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東京スカパラダイスオーケストラ・NARGOさん、谷中 敦さん/「可能性のボーダーを超え、美しく燃え続ける」デビュー35周年記念ベストアルバムインタビュー

  • 2025.3.20

「その瞬間にできる最大限を集約させたベスト盤」(NARGOさん)

━━デビューから35周年を迎えられました。改めて活動を振り返っていかがですか?
 
NARGOさん(以下敬称略): スカという、日本にはあまりやっている人がいなかった音楽を、長い時間をかけてみなさんに楽しんでいただけるものになったのは、とてもうれしいことですね。また、自分たちしかできないようなサウンドを試行錯誤しながら作ってこれて、ようやくいろんな人に聴いていただけるようになったのかなとも思います。
 
 ━━デビュー当時から、長いキャリアを見すえて活動をされていたのでしょうか?
 
谷中 敦さん(以下谷中): 漠然とずっと活動を続けていきたいなっていう気持ちはあったんですけど、ここまで盛り上がっていくとは、想像できなかったですね。行きたいなと思っていた海外にライブでたくさん行けるようになったりとか。昨年は、甲子園にて初のスタジアム・ワンマン・ライブをおこない、4万人もの観客のみなさんを目の前にしたとき、35年もの間スカパラのこと好きで言ってくださる方も結構たくさんいらっしゃるんじゃないかなっていうことが実感できたことが、自分たちにとって何よりのご褒美になりました。
 
 ━━そして、35周年の集大成として3枚組のベスト・アルバムが完成しました。
 
NARGO: 今回は、ドラムの茂木(欣一さん)が選曲をしてくれたのですが、最新の楽曲からスタートして、徐々に時代をさかのぼっていくという構成になっていて、それはすごくいいなって思いました。僕らは、常にその瞬間にできる最大限のことを必死に追求して楽曲を完成させているのですが、それを改めて時系列でたどって聴いていると、それぞれ別の雰囲気を持ったものでありながらも、どこか1本筋が通っている感じがしますね。
ギターの加藤(隆志さん)が、終盤の田島貴男さん(Original Love)、チバユウスケさん、奥田民生さんと共演した(<歌モノ3部作>は、泣けたって言ってましたけど、改めて聴いているとグッと胸にこみあげてくるものがありますよね。聴いた瞬間に、制作当時の思いが蘇ってくる。また、いまそれを再現しようと思っても表現できない音もたくさんあって、そういうのを発見できることが感動しましたし、リスナーのみなさんにも同じ思いを共有していただけたらなって思います。
 
 ━━しかも、今回のベスト盤のために、全曲がリマスターされて収録されています。
 
谷中: いまでは、ストリーミングで過去の楽曲を楽しむことができますが、今回リマスターしたことで、新たな魅力を発見してもらえるのかなって期待してます。
 
 ━━今回のベストは、ゲスト・ボーカルを招いて制作された楽曲が中心。そもそも、このスタイルで楽曲を発表することになったきっかけは?
 
谷中: 実は1995年に『GRAND PRIX』という豪華なコラボレーション・アルバムを発表したのですが、時期が早すぎたんですよ。フィーチャリングやコラボレーションって言葉が世の中に浸透しておらず、<スカパラさん、何しているの!?>みたいな反応が多くて。現在でも、自分たちにとっては素晴らしい作品だという自信があるのですが、違うのかなって判断し、一度封印したのです。
その後、メンバーの変更などもありながら、インストゥルメンタルのバンドとして世界各地でパフォーマンスをしてきたことで、しっかりとバンドとしての地盤が固まってきたという自信がついた2001年に、スタッフさんから再びコラボレーションを提案されたのです。当初は、前回のこともあるし、ボーカル曲を発表すると、ファンの方々が戸惑ってしまうのでは?と、メンバーを含めて何度もミーティングを重ねました。一度封印したものを解き放つって勇気がいることで、本当に毎晩のように話し合って、大きな決断が必要でした。
だから、当初はフィーチャリング表記をせずに田島さんを招いて「めくれたオレンジ」を発表したのです。楽曲を耳にした人はすぐに誰が歌っているのかに気づいて、かつとてもいい反応をしてくださった。その後にリリースした、チバさん、奥田さんも当初はボーカル表記をせずにリリースしましたね。まぁ、耳にすればどれも誰が歌っているのか、すぐにわかるものでしたが(笑)。当時、僕らの挑戦を快諾し協力してくださった3人には、本当に感謝の気持ちしかありませんね。
 
