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団地に思いを馳せたピリングス。ブランドにとっての普遍性を形に【2025-26年秋冬 東京コレクション】

  • 2025.3.18

メールで届いたピリングスPILLINGS)の招待状には「housing complex(団地)」とあり、プラハ城を参照した建物を紙で作ろうとしている6つの画像と説明が添えられている。会場である品川のイベントホールに入ると、ベニヤ板で作られた粗野なランウェイはところどころが黒に塗られ、天井からはたくさんのライトが吊り下がっていた。

ファーストルックは毛羽立ちが目立つグレーの上下。ねじれたフォルムのスカートから裏地のようなものが見えている。

無彩色のルックが続き、身体を抱え込んだり、たくさんあるポケットに手を入れているモデルも。

白い布が溢れ出るディテールもあった。

モデルたちは皆虚ろな表情。腕に手をかけるポージングは、傷口を抑えているようにも見えてくる。

ショー終了後、取材に応じたデザイナーの村上亮太によれば、今回は「ピリングスにおける普遍性・クラシックを形にする」という試みだったという。2014年春夏に前身となるリョウタムラカミをスタートし、20年にピリングスに改名。活動を始めてから10年、ピリングスとして10回のコレクション発表を経て、「過去を振り返り、噛み砕き、アップデートしたい」と考えたよう。「団地」というキーワードも、かつて団地に住んでいたことから、「帰る場所」という意味合いを持たせている。招待状のヴィジュアルは、ラストルックを作るための試作だったらしい。スタッフが城を作ろうとしてなかなかうまくいかない様子を描いており、2023-24年秋冬のショーの前に、主人公がいつまで経っても城に辿り着けないカフカの『城』についての音声を流したことがあるが、「答えがあるかどうかわからないけど何かを探し続ける」姿勢はものづくりにおいて大切だと考えていることから採用した。

「結果をコントロールできない点に価値を感じ」、ほぼ全ルックに縮絨をかけており、布帛に見えるルックもあるが、大半がシグネチャーであるニット。溢れ出る白い布は、こだわり続けているポケットの袋布だった。会場のセットは、天井からピアノを吊るした2022-23年秋冬のショーを「抽象化」。ピアノの基本的な61鍵盤にならってライトを61灯吊るし、「鍵盤にも見えるから」ランウェイを一部黒にした。虚ろに見えてしまったモデルたちだが、村上によれば「悲しいとも捉えられたくはなく、特別な感情を表そうとはしていない」。初めてモデルの「佇まい」をデザインする役割として、ダンサー・振付家・演出家の山田うんが参加している。

改めて今回立ち戻った「ピリングスらしさ」を村上に聞くと、「西洋的なカッティングで身体のラインに沿わせるのではない、いびつさみたいなものだと思います。生地が溜まったり、こぶっぽくなったりしますが、身体ではなく、心の形みたいなものを表現しているんです」という答え。今年のLVMHプライズのセミファイナリストに選出されたことでも話題だが、今月参加したプレゼンテーションでは「西洋のファッション」について思いを巡らせたという。「さまざまな立場の審査員から、デザインだけではなく、ビジネスについてや、どんな機会に着る服なのか、といった質問もあり、勉強になりました。“西洋のファッション”をまだまだ把握できていない、と感じる場面もあり、自分なりの表現をするためにはその理解が必要だと思いました」。

自身の思いをやみくもに訴えるよりも、文脈や時代の空気をわかったうえで表現した方が、確実に多くの人々に伝わる。世界の舞台へと一歩踏み出し、学びを得たピリングスが、これから独自性をどのようにアピールしていくのか注目したい。

※ピリングス 2025-26年秋冬コレクションを全て見る。

Photos: Gorunway.com Text: Itoi Kuriyama

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