映画の未来を拓き、世界へ羽ばたこうとする若くて新しい才能に対して贈られる賞としてPFF(ぴあフィルムフェスティバル)が2019年に創設した「大島渚賞」。その第6回の授賞式が3月17日、丸ビルホールにて開催された。本賞は、大島渚監督が高い志を持って世界へ長縁していったように、それに続く次世代の監督に期待と称賛を込めて顕彰するもの。第6回目の受賞者は第77回カンヌ国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞し、世界からも注目を集めている『ナミビアの砂漠』(24)の山中瑶子監督に決定した。
【写真を見る】最近の映画監督の傾向を詳細に語った審査員長の黒沢清監督
一般社団法人PFF理事長、ぴあ株式会社代表取締役社長の矢内廣氏はカンヌ映画祭での受賞に加え、「PFFアワード2017」にて『あみこ』にて観客賞&ひかりTV賞を受賞し、第68回ベルリン国際映画祭・フォーラム部門に正式出品されたことにも触れ、「ベルリン国際映画祭での正式出品は、当時、長編映画監督史上最年少監督の記録を更新しています」とニッコリ。お祝いの言葉として「これからも自由に世界に羽ばたいていただきたい」とエールを贈った。
審査員長の黒沢清監督は審査講評で「いつのまにか審査員長なんですね…」としみじみ。「大島渚賞」は、審査員長の坂本龍一、審査員の黒沢監督、荒木啓子PFFディレクターの3名による討議で選ばれてきたが、2023年の坂本の逝去以降、黒沢監督、荒木PFFディレクターの2人体制で審査を行なっている。「坂本さん亡き後、毎年(審査)に苦労している」と切り出した黒沢監督は「今年もなかなか大変でした。いまの若い監督たちは、自分のよく知っている身の回りのこと、心のなかにあることを映画にすることにはものすごい才能を発揮することが多い」とコメント。しかしそれだけでは「大島渚賞」には値しないと強調し、「少しでもいいから、自分の知っているものの外側に飛び出そう、一回壊してみようという動き、思考はないものかと毎年いろいろ探しているけれど、なかなかそういう作品に巡り会えない」と正直な思いを明かす。
「とうとう巡り会えた!と感じたのが『ナミビアの砂漠』でした」と笑顔を見せた黒沢監督は「最初に観た時には、この映画も主人公も狭い世界に生き、袋小路に陥るんじゃないかという不安がありました。でも、あるところから客観的な視点が入ってくる。急にどういうわけか、主人公からも映画からもそして、山中監督からもすごく客観的な視点で、なにかを壊そうというベクトル、意図を感じました」と感想を伝え、そのシーンで「痛く感銘を受けました」と満面の笑み。「自分たちが知らなかったなにかに向かう風穴を開けてくれる、そんな映画を作ってくれるのではないかという気持ちになった」とも補足し、「知ってるなにかを壊して、ちょっとでも外に出て行こうとすることを表現したのが大島渚です。だから(『大島渚賞』に)相応しいと思いました」と受賞理由を丁寧に語り、山中監督へトロフィーを授与した。
大島家からの記念品を贈呈した大島明監督は、山中監督について「オリジナリティの塊のような監督」と絶賛。「こんなセリフをよく思いつくなと感心、感服していました」と拍手を贈り、テーマやセリフをしっかりと映画に落とし込み、しっかりと面白い映画に仕上げていることが「すばらしい!」とも付け加え、「今後、海外に羽ばたいていく才能だと思うので、家族としてもすごくうれしいです」と伝えた。
受賞の挨拶で「いつもは泣いたりしないのに…。今日はもう泣いてしまっています」と涙ぐんだ山中監督は「身に余るうれしい賞をいただいて恐縮しています」とよろこびを噛み締める。「『あみこ』でPFFに見つけてもらったという自負があるので、こうしてまた祝っていただけてうれしいのと、坂本龍一さんにもお世話になったので…」とこれまでを振り返る。溢れ出す涙を拭いながら、「大島監督は時代と社会を攪拌して転覆させるような映画を作られてきた方。ものすごく尊敬しているので身が引き締まる思いです」と力を込め、「私もそういう映画を作りたいけれど、現代の若者なので、映画は綺麗にまとまってしまいます」と黒沢監督の講評に絡めつつ、「実は、(大島監督のような)企画をひとつ持っているので、社会を転覆させる映画を作りたいと思います!」と満面の笑顔で宣言。会場からは期待のこもった大きな拍手が湧き起こっていた。
取材・文/タナカシノブ