NARGO : また、2000年にリリースしたアルバム『FULL-TENSION BEATERS』で、インスト・バンドとして研ぎすまされたというか。気迫のある演奏をすることができて、行き着くところに到着できた気分になれた。そこにボーカルの方が加わることで、どういう変化が起こるかということにも興味がわいたのです。だから、ボーカル曲に本格的に取り組む前に発表した楽曲もあわせて耳にしていただけると、よりベスト盤を楽しんでいただけるのかなって思います。
 
谷中: あの<歌モノ3部作>は、スカパラの再デビューと言えるくらい、バンドにとって大きな転機になったことは確か。あの作品をリリースしたあとに発表したアルバム『Stompin' On DOWN BEAT ALLEY』(02年発表)で、初めてヒットチャート1位を獲得することができたし。
 
NARGO : それがうれしくて、僕はバンドのロゴにも描かれている富士山に行って、頂上でフラッグを振りましたから(笑)。
 
谷中: 富士山に行ったのは聞いていたけど、まさかそんなことをしていたとは(笑)。
 
 
 
 

「必死に試行錯誤を重ね到達した、スカパラらしいボーカル曲」(谷中さん)

━━ちなみに、ボーカル曲とインスト曲で演奏方法に違いはあるのですか?
 
NARGO: ボーカリストの方にとって、メロデイライン、キー設定ってのが非常に大事なんで、オーダーメイドのスーツを仕立てるようにとても細かく調整をして、その人の魅力が一番伝わりやすいものにしようと心がけますね。そこに、リスナーのみなさんが口ずさめるキャッチーなフレーズを交えながら。
 
谷中: 当初は、僕らがバック・バンドみたいな存在にならず、演奏者と歌い手さんが対等に響く楽曲にするにはどうしたらいいのかを、必死に試行錯誤していた気がします。最近は演奏を始めたら自然にスカパラらしさが表現できると感じられるようになってきたかなって。
 
NARGO: 僕らはインスト・バンドとしてのプライドとして、歌メロとユニゾンするっていう普通のバンドだったら絶対あり得ないことをやっています。結果、ボーカリストの方と一緒に歌っている雰囲気が出ている気がする。それを気に入って、歌ってくださるボーカリストさんもたくさんいらっしゃいまして。宮本浩次さん(エレファントカシマシ)は、みんなで一緒にせーので走ってる感じがして、気持ちいいっておっしゃっていましたね。
 
 
 ━━また、ボーカル曲を発表するようになってから、谷中さんは作詞という新たなクリエーションも生まれました。
 
谷中: 当初は、スカパラに貢献できる新たな仕事ができたという気分がありましたね。特に「美しく燃える森」の作詞をしていた頃は、スカパラ全員が何を思っているか、どういうメッセージをリスナーに届けるべきなのかを、全員の顔を思い浮かべながら制作していました。それまでは、楽器の演奏だけで何を伝えたいのかを発信していたのですが、歌モノを制作するようになってから、直接その思いを伝えられるようになったことは大きな変化になりましたね。また歌詞をきっかけに、僕らの演奏やスカという音楽に興味を持っていただいたり、身近に感じてもらいたいという思いをもって、現在も歌詞を作り続けています。
 
