ほとんどの人は、ヴィンテージものの下着など身につけようとも思わないだろう。だが私は、15歳の時にヴィンテージにハマって以来、ビスチェにガーターストッキング用のストラップをあしらった“メリーウィドウ”コルセットやシルクのブラとガードルのセットといった、ひと昔前のランジェリーを毎日着用している。そんな私も馴染みがあるシルエットの下着のひとつが、今月パリで開催されたミュウミュウ(MIU MIU)の2025-26年秋冬コレクションに登場した。色鮮やかなニットやロゴTにひびく、ツンと張ったバスト。ついに、コーンブラが復活したのだ。
「この困難な時代を前向きに生き抜くために、『女性らしさ』は必要なのでしょうか?」とショー後、ミウッチャ・プラダは取材陣に問うた。そしてこう続けた。「ブラやブローチやファーなど、一般的に“女性らしい”とされているアクセサリーがありますよね。問題は、どういった女性らしさが今求められているかです。女性らしくあることは、この物騒な時代において、何か役立つのでしょうか?この戦時時代に」
そう考えると、彼女が今このブラをランウェイに送り出したことは理にかなっている。バイアスカットがバストを尖った形に整えるコーンブラは、「弾丸」を意味する英語「bullet」にちなんだ“バレットブラ”という、いささか凶暴な名前でも親しまれており、1940年代から50年代にかけて流行した。
「バレットブラが登場した当時は、尖っていれば尖っているほど良いとされていました」と、ヴィンテージランジェリー・ディーラーのイリサは言う。マンハッタン・アート&アンティーク・センターの3階にある彼女のショップは、19世紀後半から1940年代までのランジェリーと、1950年代のコルセットを扱っており、アディソン・レイ、マドンナ、ジャンポール・ゴルチエも足繁く通う。「『ブリジャートン家』が配信されて以来、ヴィンテージ・ランジェリーを求めて来店する若い女の子たちが増えました」とイリサは続けた。
ヴィンテージブラの形やデザインは、私が10代の頃に主流だった上向きで丸みのあるバストやヴィクトリアズ・シークレット(VICTORIA'S SECRET)のプッシュアップブラとはかけ離れている。だが、1940年代や50年代の服には、その頃流行っていた下着が合う。ここしばらく人気が再燃しているヴィンテージファッションだが、個人的には古着とヴィンテージの下着を一緒に着用することで、初めてまとまりのあるルックになると思っている。
ブラが叶える、一種の造形美
イリサのショップは、軽い気持ちで訪れるようなショップではない。店内を見て回り、自分で気になるピースを探し出すのではなく、店に所狭しと並べられた箱やハンガーラック、服の山をイリサ自らが漁り、体に合った1枚を選んでくれる。そのためには彼女に下着姿を見せなければならない。ヴィンテージブラは着てみないと正しいサイズ感がわからないものだが、「40年代と50年代もののバレットブラは、多分1000枚くらいあると思います」と言うイリサの手にかかれば、必ず似合うものが見つかる。
いくらブラとはいえ、セカンドハンドの下着を身につけるのに抵抗を覚える人も多いだろう。しかし、最近はミュウミュウ以外にも、コンテッサ ミルズ(CONTESSA MILLS)やアラクス(ARAKS)をはじめとするブランドがコーンブラを打ち出している。コンテッサ ミルズが販売するのは、「セラフィム」と名づけられたコーンブラとショーツのセット。黒とシャンパンゴールドの2色展開で、デザインはピンナップガールからインスパイアされたとミルズは言う。「フルカバーのランジェリーが持つタイムレスな魅力と、現代の下着の快適さを融合させたデザインを目指しました。昔らしさを感じるだけでなく、今の人の美しさを讃えてくれるピースが作りたかったのです。つけ心地が良くてサポート力があり、それでいて魅惑的なものを」
一方、アラクスの「ウィロー」ブラレットはシルクシャルミューズと極薄のコットン生地製で、肌触りは柔らかい。そしてヴィンテージものには見ない、さまざまなカラーで展開されている。ビビッドなバイカラーのブラを見ていると、現代のランジェリーには機能性と同じくらい、遊び心が大切だということを改めて気づかされた。
「ブラはパターンの切り方ひとつで、バストの形や見え方がガラリと変わるんです」とアラクスのデザイナー、アラクス・イラマヤンは語る。「縫い目やダーツの入れ方で、バストの先端の位置を変えることができます。また、使う生地によっても形は変わってくるんです。例えば、シルクの織物はポリウレタン入りの生地ほど伸縮性がないので、よりかっちりとした形が作れます」。まるで造形デザインだ。ほかにも「ジタ」や「ベアトリス」といったバルコネットブラなどを取り揃えているアラクスだが、どれも胸をハリのある円錐型に整えてくれる。
「尖った形のバストは女性らしいシルエットを強調し、体のラインに注意を引きます」とプラダの言葉を反芻するようにイラマヤンは言う。「女性の体を描いたコンテンツがメディアで厳しく規制そして検閲されている時代に、こういったバストラインのデザインは、どこか反骨精神を感じさせます」
Text: Margaux Anbouba Adaptation: Anzu Kawano
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