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少年サンデー編集長「コナンの本筋は“黒ずくめの組織との戦い”ではない!?」。ヒット作連発の根底にある「面白がることの大切さ」【大嶋一範インタビュー 前編】

  • 2025.3.19

1959年(昭和34年)3月に創刊した「週刊少年サンデー」。本日、3月19日発売の16号は、創刊66周年の記念号となる。

近年は『葬送のフリーレン』のヒットや『レッドブルー』ドラマ化など、数々の話題作を世に送り出している「週刊少年サンデー」。高橋留美子先生の『MAO』、青山剛昌先生の『名探偵コナン』、満田拓也先生の『MAJOR 2nd』といったベテラン漫画家の長期連載作が存在感を示す一方、2024年は8作、2025年は既に3作の新作が連載スタートし、数多くの若手漫画家にとって活躍の場にもなっている。

ダ・ヴィンチWebでは「週刊少年サンデー」の現編集長・大嶋 一範さんにロングインタビューを実施した。前半となる本記事では、「サンデー」における編集長の業務内容、入社直後に配属されたコロコロコミック編集部のこと、そしてサンデー編集部で最初に担当した『名探偵コナン』の魅力などをたっぷりと語っていただいた。

編集長はヒット作を作れない

ーーよろしくお願いいたします。今日はサンデーのことについて色々聞かせてください。

大嶋:よろしくお願いします!

ーー基本的なところで恐縮ですが、読者に向けて「編集長」の業務内容を簡単にご説明いただければと思います。

大嶋:連載のゴーサインを出す、それから連載継続の可否を判断するのが自分の大きな仕事です。そのために「週刊少年サンデー」、「増刊サンデーS」、それから「サンデーうぇぶり」など、サンデー編集部の送り出すものを全部校了(リリース前に最終版を読んで確認をすること)して、新人さんの読切作品も全部読んで、そのうえで考慮するようにしています。

ーー掲載漫画の選定はすべて大嶋さんが行っているということでしょうか?

大嶋:いえ、現在は編集部をいくつかの班に分けて、まず編集部員は班長に連載企画を見せることになっています。そこで通過したものを2ヵ月に1回の連載会議にあげて、全員で議論をしたあと、最終的には編集長が判断するという仕組みです。

ーー連載の終了/継続を判断するうえでは、やはり全作品に目を通しておく必要があると。

大嶋:そうですね。毎週数千通届くWEBとハガキのアンケート、SNSの反応、電子と紙の売上といったデータも追っていますが、それだけだとどうしても少し未来の状況と、判断がズレてくる面があると思うんです。だから「アンケートはまだ低調だが毎回の技術の向上が凄い」「今は調子いいけど継続できるのか」とか、毎回の原稿の状況と、各種指標や反応を元にした視点を持つことが必要だなと。

ーー目先のことだけではなく、中長期を見据えた判断が求められるわけですね。

大嶋:編集長が我が物顔で作品に介入してヒット作を作れることは多分ないんです。編集長として、サンデー編集部にいる25名の編集者が、作家さんと良い作品が作れるように調整するのが自分の役割だと思っています。長く働いていれば、雑誌も作品も、作家さんも編集も調子が上下することもありますが、そんなときも何かきっかけを掴めば絶対に上昇できると思っているので、全体の波打つ調子を見極めて、その上昇期に作家さんと共にヒット作を生み出せる状況を作りたいんです。

コロコロは「子どもに何かを与えようと思ってはいけない」

ーー大嶋さんご自身のことも少しお聞かせください。日々たくさんの漫画を読まれていると思いますが、元々編集者を志望されていたのでしょうか?

大嶋:はい。大学生のときには、漫画好きが集まるサークルに入っていました。卒業して出版社に入ったサークルの先輩たちが漫画業界の話をたくさん聞かせてくれて「出版社って楽しそうだな」と。あと、他社さんですが有名な漫画編集部に入った先輩が、毎晩のように僕の家に来て、漫画や音楽やゲームの話をしながら一緒に飲んでくれていたので「こんなに大学生の家に入り浸ってエンタメの話ばかりしていて、編集者はヒマなのかもしれない」と思いまして(笑)。

ーー入社したら全然そんなことはなかったと(笑)。新卒で小学館に入社されて、まずはコロコロコミックに配属されたそうですね。それはご自身の希望もあったのでしょうか?

