それが腸の異常な動きにつながっている可能性を示しています。
IBS患者が訴える「緊張するとお腹が痛くなる」「下痢になる」といった症状は、決して「気のせい」ではありません。
過敏性腸症候群(IBS)は、健常者と脳の反応が異なる病気なのです。
また今回の新しい実験により、「VRを使った実験でストレスの影響を再現できる」ことも確認されました。
今後もVR技術を導入することで、従来の検査では見えなかった病気のメカニズムを解明することが可能かもしれません。
ストレスは万病のもとと言われますが、ストレスの影響が科学的に証明されつつあります。
「見えない苦痛を可視化」していくことで、IBS患者を含む多くの人々を理解し、支えていくことができるでしょう。
参考文献
過敏性腸症候群患者の”見えない苦痛”を可視化 ~仮想現実空間での精神的ストレスにより特異的な脳活動を確認~(PDF)
https://k.kawasaki-m.ac.jp/document/2025/20250303.pdf
元論文
Brain activity during a public-speaking situation in virtual reality in patients with irritable bowel syndrome and functional dyspepsia
https://doi.org/10.1007/s00535-025-02228-w
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部