宝石のような美しい姿から”青い天使”と称される「アオミノウミウシ」。
新江ノ島水族館と東海大学の研究チームはこのほど、アオミノウミウシに獲物狩りに使われる「悪魔の手」があることを新発見しました。
この悪魔の手は「ミノ」と呼ばれる側方突起を指し、これまでは防御にしか使われないと考えられていました。
ところがチームの最新研究で、アオミノウミウシは器用にミノを使って、小魚やクラゲを捕食できることが判明したのです。
実際の映像を見てみましょう。
研究の詳細は2025年3月17日付で科学雑誌『Ecology』に掲載されています。
目次
- 青い天使の特殊能力「毒を盗んで自分のものにする」
- ミノは獲物を狩る「悪魔の手」だった!
青い天使の特殊能力「毒を盗んで自分のものにする」
アオミノウミウシ(学名:Glaucus atlanticus)は、体長20〜50ミリメートルほどで、胴体の左右から翼を広げたような見た目をしています。
そのファンタジックな姿から付いたあだ名は「青い天使(Blue Angel)」や「青い竜(Blue Dragon)」などです。
アオミノウミウシは普段、水面近くを漂いながら、猛毒を持つクラゲなどを捕食していることが知られています。
特に「カツオノエボシ」というクダクラゲ目の猛毒生物を好物とします。
カツオノエボシは毒針を使って小魚を刺し、麻痺させて捕食する危険な習性を持っており、誤って刺されたヒトが死亡した例もあるほどです。
ところが、カツオノエボシを食べるアオミノウミウシにはとんでもない特殊能力があります。
彼らはカツオノエボシを食べた後、その毒針である「刺胞」を消化せずに体内に取り込んで、武器として捕食者からの防御に利用しているのです。
この能力を「盗刺胞」といいます。
そして盗んだ刺胞は、体の左右に伸びる側方突起「ミノ」の先端に貯蔵するのです。
その一方で、これらの側方突起「ミノ」は防御にのみ使われており、それ以外の役割はよくわかっていませんでした。
しかし今回の新たな研究で、アオミノウミウシはミノを獲物の狩りに使っていることが判明したのです。
ミノは獲物を狩る「悪魔の手」だった!
研究チームは、アオミノウミウシが持つミノの機能の理解を深めるために、行動観察やさまざまな生物を与える実験を行いました。
その結果、アオミノウミシが体の前方のミノをまるで「手」のように使って、小魚のシラスを捕食する行動が見つかったのです。
こちらが実際に獲物を捕食するアオミノウミウシの様子。
シラスだけでなく、さまざまなクラゲに対しても同じようにミノを手のように使って捕食に役立てていることが確認できました。
この結果から、アオミノウミシのミノは外敵からの「防衛」だけでなく獲物の「捕獲」にも役立っていることが明らかになったのです。
アオミノウミウシはミノを柔軟に使うことで、小魚やクラゲ、カツオノエボシなど、さまざまな獲物を食べられるように適応できたのだと考えられます。
この新しい発見は、従来の認識を覆すもので、アオミノウミウシがどれほど柔軟な捕食戦略を持っているかを示すものです。
アオミノウミウシはその美しくファンタジックな姿から、研究者だけでなく、世界中の多くの人からも注目を集めています。
その一方で、アオミノウミウシは長期的な飼育が難しく、その発生や生態の多くは未だ謎に包まれている部分も多いです。
研究チームは今後、実際に自然界で捕食しているアオミノウミウシの行動を観察し、生態の理解を深めていきたいと考えています。
参考文献
新発見!青い天使「アオミノウミウシ」、悪魔の手「ミノ」で捕食 ~体内に取り込んだクラゲの毒針 外敵からの防衛だけでなく餌の捕獲にも活用か!?~
https://www.tokai.ac.jp/news/detail/post_573.html
元論文
Blue angels have devil hands: Predatory behavior using cerata in Glaucus atlanticus
https://doi.org/10.1002/ecy.70062
ライター
千野 真吾: 生物学出身のWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部