大嶋:本当は「新卒からサンデーで藤田和日郎先生の担当がしたい」と思い小学館に入ったのですが研修期間中は「何でもいいので漫画の部署に行かせてください!」と人事に伝えていました。ファッション誌や情報誌のことはちょっとわからなかったので…。それでコロコロに決まったんです。

ーーたまにテレビに出演しているコロコロ編集部員の方を見ると「子ども心」を残しているような方が多い印象がありました。少年誌は大人も読みますがコロコロはいつか卒業するもので、子どもの感覚に合わせることが多いのかなと思ったのですが。

大嶋:そうですね、コロコロにいてよく言われたのが「子どもに上から目線で何かを与えようと思ってはいけない」ということでした。大人の目線で作ったものを下ろしてしまうと、本当に顕著にそっぽを向かれてしまうんですよ。誌面の反応や、イベントなどの読者との触れ合いでそれを痛感しているから、子どもと対等の目線でやり合える編集者がコロコロコミックで鍛えられているなと思いますね。

ーー大嶋さんはコロコロではどんな作品を担当されていたのですか?

大嶋:オリジナルの漫画は『ウソツキ!ゴクオーくん』『推理の星くん』などなど。あとはレベルファイブさんの『イナズマイレブン』とか、ガンホーさんとの『パズドラZ』とか、とにかく自分が好きだなと思えるものを一生懸命やらせていただきました。

ーーパズドラは編集会議中にこっそり遊ぶほどお好きだったそうですね。

大嶋:そうですね(笑)。「これはゲーム性が機能美といって良いほど美しくて本当に面白い。本当に面白いものは子どもも面白いはずだ」という気持ちでやっていました。

ーー「面白い」に敏感であることは、編集者としてすごく大切なことのように思えます。

大嶋:当時の佐上編集長に「担当作や、提出企画は、自分がまずちゃんと面白いと思えているのか?」とよく聞かれたんです。例えば、企画を通すまではみんな本気で面白いと思えても、人気が低い、反応が悪いなどうまくいかなくなるとどうしても心が折れそうになる瞬間が来ます。でも連載を終わらせるのも大変なので、惰性で続けてしまうことがある。そうすると本当に長期的に考えると、先生や読者も含めて誰も幸せになれないので、「面白いと思えるように仕事をする」ということを若いうちに何度も言われたのは良かったなと思っています。

サンデーに配属されて『名探偵コナン』の未来を知る

ーーコロコロから週刊少年サンデー編集部に異動されたとのことですが、カルチャーの違いは感じましたか?

大嶋:コロコロコミックが、みんなでゲームしたり、最新ホビーで遊んだりと部室みたいな居心地の良さがあったのに対して、サンデー編集部はしーんと静かな印象がありました。もちろん雑誌を作る以上、チームの連帯感はあるのですが、週刊少年漫画誌は、漫画家さんと向き合う個人商店であり、競争で雑誌の中の枠を取り合っている場所なんですよね。

ーー仲間というよりはライバルという感覚でしょうか。

大嶋:そうですね。コロコロって『デュエル・マスターズ』がヒットすると、企画会議ではみんなでデュエマの企画を出し合って考えるんです。サンデーでは、ヒット作の担当者は発言力も影響力も増しますし、他の編集者は悔しがるみたいな。そういった文化の違いがあるなと思いました。

ーーサンデーではどういった作品を担当されたのですか?

大嶋:2014年頃、まず、当時の編集長から『名探偵コナン』をやってくれと言われました。「コロコロでホビーやアニメの知見もあるから、コナンのビジネスに関わるいろんな会社とうまくやってくれる」みたいな意図があったようですね。

ーーいきなり青山先生の担当編集になるって、凄まじいプレッシャーだと思うのですが。

大嶋:もちろん中学生時代から『コナン』を読んでいたので、先生に初めてお会いしたときは本当にドキドキしましたね。あと、何回か打合せを重ねたタイミングで、ある程度ご信頼頂いたのか『コナン』の先々の展開を教えていただいたんです。「あ、これは絶対に漏らしてはいけないものだ…!」と(笑)。

ーー頭のなかにすごく大事な情報がインプットされてしまったわけですね。

大嶋:これは本当に詳しく言えないのですが、様々な考察や検証が飛び交っているなかで、まだ皆様が気付いていないだろうことも仕込まれているんです。それを編集者は知っているわけですが、どの情報がすでに公開されていて、どの情報がまだ伏せられているのか間違えないようにしないと、うっかりサンデー本誌の柱コメント等で情報を出してしまわないか、ずっと不安な日々を過ごしていました。先生はアニメのスタッフさんにも重要な展開はお話しされているそうでが、皆さんちゃんと内緒にされていて、日本のコンテンツ業界の人はちゃんとしているなと思います(笑)。

『名探偵コナン』の軸は蘭と新一のラブコメ

ーーもう少し『コナン』についてお聞かせください。日々の連載は、担当編集としてどのように携わっていたのでしょうか?

