花粉症で鼻水や鼻詰まりなどの症状に悩まされている人は多いと思います。一方、「副鼻腔(ふくびくう)炎」という病名をよく聞きますが、この病気の場合も鼻水や鼻詰まりなどの症状が出るといわれています。
そもそも、副鼻腔炎とはどのような病気なのでしょうか。放置した場合のリスクや花粉症との関係性なども含め、わしお耳鼻咽喉科(兵庫県西宮市)の鷲尾有司(わしお・ゆうし)院長に聞きました。
細菌やウイルスなどが原因で発症
Q.そもそも、副鼻腔炎とはどのような病気なのでしょうか。発症の原因、主な症状も含めて、教えてください。
鷲尾さん「副鼻腔炎とは、『副鼻腔』という鼻腔の周囲にある空洞の部分に炎症が生じた状態を指します。副鼻腔は頬にある『上顎洞』、おでこにある『前頭洞』、目と目の間にある『篩骨洞』『蝶形骨洞』の4カ所あり、左右合わせて8つあります。副鼻腔は鼻腔とつながっており、その鼻腔からウイルスや細菌などの影響を受けて炎症が生じることが多いです。
副鼻腔炎は経過から『急性副鼻腔炎』と『慢性副鼻腔炎』に分けられます。このうち、3カ月以上続く場合は慢性副鼻腔炎と呼ばれ、そこまでたっていない副鼻腔炎は急性副鼻腔炎となります。
急性副鼻腔炎でも鼻の調子が悪くなって数日など、日にち単位で生じる副鼻腔炎はウイルス性副鼻腔炎のことが多く、風邪と言った方が良いのかもしれません。一方、1週間以上症状が続いている副鼻腔炎の場合、細菌性副鼻腔炎が疑われます。
ウイルス性副鼻腔炎(風邪)から細菌性副鼻腔炎(急性)になり、その状態が何週間も続くと慢性副鼻腔炎となります。
慢性副鼻腔炎の症状でよくあるのは粘性の鼻水や膿性の鼻水、鼻詰まりが多く、鼻水が喉に流れる『後鼻漏』(たんと言う場合も)のほか、後鼻漏によるせきなどがあります。鼻の症状だけでなく、喉の症状も多い一方、鼻の症状は少なく、せきとたんだけの人もいます。また慢性副鼻腔炎は嗅覚の低下や口臭の原因にもなります。
急性副鼻腔炎は慢性の症状に加えて、頬の痛み(頬部痛)や頭痛、歯の痛みなどの症状が出てきます。子どもの場合は急性副鼻腔炎も慢性副鼻腔炎も鼻から耳に影響が出やすいため、中耳炎などの原因となる場合があります」
Q.副鼻腔炎はアレルギーが原因でも起きるのでしょうか。
鷲尾さん「以前は慢性副鼻腔炎のほとんどが細菌性副鼻腔炎でしたが、最近ではアレルギーが関与している副鼻腔炎が多くなってきています。また、かつてはよく副鼻腔炎になったり、なかなか副鼻腔炎が治らなかったりする原因として『鼻腔の形態が良くない』というのが挙げられていましたが、近年はアレルギー性鼻炎がもともとある人も含まれるようになっています。
さらに『好酸球性副鼻腔炎』といわれる難治性の副鼻腔炎もありますが、こちらは気管支ぜんそくを併発することもあり、耳鼻咽喉科だけでは治療が難しい場合もあります」
Q.副鼻腔炎は完治できる病気なのでしょうか。それとも、一度発症した場合、完治は難しいのでしょうか。
鷲尾さん「副鼻腔炎は基本的に治る病気です。特に急性副鼻腔炎は慢性化する前に治療すれば、通常であれば完治します。主な治療として抗生剤による治療が行われます。
『よく副鼻腔炎になる』『副鼻腔に膿がたまりやすい』といった話は診察中によく聞きます。そういった場合は、『(1)その症状は本当に副鼻腔炎なのか、急性副鼻腔炎ではないのか』『(2)しっかりと治るまで治療をしたのか』の2点がポイントになります。
(1)の急性副鼻腔炎の場合、多くは鼻内所見と症状から診断します。これは副鼻腔とつながった鼻腔の状態と症状から推測して、副鼻腔炎の診断をしています。ほとんどがこの診断で問題なく治ります。しかし、副鼻腔炎を繰り返したり、副鼻腔炎が長引いたりしている場合は副鼻腔のチェックが必要となります。副鼻腔は骨で囲まれているため、通常はレントゲン検査やCT(コンピューター断層撮影)検査を行います。
