新しい年は、アワードのセレモニーで華々しくスタートする予定だった。数々の授賞式が開催されるアメリカ・ロサンゼルスで大規模な山火事が発生し、ハリウッドは混乱に包まれた。第67回「グラミー賞」授賞式(現地2月2日)はチャリティイベントとなり、音楽のパワーで人々を繋いだ。昨年に一大ブームとなった「SHOGUN」は、第82回「ゴールデン・グローブ賞」(授賞式1月5日)、第30回「クリティクス・チョイス・アワード(放送映画批評家協会賞)」(授賞式は延期後の2月7日)で賞を総なめにして、日本チームを歴史的な快挙で輝かせ、多くの人を勇気づけた。これらの授賞式のレッドカーペットから、今年のトレンドになりそうなファッションをご紹介したい。セレブ?ファッション?いや、こういう時だからこそ、アートやエンタテインメントが活力になるのだから、人生の一瞬をともにセレブレートしましょう。
『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』のモニカ・バルバロ
いま、求められるのはロマンティック!
暗いニュースばかりのリアリティに対抗して、いま、人が求めるのはロマン。ファッションでも、空想の世界から飛び出したような、ロマンティックなスタイルがストリートを席巻しそう。そんなスタイルのキーカラーは、ベイビーブルーやピンクなどの淡いパステルだ。
●モニカ・バルバロ
『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』で助演女優賞にノミネートされたバルバロは、ゴールデン・グローブ賞授賞式に、素肌をキレイに見せるペールピンクとシアーな素材のストラップレスドレスで登場。これは、マリア・グラツィア・キウリによるディオールクチュールのもので、シンプルさとロマンの加減がパーフェクトなルック。
●セレーナ・ゴメス
『エミリア・ぺレス』で女優としての力量も見せ、本作でゴールデン・グローブ賞映画部門の助演女優賞にノミネートされたゴメスは、アイシーともいえるペールブルーのプラダのガウンを着用。サテンを用い、幾何学的にデザインされたストレートラインが神々しいまでに美しい。
●アニャ・テイラー=ジョイ
『マッドマックス:フュリオサ』や『デューン 砂の惑星PART2』などの大作に出演したテイラー・ジョイは、自分に似合うファッションをよく知る1人。ペール具合が彼女の肌によくなじむピンクのスリップドレスは、ディオールのもの。アクセサリーをたっぷりつけたぶん、ヘアメイクはミニマルに、足元はジミー・チュウのサンダルで抜け感を出したあたりもさすが。ちなみに、アクセサリーのショールのフリンジも、25年春夏ファッショントレンドのアイテムのひとつ。
●アンドリュー・スコット
Netflixの「リプリー」で、リミテッドシリーズ部門の主演男優賞にノミネートされたアンドリュー・スコットは、トレンドのカラーパレットで全身を纏った。シャツもタイもマッチさせたセットアップは、ヴィヴィアン・ウエストウッドのスーツとのこと。アクセサリーも、シャープでマスキュリンなものでなく、ラブリーなパールのブレスレットにしたところが、かなりファッショナブル!
●レディ・ガガ
グラミー賞授賞式のレッドカーペットでは、ブラックのドレスを選んだレディ・ガガだが、ロサンゼルスへの愛を歌い、ブルーノ・マーズと共に「夢のカリフォルニア(California Dreamin)」をパフォーマンスしたときのルックが、とてもロマンティックでよい。特にフラワーがあしらわれたグローブがスウィートさとロマンを演出している。アレッサンドロ・ミケーレによる新生ヴァレンティノだというから、納得の圧巻ルック!
●グレーシー・エイブラムス
受賞とはならなかったものの、今年の「グラミー賞 最優秀ポップ・デュオ/グループ・パフォーマンス賞」にノミネートされたグレーシー・エイブラムスは、なんとも甘美なファッションで参加。ヴェールが効いているシャネルのドレスは、ブライダルラインからチョイスしたというところが、最高にロマンティック!
