太い花茎を立ち上げた先端に、ラッパのようなオレンジ色の花を一気に咲かせる様子が大変華やかなクンシラン(君子蘭)。じつのところ栽培では、気候や日照条件に敏感に反応する繊細な一面もあります。この記事では、クンシランの基本情報や特徴、名前の由来や花言葉、種類、詳しい育て方など、幅広くご紹介します。
クンシランの基本情報
植物名:クンシラン
学名:Clivia miniata
英名:Natal lily、bush lily
和名:ウケザキクンシラン(受咲君子蘭)
その他の名前:クンシラン、クリビア、クリヴィア
科名:ヒガンバナ科
属名:クンシラン属(クリビア属)
原産地:南アフリカ
形態:宿根草(多年草)
クンシランは、ヒガンバナ科クンシラン属(クリビア属)の植物です。名前に「蘭」が入りますが、ラン科の植物ではありません。原産地は、南アフリカのナタールで、寒さに弱い性質です。主に森林内や岩陰などの環境で自生してきたため、強い日差しが当たり続ける環境を苦手とします。日本の気候には馴染みにくく、鉢栽培にして季節や日照条件によって、適した場所に移動しながら管理するのが基本となります。クンシランは常緑性の多年草で、一度植え付けると毎年開花し、何年も生き続けるのでコストパフォーマンスの高い植物といえます。
もともとは花弁の幅が狭く、下向きに咲くクリビア・ノビリスがクンシランとされていましたが、現在は上向きに咲くクリビア・ミニアタ(ウケザキクンシラン)が主として花苗店などに出回り、クンシランとして扱われています。この記事でも、クリビア・ミニアタをクンシランとしてご紹介します。
クンシランの花や葉の特徴
園芸分類:草花
開花時期:3〜5月
草丈:30〜50cm
耐寒性:弱い
耐暑性:普通
花色:オレンジ、黄、白、緑
クンシランの花色といえばオレンジ色が最もポピュラーですが、黄色やクリーム色もあります。開花期は3〜5月。葉の中央あたりから太くて長い花茎を伸ばした頂部に花をつけます。花径は4〜7cmで、ラッパのような花姿が特徴。10輪ほどがそれぞれ四方に向かってまとまって開花し、大変華やかです。一重咲きのほか、八重咲きもあります。
クンシランの草丈は、30〜50cmほどです。剣のように長くて厚みがある葉が地際から放射状に伸ばす姿も美しく、葉姿に観賞価値を見出すこともあるようです。白または黄色い斑入り葉の品種も見つかります。
クンシランの名前の由来や花言葉
クンシラン(君子蘭)という和名はクリビア・ノビリスを訳して名付けられたもの。日本にもたらされた明治頃は、クリビア・ノビリスがクンシランとされており、「ノビリス」が「高貴な」「高名な」という意味を持つことに由来しているようです。学名のクリビアは、19世紀にイギリスの植物学の発展に貢献した、クライブ家出身のノーサンバーランド公爵夫人にちなんで名付けられました。
クンシランの花言葉は「高貴」「誠実」「情け深い」などです。
クンシランの系統
クンシランとして花苗店に出回っているクリビア・ミニアタ(ウケザキクンシラン)は、3つの系統に分類することができます。ここでは、それぞれの種類の特徴について解説します。
高性広葉系
やや草丈が高くなり、葉がやや幅広で長くやや立ち上がるのが特徴。放射状に葉を広げ、花茎もやや長く伸びてスラリとした株姿が美しく、花苗店などに最も流通している、スタンダードなタイプです。
ダルマ系
高性広葉系よりも草丈はややコンパクトにまとまります。葉はより肉厚で、短めなのが特徴で、重なるようにして左右に展開。花茎も短めで、株姿はずんぐりむっくりでダルマ系とはよくいったもの。緩やかに成長します。
斑入り系
剣状の細長い葉に、白または黄色の斑がストライプ状に入るタイプです。斑の入り方は多様で、コレクターズアイテムにもなっています。
クンシランの栽培12カ月カレンダー
開花時期:3〜5月
植え付け・植え替え:4〜5月
