食事をしない日はきっとほとんどないだろう。毎日毎日多くの場合、何かしら食べる。きっと一生では数えきれないくらいの回数の食事をするのに、その数の多さから当たり前の事すぎて、そしてSNSやテレビなど他にも重要な物があって、何を食べたのか覚えていない食事の方が多い。
そんな風に何を食べたのか具体的には覚えていなくても、食事の思い出は幸せな気持ちと一緒に思い出すものだと思う。私にとって、そんな幸せな思い出のご飯は、当たり前のように毎日食べている時には気づけなかった、高校3年間お母さんが作ってくれたお弁当だ。
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お母さんは、どうやら料理が好きで得意だったらしい。振り返れば、高校生だった時にお母さんが作ってくれていた、私にとって普通のお弁当は、友達から好評だった。
カニカマやチーズをまいた卵焼きをはじめ、ささみやエビなどいろんな食材を使って毎日飽きないような工夫ときんぴらやプチトマトなどを取り入れた色どり。そこには、栄養士として知識も豊富だったお母さんの本領が発揮されていた。
お醤油の味があまり好きではない私のお弁当はどちらかというと塩味やコンソメが多かったし、お醤油が好きだった妹のお弁当はちょっとだけ茶色が多かった。食べる事が好きで大きなお弁当箱を使っていた1年の時も、体重が心配になって替えた小さな丸いお弁当箱でも、毎日難しいとか面倒だとか言いながらもちゃんと食べる相手や状況に合わせてお弁当用に小さなおかずが作られていた。
週末に買い物に行くと何が食べたいかと聞いてもらったし、ピラフやオムライスはもちろん、お気に入りだったお菓子の缶に合わせたサンドイッチも作ってくれた。
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大学進学を機に1人暮らしを始めた私が、そんな風に毎日、朝からお弁当を作るのがとても大変で、お母さんが当たり前にやっていた料理を作るのがすごい事だと気づくのにそれほど長い時間はかからなかった。
ゴールも手順もなんとなく分かると思っていたし、正直なところ簡単にできると思っていたのだ。しかし実際に料理をしてみると一つ一つの作業にすごく時間がかかる事を知った。
すでに親元を離れていた私は、お母さんがどのくらいの時間をかけて作っているのかどんな風に調理をしているのか、直接料理を習う事は難しかった。それでも、どうしても自分の好きな味として再現したかった。
そのため、夏休みや年末年始のお休みには帰り、お母さんがどんな風に料理を作るのか聞いたり一緒に作ったり、料理を通してそれまでのお手伝いとは違うコミュニケーションが取れた。
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今はまだ自分の事で精一杯だが、1人暮らしのそんな経験と教えてもらった時間があるからこそ、お母さんがどれだけすごいのかよく分かる。
お弁当を作ってもらった期間は3年もあったはずなのに当たり前すぎていたお弁当の写真は1つもない。
これから先にお母さんにお弁当を作ってもらう機会はきっとないし、記憶の中で幸せな気持ちだけが残るけど、大変だったはずのお弁当を毎日作ってもらえたのは、振り返るだけで私に元気をくれる大切な思い出だ。
■AIAIのプロフィール
文系大卒からシステムエンジニアとして奮闘中。いつだって今が最高!