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“歳の差バディ”が遭遇する、結婚の悩みを抱えた相談者たち…橘もも『恋じゃなくても』

  • 2025.3.21

人の生き方や価値観にデフォルトなんてなくない? そう思わせポジティブな気持ちにさせてくれるのが、橘ももさんの『恋じゃなくても』だ。

年の離れた女性2人が遭遇する、結婚の悩みを抱えた相談者たち。

29歳の凪は婚約者の浮気が発覚して破局。打ちひしがれていた時に78歳の女性・芙蓉に声をかけられ、彼女が持つビルの一室に引っ越す。結婚相談所の相談役である芙蓉の助手を務めるうち、凪はさまざまな人生観、恋愛観、結婚観に遭遇していく。

「編集者さんに“バディものが読みたいです”と言われて浮かんだのが、お世話になってきた20歳年上の女性編集者の方でした。その方とは仕事を通していろんな話をして、友達ではないけれど仕事相手以上の繋がりがあります。それで、年の離れたバディ関係がいいなと思って」

結婚相談所に関しては、以前小説の題材にしたこともあった。

「その時は仲人視点で書いたので、相手を見つけるかどうかしか話の着地点がなくて。編集者さんに“女性の生き方全般の悩みに耳を傾ける話がいい”と言われ、少し違うポジションの人にしようと思いました」

相談役の芙蓉のもとに寄せられる悩みはさまざま。婚活に疲れ切った人、セックスは嫌だけれど結婚したい人、相手との温度差が不満な人…。ちなみに凪自身は、恋というものが分からない。元婚約者は彼女にもっと甘えてほしかったようだ。

「たとえば風邪をひいた時、恋人や結婚相手に手厚く看病してほしい人もいれば、放っておいてほしい人もいるし、本当はかまってほしいのに平然と振る舞ってしまう人もいる。それぞれのペースを擦り合わせていければいいよね、ということを書きたかったように思います」

作中人物が発する“凡庸な変わり者”という言葉が心に残る。世間は極端な変わり者は放っておくが、すこしだけ周囲に迎合できていない人のことは我が儘だとみなす、というのだ。実際、他人に“変わってるね”“普通はこうだよ”と言われ窮屈に思ったことのある人は多いだろう。誰しもがなんらかの部分で“凡庸な変わり者”でありうるのではないか。

「あの言葉が出てきた時に、この小説が引き締まった気がして。私はたぶん、凡庸な変わり者のことが書きたいんだなと再確認しました」

すべてを達観しているような芙蓉も、幸せを求め苦しんだ過去がある。

「芙蓉さんが最初からハイパーウーマンだった、という書き方はしたくなかった。私も彼女のように、ちゃんと気づいて変わっていける人でいたいなと思います」

カバーの和菓子は絵ではなく実物。主要人物の一人、和菓子職人の繕(ぜん)が作る和菓子が再現されている。

「私のはとこが繕さんのようなフリーの和菓子職人で、彼女が作る和菓子を作中に出しました。“あまてらす”だけは私が想像で書いた和菓子なんですが、彼女が繕さんの性格まで考慮した上で作ってくれました」

凪が自分を受け入れていく姿と美しく甘い和菓子に、ほっと一息つける作品なのである。

PROFILE

橘もも

たちばな・もも 10代の頃に『翼をください』で第7回ティーンズハート大賞に入選して小説家デビュー。著書に『それが神サマ!?』『忍者だけど、OLやってます』シリーズ等がある。

INFORMATION

橘もも『恋じゃなくても』

婚約者と破局したばかりの凪が出会ったのは、凛とした老婦人・芙蓉。結婚相談所の相談役である彼女を手伝ううちに、凪の心も変化して…。双葉社 1870円

写真・土佐麻理子(橘さん) 中島慶子(本) インタビュー、文・瀧井朝世

anan 2438号(2025年3月12日発売)より

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