NARGO: インスト曲が中心の時代は、演奏だけで伝わるメッセージがあるでしょ?というちょっと突き放してる感じはあったのかもしれないですね。言わないでもわかってもらえるという。でも、言葉で直接思いを伝えることは非常に重要なこともある。それを谷中さんが紡いでくれたことによって、非常に表現力が広がったと思います。言葉の偉大さっていうか、歌をうたうことは本当にすごいことなんだなって、時を経るごとに実感しています。
また、曲のタイトルというのも非常に大切なキーワードになっていて、今回のベスト盤のオープニングにも収録されている「Paradise Has No Border」は谷中さんがつけたものなのですが、それだけでメッセージが強烈に伝わってきます。
 
 ━━ベスト盤は、奥田さん、田島さんを筆頭に豪華ミュージシャンの方々が多数楽器演奏で参加された新バージョン「Paradise Has No Border feat. NO BORDER ALL STARS」として収録されています。
 
谷中: とにかくありがたいですね。たくさんの方々に集まっていただいて。しかも、楽器演奏をメインにしていないボーカリストの方々も参加してくださり、まさに<NO BORDER>な楽曲になったと思います。
 
 ━━なかでも驚いたのが、俳優の渡辺謙さんがトランペットを演奏されていることです。
 
NARGO: ちょっと前にTV番組で謙さんがトランペットを吹いてる姿を拝見して、その演奏に圧倒されて、一度もお会いしたこともなかったのですが、ダメもとでお話をさせていただいたところ、快諾してくださったのです。レコーディングはもちろん、ミュージック・ビデオにも参加してくださって、どちらもノリノリで楽しそうに演奏してくださった。
 
谷中: みなさんの足を引っ張らないように頑張りますとおっしゃってくださいながら。とても礼儀正しく、かつ優しく接していただいたのが印象的でした。
 
NARGO: 学生時代に部活で吹奏楽をやられていたそうで、トランペッターとして基礎がしっかりしていると思いました。また、人としての存在感がすごいので、それだけでも圧倒的というか。
 
 

フィンランドの気功師が教えてくれたこと

━━とても聴きごたえがありながらも、35年をセレブレーションする雰囲気の伝わる仕上がりですよね。また、ラストには新曲「まだ、諦めてないだろ?」も収録されています。
 
谷中: これはNARGOがボーカルを担当している楽曲ですね。最近、NARGOはボイス・トレーニングに通っていて、楽曲やステージで歌う機会が増えているのですが、歌い手としてパワー・アップしている姿を楽しんでいただける仕上がりになったのではないのかなって思います。
 
NARGO: 30年以上トランペットを吹いていて、歌をやるっていう気は全然なかったのですが、コロナ禍に趣味の延長でボイトレに通いだし始めたら、歌いたい欲求が徐々に強くなってきて。急にすいません、ちょっと歌わせてもらってもいいですか?みたいな感じでマイクを持つようになりました。スカパラって、もともとメンバーそれぞれがやりたいことや可能性を見つけてきて、それをバンドにどうフィードバックさせるのかを考えながら活動を続けている。今までやってないことに挑戦してみたら、どういう世界が見えるのかに興味があるバンドなのです。
また、自分自身も可能性ってここまでって決めちゃったらそこで終わっちゃうけれど、やってみたらさらに新しい扉開けるんじゃないかなっていう思いもあった。もちろん、最初に歌った瞬間は身体が震えるほど緊張しましたら、いざ挑戦してみると、もっと追求したい気持ちが強くなってきましたね。歌うことをもっと掘り下げてみたいって。結果、今回の「まだ、諦めてないだろ?」でボーカルを担当させていただいたのですが、何ごとも諦めちゃったらそこで終わりなんですよね。それよりさらに先に行くぞという思いを、この楽曲で表現できたなって思います。
 
 ━━年齢などを理由に諦めてはいけないという気持ちになれる楽曲です。
 
NARGO どんなことも挑戦してみないとわからないことが多い。それに取り組み続けてきたからこそ、スカパラは35年も活動が続けられているのだと思う。新しい世界に踏み出すことは勇気が必要ですけど、一歩進んでみることは大切なのかなって。これからもさまざまな可能性を見つけて探して、行けるとこまで行ってみたいなと思いますね。
 