大嶋:『コナン』は大まかに事件の発生、展開、解決が3週間のサイクルで回るようになっていました。それで3週に1回、トリックや動機を決める打ち合わせを青山先生としていました。そこから先は先生の描かれるネームを見て、もしわかりづらいところがあればお伝えする、という流れですね。

ーー編集者も一緒にトリックを考えるんですね。

大嶋:よく勘違いされるのですが、原作『名探偵コナン』にトリックメーカーさんはいないんです。基本的に青山先生がお一人で全部考えていて、編集者はトリックのアイデア出しのお手伝いをしているという感じですね。

ーー担当編集を務めて、新たに気付いた『コナン』の魅力があればぜひ教えてください。

大嶋:長期連載なので、ある程度パターン化したものを繰り返しているという印象を持っている方もいると思うんです。ですが実際は、ものすごいスピードでストーリーが展開しているんですよ。私の印象としては、先生はキャラの関係の進展や、驚き、作品全体の謎が明かされていく凄く面白い部分をどんどんお描きになっていると感じます。

ーー俗に言う「引き伸ばし」みたいなことはまったくないぞと。

大嶋:そうですね。「この情報を将来出すために、こういう伏線を張って、ここで回収して…」ということを、すごく緻密にやられています。しかもあれだけ長いお話しでたくさんのキャラが出るのに、過去に描かれたことや情報を鮮明に覚えてらっしゃって執筆されているのは新鮮な驚きでした。

ーーすごく面白いお話です!黒ずくめの組織との最終決戦がますます楽しみになりました…。

大嶋:ありがとうございます。でも僕としては、黒ずくめの組織との戦いは、自分も大好きだけど本筋じゃないかもしれない、と思っているんです。『名探偵コナン』の軸はあくまで蘭ちゃんと新一のラブコメで、それを盛り上げるべく様々なキャラクターや事件があるという作品なんじゃないかと思っています。

「本当に自分が面白いと思えているのか?」

ーー編集長になった現在は担当作品をお持ちではないのでしょうか?

大嶋:僕が担当を持つと、どうしても皆さんに不公平感を与えてしまうような気がして今は持っていません。他誌の編集長さんは「部員たちに背中を見せなければいけない」ということで担当作がある方もいるようですが、それはスタンスの違いですね。

ーー大嶋さんは過去のインタビューで「若い編集者の感性を大切にしたい」と仰っていました。後進に道を譲るような意図もあるのでしょうか。

大嶋:大前提として、サンデーの想定読者を10~30代と考えると、同世代の編集者が面白いと思うものは読者も面白いはずなんです。だからこそ、先ほどのコロコロコミックの話と同じで「本当に自分が面白いと思えているのか?」が大切で、僕はそれを問いかけ続けたいと思っています。

ーー編集長として、会社の上長として、若手編集者のモチベーションを上げるために何か意識していることはありますか?

大嶋:自分がマネージャー役として楽をしているポイントなんですが、いまのサンデーの現場編集者は、本当に熱意と実力があるメンバーが揃っていて、彼らは僕が何も言わなくてもめっちゃ頑張ってくれるんです。「もっとやる気出せよ」みたいに叱ったことは一度もないですね。みんな週刊少年誌という凄く過酷な土俵で戦っていて、「ジャンプやマガジンやチャンピオンに勝ちたい。作家さんと、より話題になる作品を作りたい。面白いものを一緒に作りたい」という想いがあるんですよね。

ーーなるほど。やはり皆さん、サンデーがやりたくて小学館に入られた方が多いのでしょうか。

大嶋:いや、それはわからないですけどね(笑)。ただ、所属している以上、ライバル誌が話題作をどんどん作ったりするのを横目に「サンデーという雑誌、うぇぶりというアプリを勝たせたい」という気持ちは全員強く持っていると思います。

取材・文=金沢俊吾、撮影=干川修

■【週刊少年サンデー 最新情報】

1)漫画を音楽にする新プロジェクト「日曜日のメゾンデ」がスタート!

"日曜日のメゾンデ"は、少年サンデーとMAISONdesのコラボによって生まれた「少年サンデー」「サンデーうぇぶり」の物語を様々なクリエイターが音楽にし、ボーカル礼衣が歌うプロジェクト。第一弾『偽物協会』が原作の楽曲『モドキステップ!』は3/19(水)から配信開始。今後も『天使な小生意気』『写らナイんです』など名作から話題作まで続々楽曲化予定!サンデーが創刊されて66年、形を変えてさらに広がっていく物語をお見逃しなく!

2)サンデー編集部の秘話を発信するPodCastがスタート!

3月19日より少年サンデーPodCast番組『少年サンデーのフキダシ』始動します!

少年サンデーの読者の皆様はもちろん、新人作家さんやこれから漫画を描こうと思っている方にお届けする音声番組です。サンデー編集部の編集者たちが、漫画についての雑談をフキダシに乗せておおくりします。サンデーを好きでいてくださる皆様の暇つぶしに、あるいは夜中、一人で机に向かって漫画を描いているあなたの耳のお供になれば嬉しいです。毎週水曜日更新!配信媒体など詳細はサンデー公式X(@shonen_sunday)にて!

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