軽やかなフェザーもトレンドに
激動の世相を誰もが感じるからか、ライフスタイルにおいてもファッションにしても、軽やかさは大事なテーマ。それに呼応したフェザーのアイテムは今季、トレンド入りしそう。
●サブリナ・カーペンター
2024年はカーぺンターの年だったといっても過言ではないぐらいバズった彼女は、カラーもトレンドを取り入れたさすがのルックで、グラミーのレッドカーペットに登壇。ヘアもふわふわにして合わせたフェザーは、ウエストとボールガウンの裾にふんだんに取り入れた。ちなみに、パフォーマンスでも、トレンドのペールブルーなコルセットドレスを着用し、まさに時代の寵児。
●サラ・ポールソン
今年のゴールデン・グローブでプレゼンターを務め、コンスタントに活躍し続ける女優、サラ・ポールソンも、デビアスのジュエリーを合わせたのは、フェザーを取り入れたエリー・サーブのクチュール・ガウン。キャリアを重ねてもずっと最先端でいられるのは、こうした時代の流れを読み、柔軟に自身をアップデートしているからなのね。
●キーラ・ナイトレイ
ゴールデン・グローブテレビドラマ部門でノミネートされたナイトレイは、アンナ・サワイに主演女優賞の座は譲ったものの、ブラックのフェザーが愛らしい、潮流を組んだファッションで存在感を残した。担当のセレブ・スタイリスト、リース・クラークによると、「キーラの女優としてのキャリアは20代に始まり、彼女自身はもうすぐ40代になる。年代を問わず、彼女の魅力を引き出すには、タイムレスなブランドであるシャネルしかないと思った」という。先のトレンド、ロマンティックも踏襲しつつも、ウエストにあるボウ(リボン)やスパンコールだけでは、昨年の流行であるガールズコアに終始してしまい、タイムレスどころか、タイムロスって感じで、時代から取り残されていたことだろう。ディテールひとつで、雲泥の差をうむ好例。
一部だけドラマティックなデコラティブ
昨シーズンに大流行したクワイエット・ラグジュアリーの反動か、今季はデコラティブなファッションがトレンドに。レッドカーペットでもストリートでもポイントとなるのは、装飾するのは一部のディテールにおさえる、ということ!
●ゾーイ・サルダナ
『エミリア・ぺレス』で、ゴールデン・グローブ賞映画部門、助演女優賞に輝いたサルダナ。近年、微妙なファッションで参加することが多かった印象なのだが、受賞の予感があったのか、トレンドも存在感もばっちりハマったルックで登場した。アンソニー・ヴァカレロによるサンローランの、大胆なスリットが入ったブラックドレスや、胸元に輝くカルティエのジュエリーもステキだが、ボリューミーなショールを合わせたのがよかった。
●ナオミ・ワッツ
ブラックベルベットの簡素なストラップレスガウンかと思いきや、裾には幾重にも連なるサテンのミルフィーユのような、花びらのようなあしらいがデザインされている。スキャパレリオートクチュールで、2024年秋コレクションのものだそう。カラーもペールピンクでトレンドだし、遊び心があってすばらしい!
チャーリー・XCX
「BRAT」でパワフルなパフォーマンスを披露し、グラミー賞 最優秀エレクトロニック・ダンス・アルバム賞など3つのグラミーを手にしたチャーリー・XCXは、ラッフル(しわくちゃで波立つという意味を持つひだ飾りのこと)がふんだんにあしらわれたドラマティックなドレスを着用。バルマンなどでキャリアを積んだルドヴィック・ド・サン・セルナンがゲストデザイナーを務めたジャン=ポール・ゴルチエのドレスは、どこがデコラティブかと言えば、コルセットシルエットで強調されたウエスト。カラーも絶妙だし、彼女の個性に合っていて、とてもモダンに見える。
●アリシア・キーズ
ブロードウェイミュージカル「ヘルズキッチン」で、グラミー賞 最優秀ミュージカル・ショー・アルバム賞を受賞したキーズ。印象的なドレスとアクセサリーは、ドルチェ・アンド・ガッバーナのウィメンズ高級仕立てラインであるアルタモーダのもの。このルックが発表された2024年夏コレクションはイタリアのサルデーニャ島をオマージュしているため、歴史や文化遺産をデザインに落とし込んだものだそう。インパクトのある主役級のアクセサリーで飾るスタイリングは、いますぐに取り入れられそう!
文/八木橋 恵