「少女マンガ=恋愛マンガ」というイメージは根強い。もちろん恋愛を描く作品が多いのは事実だが、ちょっと触れている人なら少女マンガが恋愛だけじゃないのもわかるだろう。そして、恋愛軸でなくても少女マンガらしい魅力を感じさせてくれたりする。
田中メカ氏の新作『不夜城のステラ』(白泉社)もそんな少女マンガのひとつだ。
田中メカ氏といえば、これまでの代表作はいずれも恋愛もの。だが、今作は従来とは手触りが違う。仏頂面で地味、だけど図抜けて優秀で、容姿も秘めた魅力を持っている主人公・皆川星(みながわ・せい)が、母の死をきっかけに夜の街の世界へ飛び込むという、ガールズ・サバイバル作品になっている。
誰もが見くびっている、未経験者のセイが夜の街でその才能を開花させていく姿は、彼女を見出したスカウトマン・射馬(いば)が語るように「皆が大好きなサクセスストーリー」の気持ちよさに満ちている。敵意むき出しの先輩たちの嫌がらせにも真っ向から立ち向かう負けん気の強さも清々しい。そんな骨組みは、少年マンガ的な熱さと言ってもいいだろう。
こうした熱さは今までの田中メカ作品とは一線を画すが、同時に「らしさ」も随所に感じる。例えば、「かっこいい女性」というのは田中メカ氏らしい主人公像。過去作である『キスよりも早く』や『鉄壁ハニームーン』にしろ、『朝まで待てません!』にしろ、ヒロインたちは強く、仕事ができる女性であり、そこが魅力なのだ。
さて、面白いのは少年マンガ的なストーリーであっても本作はやはり少女マンガだと感じさせるところだ。それは例えば「花を背負うコマ」のような昔ながらの演出などからも感じるが、理由はそうした画面的な要素だけではもちろんない。『不夜城のステラ』が少女マンガらしいというのは、孤独と愛の物語だからだ。
小さいころから目つきが悪いと言われ、次第に無愛想になっていったセイの目を、ただひとり褒めてくれた母。そんな母を支えることだけが彼女の夢だった。セイにとって母だけが自分を丸ごと肯定してくれる存在であり、夢そのものでもあったというわけだ。だからこそ、母の死は、セイにとって愛すべきもの、帰るべき場所、進むべき道の喪失なのだ。
「少女マンガらしさとは何か」という問いへの答えは、人によっても違うかもしれない。だが、私が答えるならその核心は、孤独や寂しさ、自己肯定といったものだと思う。恋愛は、そんな寂しさや自己肯定感獲得の手段のひとつに過ぎない。そして、本作では夜の街で「上をめざす」というのが、愛を失ったセイにとっての自分を肯定する新しい手段なのだ。
誰からも期待されていなかった、舐められていた自分を、スカウトマンをはじめとした人々が見出していく。誇るべきものを勝ち取っていく。そのなかで、女性であるということを含めて自分を肯定していく。そういう少女マンガの本懐がしっかり押さえられているから、この作品は単に熱い成り上がりの物語でなく、やはり少女マンガなのだと感じるのだ。
文=小林聖