周囲や社会に対し不適切な態度を取る高齢者を指した「老害」という言葉をご存じだろうか。『わたしの親が老害なんて』(西野みや子/KADOKAWA)は、老害になりゆく両親の変化を受け入れられず、自分の感情に折り合いをつけられない主人公の葛藤をリアルに描いたセミフィクション作品だ。
主人公・栄子は、定年退職間近の夫と暮らす主婦。娘は独立し、現在は離れた街で暮らしている。夫婦だけの生活にも慣れてきた栄子だったが、実はある大きな悩みを抱えていた。それは、近くに住む80代の両親のこと。年齢を重ねるにつれ、他人に迷惑をかけるようになった彼らの態度は年々、目に余るものになっていたのだ。
思い返せば、違和感を覚えた瞬間はたくさんあった。妊娠中、赤ちゃんに悪影響だと言われヘアアレンジを諦めたこと。ミニスカートも「はしたない」と叱責され封印。理想の母親像を押しつけられた過去は、いまだ栄子の心に重くのしかかっていた。
さらに最近では外出先でも問題が増えており、ついには父が車で人身事故を起こすという最悪の事態に。栄子は父に免許返納を提案するが、両親は事の重大さを理解せず、反省の様子も見られないままで――。
本作品を読むと、「老害」問題は一概に高齢者本人だけの問題とは言い切れないのではないか、と考えさせられる。たとえば、主人公・栄子は両親の言動や態度に悩まされているが、彼女自身もまた、知らず知らずのうちに娘に時代遅れの価値観を押しつけている。つまり、「老害」は個人の資質だけでなく、社会の対応や世代間のギャップによっても生まれる現象であるといえるのではないだろうか。
親の変化を受け入れることは容易ではないが、それを拒んでいては居心地の良い関係を構築することはできない。私たち自身もいずれ年を重ねる以上、変化に柔軟に適応する姿勢が求められる。
身近な高齢者との関わり方に悩んでいる人や変化を受け入れられずにいる人には、ぜひ読んでほしい作品だ。
文=ネゴト / 糸野旬