肥料:4〜11月
種まき:3~4月
クンシランの栽培環境
日当たり・置き場所
【日当たり/屋外】日差しが強く当たる場所を苦手とし、半日陰で水はけのよい環境を好みます。ただし、あまりに暗い場所では、花つきが悪くなるので注意。暑さや寒さが苦手なので、一年を通して適した場所に移動しながら管理しましょう。冬は室内で管理したほうがよいでしょう。
【日当たり/屋内】室内の日当たりのよい場所で管理します。
【置き場所】クンシランは、気候に合わせて置き場所を移動しながら栽培するのがおすすめです。2〜3月は室内の日当たりのよい場所で管理します。4〜5月は日差しが強くなるので、室内の明るい日陰に移動を。6〜10月は戸外に出して、明るい日陰で管理します。太陽の強い日差しが直接当たらない、落葉樹の足元などチラチラと木漏れ日が差すような場所が向いています。日差しを50%ほどカットする遮光ネットを張り、その下で管理するのも一案です。だんだんと寒くなり始め、10℃以下の気温を60日ほど経験すると花芽ができるので、霜が降りる少し前まで戸外で管理しましょう。本格的な寒さとなる11月〜翌年1月は、室内の明るい日陰へ移動します。暖かすぎると花が咲かなくなるので、終日暖房の効いた部屋は避けましょう。
耐寒性・耐暑性
クンシランの生育適温は20℃前後で、耐寒性・耐暑性ともにそれほど高くはありません。耐寒温度は5℃程度ですが、10℃以下の低温に約60日さらされることで花芽がつく性質があります。冬は5℃以上、10℃以下の気温で管理するとよいでしょう。強い日差しにも弱いので、夏は直射日光のあたらない明るい日陰で管理します。
クンシランの育て方のポイント
クンシランは、直射日光に当たると葉焼けしやすく、寒さに弱い性質があるので、基本的には鉢栽培が適しています。季節に応じて場所を移動するのがよく、地植えにはあまり向いていないので、ここでは鉢栽培の方法について解説します。
用土
贈答用の鉢花を入手した場合は、ワンシーズンはそのまま植え替えずに開花を楽しみましょう。ポット苗を入手した場合は、クンシランの栽培用にブレンドされた培養土か、市販の草花用培養土を利用して植え替えると手軽です。
自身で培養土をブレンドする場合は、赤玉土中粒6、軽石中粒1、腐葉土3を混合し、さらに元肥としてリン酸分を多めに含む緩効性肥料を施しておくとよいでしょう。
水やり
クンシランは鉢栽培が基本で、乾燥しやすいために日頃の水やりを忘れずに管理します。ただし、クンシランは多湿を嫌うため、いつも湿った状態にしていると根腐れの原因になるので、与えすぎに注意。土の表面が乾いてから、鉢底から水が流れ出すまで、たっぷりと与えましょう。茎葉がしおれそうにだらんと下がっていたら、水を欲しがっているサイン。植物が発するメッセージを逃さずに、きちんとキャッチしてあげることが、枯らさないポイントです。特に開花期間中は水を欲しがるので、水切れしないように管理しましょう。
水やりの際は、株が蒸れるのを防ぐために茎葉全体にかけるのではなく、株元の地面を狙って与えてください。特に花弁に水がかかると、傷みやすくなるので注意が必要です。
また、真夏は、気温が高い昼間に行うと、すぐに水の温度が上がってぬるま湯のようになってしまいます。すると株が弱ってしまうので、朝か夕方の涼しい時間帯に与えることが大切です。一方、真冬は、気温が低くなる夕方に行うと凍結の原因になることもあるので、十分に気温が上がった日中に与えるようにしましょう。
肥料
元肥として緩効性肥料を施した後は、毎年4~6月、9月頃に、緩効性化成肥料を株の周囲にまきます。スコップなどで軽く耕し、土に馴染ませておきましょう。また、7〜11月は、リン酸成分を多めに含む液肥を月に1度を目安に与え、株の勢いを保ちます。
注意する病害虫
【病気】
クンシランに発生しやすい病気は、白絹病や軟腐病などです。
