住まいを失う危機にある人々を「ひとりでも多く助けたい」と奔走する不動産会社に、誰からの支援も受けられず、大量のごみの中で暮らす住人からSOSが届きました。問題解決のため、社長の女性がとった“奇策”とは?
大阪・交野市にある「啓友エステート」は、社長の上山登子さん(49)が5人の従業員チームを率いる地域密着の不動産店。お客さんの部屋探しに奔走する一方、力を入れているのが、大阪府から指定を受けた「居住支援法人」としての仕事です。
低い収入や障害、高齢などの理由で退去を余儀なくされ、次に暮らす家を見つけられない“住宅弱者”をサポートする「居住支援法人」。住まいの問題を抱えた人からのSOSが日々寄せられますが、受け入れてくれる物件がなかなか見つからないのが悩みといいます。
そんなある日、上山さんに緊急の相談が入りました。ある事情から通常の生活ができなくなっている人を助けてほしいというのです。それは、すでに亡くなった父親名義の家でひとり暮らしをする60代の女性。築50年を超える2階建ての一軒家はどこもごみであふれ返り、足の踏み場もありません。
【動画】電気も水道も止まり、トイレも使えない状態。寝るときは、高さ1メートル半ほどまで積み上がった生活ごみの山の上で横になっていました。
女性は30代で離婚。娘とこの家で暮らしていましたが、不安定な仕事に子どもの学校の問題などが重なり、心身ともに疲弊。ごみを決まった日に出すことができなくなり、どうすればいいかわからないまま月日だけが過ぎ去りました。
ごみに埋め尽くされた家を「誰にも見せたくない」という気持ちから、誰にも相談できず、誰も招き入れたことはなかったという女性。ですが、「今から変わればいい。一緒にやろう」と覚悟を持って手を差し伸べてくれた上山さんにだけは心を開くことができました。
しかし、この状況から女性をどう救い出すか?は難しい問題です。上山さんは女性の意向を確認したうえでこの家の売却し、利益を新生活の費用に充てようと考えましたが、業者からの回答は「マイナス査定」。そこで、上山さんの会社で家を買い取り、次にサポートが必要な人の住まいとして活用することにしました。
ゴミの撤去費用やハウスクリーニング、リフォーム代などを考えると、大きな出費になるのは確実ですが、上山さんは「誰かのためになってくれたらうれしい」と。「生きづらさ」を抱える人にどこまでも寄り添うその情熱はどこから来るのでしょうか?
幼いころに両親が離婚し、兄や姉と離れて母親のもとで生活した上山さん。成長し、久しぶりに再会した父がアパートのオーナー業を営むために設立していた有限会社。それが「啓友エステート」でした。
「お金がなくて家族のために働きに来る子たちをいっぱい住ませたい」と願っていた父は2年前に他界。上山さんはそんな父の人助けの心と会社を引き継ぎました。「家族やからできないこともあるし、他人やから支えられることもある」と話す上山さんが見据える先には、それぞれが自分のできることで人を支える「みんなが助け合える街」があります。
まもなく、女性の家のごみの片づけが始まりました。別の地域で居住支援を始めた仲間もサポートに駆けつけ、作業が落ち着いたところで女性を新居に案内。新しい住まいは2Kの賃貸アパート。築50年を超えますが、広々とした室内には、すでにこたつやテレビ、大きな冷蔵庫も。上山さんが家で使っていたものを女性のためにと運び込んでおいたのです。
長年の友だちのように仲よくなった女性は、生活を一から立て直し、今後は上山さんの活動を手伝う予定とか。上山さんと出会ったことで、少しずつ前を向いて生きることができています。助けることは「やりがいでしかない」と言い切る上山さん。その奮闘は今日も続いています。
人助けに奔走する不動産会社社長は、3月6日(木)放送の『newsおかえり』(ABCテレビ 毎週月曜〜金曜午後3:40〜)で紹介しました。