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色がなかった私の世界に、一際明るく輝くピンクをくれた彼女

  • 2025.3.20

例えば、可愛らしさ。
例えば、可憐さ。
例えば、女の子の象徴。
それが私がピンクを避けていた理由だ。
ピンクを身につけるなんて、考えたこともなかった。
ピンクと自分が結びついたことなんて、一度もなかった。
変えてくれたのは、たった一人の女の子。
彼女が私にピンクをくれた。

私が彼女を知ったのは今から3〜5年くらい前。
オーディションを勝ち抜いて一般人からアイドルになったその子は、初めは随分辿々しくて、自信なさげで。でもライブを重ねるたびにどんどん綺麗になっていって、どんどん歌もダンスも上手になっていって、彼女が私の推しになるのに、そう時間は掛からなかった。
あぁこの子はダイヤの原石だったのか、と私は彼女を見るたびにこの世の真理を知ったような気持ちになった。
イメージカラーはグリーン。
私の手持ちの服にも緑色のものはあって、毎回その中から選んでライブに行った。
彼女に見せたいわけじゃなくて、推しと同じ色を纏うことでテンションを上げたかった。

◎ ◎

そんな彼女は、突如グループを卒業してしまった。
もうアイドルを辞めてしまうのだろうか。
いや、あんなに輝いている子なんだから、きっと別のグループに入るはず。
悶々と考えている間にも月日は流れ、半ば諦めていた頃、ニュースが届いた。
彼女は、別のグループの一員として活動することになった。
いわゆる『転生』と言うものらしい。

嬉しかった。また、彼女が歌って踊る姿を見ることができる。
新しいグループでの彼女の姿が楽しみで、ワクワクしながらその日を待った。
待ちに待った新メンバー公開日。
彼女はピンクの服を纏って出てきた。

え。
ピンク?
ピンクなの??
彼女はもちろん可愛くて、ピンクの衣装がよく似合っていた。
見慣れたグリーンではなくなってしまったことには少し寂しさを感じたが、そんな気持ちを吹き飛ばすほど、彼女は変わらず輝いていた。
でも——、ピンクかぁ……。

◎ ◎

ここで問題が生じた。ライブに着ていく服がない!
私はピンクを一つも持っていなかった。
他の人が聞いたら、何をどうでもいいことを、と思うだろう。
しかし私にとっては死活問題だ。私は推しと同じ色を身に纏いたいのだ。
買いに……行く……か……?

一人で買い物に行くのは不安だったので、友人についてきてもらった。
見慣れないピンクの服を手に取る。似合わない、よなぁ……。
例えば私がもっと可愛かったら。もっと女の子らしかったら。もっと、もっと、もっと。
叶えられない「もっと」が頭の中から溢れていった。
「大丈夫だって!着てみて!」
友人を連れてきて正解だったようだ。
彼女に押される形で試着室に入る。もそもそと着ていた黒のセーターを脱ぎ、ピンクのニットを着る。フェイスカバーを外して、髪を指で解いて、試着室の鏡を見たとき。
おや?と思った。
意外と……大丈夫?

カーテンを開けて友人に見せる。
「いいじゃん!!顔が明るく見える!それに決定!」
そう。顔色が綺麗に見えるのだ。普段暗い色を好んで着るから気づかなかった。
まだ落ち着かない気持ちを抱えたまま、レジに向かう。初めてピンクの服を買った。
家に帰って、袋から服を出した。クローゼットにかけると、一際明るい色のその服だけがポカンと浮いていた。

◎ ◎

先日初めて、転生した彼女のライブに行った。
ピンクの衣装を着て歌って踊る彼女は信じられないほど可愛くて、私はピンクのサイリウムをたくさん振った。
私はピンクのニットを着ていた。やっぱりテンションは上がった。

最近定期入れを買う機会があった。
シンプルなものを探していたのだが、ふと、ピンクの定期入れが目についた。何度も手に取っては棚に戻す。結局その定期入れを買った。
少し前までの私なら、考えられない行動だ。
黒いバッグに入れている色味がない持ち物の中で、ピンクの定期入れだけが一際わかりやすい。
それはまるで、色がなかった私の世界に、突如としてピンクが侵略してきたみたいだ。
彼女がいなかったら、イメージカラーがピンクじゃなかったら、私がピンクを手に取ることはなかっただろう。
何だかピンクを身につけてもいい免罪符をもらったような気持ちで、私は次のライブに向けたピンクの服を探している。

■シャチのプロフィール
読書が好き。自己啓発本を読んではチャレンジと失敗を繰り返す。

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