 ━━40年、50年とスカパラはまだまだ進化し続けますね。
 
谷中: 最近は周年ごとに何かしらのイベントがあって、かなり忙しい日々が続いている状態ですが(笑)。今回の35周年では、甲子園でのワンマン公演をきっかけに、新しくファンになってくださった人も増えたりして、元気に楽しく音楽ができているなという気分になれました。いろんな勇気をもらえた35年目でしたね。まもなく36周年に突入するのですが、5月からは都道府県すべてをまわるホールツアーがスタートしますし、まだまだ燃え尽きる状態にはなれなくて、この勢いで40年へ突入することになりそう。僕らは<燃え続ける症候群>なのかもしれません。
 

━━でも常に燃え続けるためには、暮らしを充実させてエネルギーを蓄えることも必要なのではと思いますが。
 
NARGO: 僕は犬の散歩ですかね。川沿いとか一緒に歩いていると、めちゃくちゃリラックスするんですよ。そういう時にふと、アイデアが浮かんできたりするし。ただボーッとしている時間がひらめきを与えてくれることが多い。だから、リラックスする時間って大事だなって改めて思いますね。
 
谷中: 以前フィンランドに行った時に、気功の先生と会ったんですよ。向こうで700人くらいの生徒さんを抱えているくらいに有名な。その人が、人間にはエネルギーの輪があり、それを広げる供給源は無限にあるけれど、使わないでいるとどんどんしぼんでいく。だから、常にそこに元気になれる何かを供給し続け、輪を広げようとする姿勢が人生において大切なんだというお話をうかがったのですが、本当にそうだと思う。ここ最近はコロナ禍以降、人との接触を控えたりだとか、周囲になるべく迷惑かけないみたいな風潮があると思うのですが、気持ちをオープンにし続けるってことがより暮らしを充実させるし、自分がそもそも持っているエネルギーをより放出しやすい状態に導いてくれるのではないのかって。また、そのことによって、別の新たなエネルギーと出会い、自分の輪がさらに広がっていくのではないかと思うのです。だから、積極的にいろんな人や世界に触れることは大切なのでは。実際に自分たちも、ライブで観客のみなさんのエネルギーをいただくことによって、次の活動への大きな原動力になっているし。たくさんの人々とエネルギーの交換をすることを忘れずにいたいですね。
 

『NO BORDER HITS 2025→2001 ~ベスト・オブ・東京スカパラダイスオーケストラ~』

東京スカパラダイスオーケストラ
¥3,960(通常盤)cutting edge/JUSTA RECORD
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最新曲から2001年の発表曲まで、ゲストボーカル・ナンバーを中心にスカパラの歴史をさかのぼる3枚組のベスト盤。全曲リマスタリングされていて、オリジナルとは異なる音質でメンバーのみなさんの鼓動が伝わる、迫力の内容に。とくに終盤を飾る初期の<歌モノ3部作>は、彼らの活動と、これまでの暮らしの風景がかさなり、胸を熱くさせるはずです。また、昨年11月に阪神甲子園球場にて開催された「35th Anniversary Live スカパラ甲子園」の模様などの映像をおさめたブルーレイ/DVD付き盤もリリース。

PROFILE

とうきょうすかぱらだいすおーけすとら/1989年にデビュー、現在は9人編成。今や世界を熱狂させるスカ・バンドとして圧倒的な存在感を放つ。5月31日〜スカパラ史上初の47都道府県 HALL TOUR「47」がスタート。東京は11月18、19日に公演。ツアーの詳細はオフィシャルサイトをチェック。  

https://tokyoska.net/ 

photograph:Miho Kakuta hair & make-up:Daisuke Mukai text:Takahisa Matsunaga
 
リンネル2024年7月号より
※画像・文章の無断転載はご遠慮ください

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