(2)については、急性副鼻腔炎を繰り返しているのか、慢性副鼻腔炎の急性増悪なのか、どちらかであるかを見る必要があります。すなわち毎回しっかりと治っているのであれば急性副鼻腔炎の繰り返しであり、治っていないのであれば慢性副鼻腔炎の急性増悪となります。
耳鼻科医は副鼻腔炎を繰り返す場合は繰り返す原因を、治っていない場合は治らない原因をそれぞれ考えます。どちらも鼻中隔弯曲(びちゅうかくわんきょく)症など、鼻腔形態の異常やアレルギー性鼻炎などがベースにあることを疑いますが、まずはしっかりと治療ができたかが大切です。
副鼻腔炎にかかったことがない人は恐らくいないと思います。風邪の経過として副鼻腔炎になり、自然に治っている人が多くいます。副鼻腔炎にかかっても自分の免疫力で治ってしまえば風邪となります。
そのため、副鼻腔炎の可能性があるからといって、すべての場合に治療、特に抗生剤が必要であるわけではありません。副鼻腔炎(風邪)が長引いたり、症状がひどかったりといったときにだけ治療が必要になります」
症状を放置すると…
Q.副鼻腔炎を放置した場合、どのようなリスクが生じる可能性があるのでしょうか。
鷲尾さん「急性副鼻腔炎が治らないと、慢性副鼻腔炎の状態となります。慢性副鼻腔炎が長引くと、鼻腔内に『鼻茸』といわれるポリープができてしまいます。鼻茸ができると鼻の空間が狭くなってしまうため、鼻詰まりが悪化します。
しかし、ポリープは徐々に大きくなることが多く、慣れていくため、あまり苦痛ではないかもしれません。鼻詰まりによる口呼吸によってさまざまな障害が起こるかもしれません。
また、においを感じるための通り道がポリープによってふさがれるために嗅覚障害が起きてしまいます。においが分かりにくくなると味覚も低下し、食事がおいしくなくなるかもしれませんし、ガスのにおいも分からなくなって火事に気付けないかもしれません。さらに新型コロナウイルスといった嗅覚障害が起こりやすい疾患との鑑別診断が難しくなることも考えられます。
一般的に鼻腔にポリープができてしまうと、薬による治療では完治する可能性が低くなってしまいます。その場合、完治には手術による治療が必要になります」
Q.ちなみに、副鼻腔炎と花粉症の違いについて、教えてください。花粉症でも鼻が詰まることがありますが、副鼻腔炎とは何が違うのでしょうか。
鷲尾さん「花粉症は、鼻炎の一つである『季節性アレルギー性鼻炎』ともいわれています。花粉などの季節によるアレルギー物質が原因で、炎症が副鼻腔ではなくて鼻腔に生じている状態です。つまり、季節性アレルギー性鼻炎は副鼻腔炎とは違う部位の病気です。
通常、鼻が詰まる原因は、『鼻水がたまる』『鼻の粘膜が腫れる』『鼻に異物がある』の3つです。鼻炎で鼻水がたまる場合、鼻の粘膜が腫れる場合で鼻閉が起きる一方、副鼻腔炎で鼻水がたまる場合、鼻に何かがある(鼻茸)場合に鼻閉が起こります。
つまり、鼻詰まりは鼻炎でも副鼻腔炎でも起きるため、花粉症(鼻炎)だと思っていたら副鼻腔炎、あるいは花粉症と副鼻腔炎の両方を発症していたり、副鼻腔炎だと思っていたら花粉症、あるいは両方とも発症していたりするわけです。
鼻腔と副鼻腔はつながっているために、もともとアレルギー性鼻炎がある人は副鼻腔炎になりやすかったり、副鼻腔炎が治りにくかったりします。鼻詰まりや鼻水などの症状がある場合は鼻炎と副鼻腔炎、両方とも罹患している可能性を考えておく必要があります。症状が長引く場合は耳鼻咽喉科を受診し、しっかり治療を受けてください」
オトナンサー編集部