「激動の人生、常にそばにいたのは猫だった」
20世紀を代表するミュージシャン、ジョン・レノンも生粋の猫派だった。幼少期には猫を友達のように慕い、毎日近くの市場に通っては、飼い猫に腹いっぱいの魚を食べさせていたそう。そしてビートルズ時代も、オノ・ヨーコとダコタハウスで暮らしていた時も、常にそばには猫がいた。
注目すべきはネーミングの独特さ。自らの伯母やマネージャー、たまたま知り合いだったヒンドゥー教の尊師など、ずぼらにも周囲の人のファーストネームをそのまま飼い猫に名づけたかと思えば、ピアノの白鍵と黒鍵にちなんで白猫にメジャー、黒猫にマイナーと名づけ、音楽家ならではの洒落を効かせたり。
さらには、自らの“僕たちはキリストよりも人気がある”発言が物議を醸したことを受け、皮肉を込めて飼い猫を「ジーザス」と名づけたり。彼にとっていかに猫が密接な存在であったかが窺える。
また晩年、息子ショーンのために熱心に描いた絵本にも、多くの猫たちが登場。激動の人生、日々目まぐるしい変化に相対する彼を支えたのは、猫との変わらない暮らしだったのかもしれない。
profile
John Lennon(ミュージシャン)
ジョン・レノン/1940年イギリス生まれ。ビートルズではギター、ボーカルを担当。71年の「IMAGINE」は、平和を訴えた名曲として歌い継がれている。1980年没。
「猫は人生の救世主であり、最高の師である」
「猫に囲まれて暮らすのはいいものだよ。気分が落ち込んだとき、猫たちを見れば、元気になれる。(中略)まさに救世主だよ」。生前そう語ったのは、稀代の作家、チャールズ・ブコウスキー。酒浸りでギャンブル癖に放浪癖あり。その破天荒な人生に光を与えた存在こそ猫だった。
「猫をたくさん飼う人ほど長生きする」と信じていた彼が共に暮らしたのは、「マンクス」という名の尾のない白猫や「ブッチ・ヴァン・ゴッホ・アルトー・ブコウスキー」という文化人風の大仰な名の片耳の猫など様々。飼い猫たちへの思いは、彼の数々の詩や自伝的小説の中でも綴られている。例えば詩「MY CATS」では、彼らが不満気な顔はしても悩まないこと、いつだって誇らしげに闊歩(かっぽ)するさまなどに触れ、自らの生き方の“師”であると表現した。
また晩年のエッセイ『死をポケットに入れて』では、“来世でわたしは猫になりたい。(中略)人間は惨めで怒りっぽくて狭量すぎる”とも。一貫して彼が感じていた浮世の生きづらさは、型破りな筆致と猫への大きな愛に投影されていた。
Information
『ON CATS』
猫にまつわる作品を集めた『ON CATS』内の挿絵は1966年にブコウスキー自ら描いたもの。
profile
Charles Bukowski(作家)
チャールズ・ブコウスキー/1920年生まれのアメリカ人作家。代表作は、『勝手に生きろ!』(河出文庫)や遺作となった長編『パルプ』(ちくま文庫)など。その退廃した作風は、世界中でカルト的な人気を誇る。1994年没。
参考文献 : 『文豪の猫』(エクスナレッジ)