白絹病はカビが原因の周囲に伝染しやすい病気です。根や茎に発生しやすく、発症初期は地際あたりに褐色の斑点が見つかります。病状が進むと株元の土に白いカビがはびこり、やがて株は枯れてしまうので注意が必要。病株を発見したらただちに抜き取り、土ごと処分してください。土づくりの際に、水はけのよい環境に整えることが予防につながります。
軟腐病は細菌性の病気で、高温時に発生しやすくなります。特に梅雨明けから真夏が要注意。
球根や成長点近くの茎、地際の部分や根が腐って悪臭を放つので、発症したのを見つけたらただちに抜き取り、土ごと処分してください。予防としては、水はけをよくし、いつもジメジメとした環境にしないこと。また、害虫に食害されて傷ついた部分から病原菌が侵入しやすくなるので、害虫からしっかり守ることもポイントになります。
【害虫】
君子蘭につきやすい害虫は、ナメクジ、アザミウマなどです。
ナメクジは花やつぼみ、新芽、新葉、果実などを食害します。体長は40〜50mmほどで、頭にツノが2つあり、茶色でぬらぬらとした粘液に覆われているのが特徴。昼間は鉢の下や落ち葉の底などに潜んで姿を現しませんが、夜に活動します。植物に粘液がついていたらナメクジの疑いがあるので、夜にパトロールして捕殺するか、難しい場合はナメクジ用の駆除剤を利用して防除してもよいでしょう。多湿を好むので風通しをよくし、落ち葉などは整理して清潔に保っておきます。
アザミウマは花や葉につき、吸汁する害虫です。スリップスの別名を持っています。体長は1〜2mmほどで大変小さく、緑や茶色、黒の姿をした昆虫です。群生して植物を弱らせるので注意しましょう。針のような器官を葉などに差し込んで吸汁する際にウイルスを媒介するので、二次被害が発生することもあります。被害が進んだ花や葉は傷がついてかすり状になる異変が見られるので、よく観察してみてください。花がらや枯れ葉、雑草などに潜みやすいので、株まわりを清潔に保っておきます。土に混ぜるタイプの粒剤を利用して防除してもよいでしょう。
クンシランの詳しい育て方
苗の選び方
クンシランを購入する際は、葉色が濃く、葉がたくさんついたものを選ぶとよいでしょう。あくまでも目安ですが、花芽をつけるためには葉が16枚程度必要だとされています。
植え付け・植え替え
クンシランの植え付けの適期は、4〜5月です。
まず、6〜7号の鉢を準備します。用意した鉢の底穴に鉢底ネットを敷き、軽石を1〜2段分入れてから草花用の培養土を半分くらいまで入れましょう。苗をポットから取り出して鉢の中に仮置きし、高さを決めます。根鉢を軽くほぐし、少しずつ土を入れて、植え付けていきましょう。水やりの際にすぐあふれ出すことのないように、土の量は鉢縁から2〜3cmほど下の高さまでを目安にし、ウォータースペースを取っておいてください。土が鉢内までしっかり行き渡るように、割りばしなどでつつきながら培養土を足していきます。水やりや降雨時の泥はねによって病気が発生するのを防ぐために、表土にバークチップなどを敷いておくとよいでしょう。最後に、鉢底から水が流れ出すまで、十分に水を与えます。
鉢植えで楽しんでいると、成長とともに根詰まりして株の勢いが衰えてくるので、2〜3年に1度は植え替えることが大切です。植え替え前に水やりを控えて土が乾いた状態で行うと、作業がしやすくなります。鉢から株を取り出して根鉢をくずし、古い根が絡みあっているようであればカットして整理しましょう。植え替えの際には、新しい培養土を使って植え直します。もっと大きく育てたい場合は、元の鉢よりも大きな鉢を準備し、軽く根鉢をくずす程度にして植え替えてください。
日常のお手入れ
種子を採取する予定がなければ、終わった花は早めに花茎から切り取ります。切り口が早く乾燥するように、晴れた日の午前のうちに行うとよいでしょう。
また、クンシランは光が差し込む方向に葉が展開する性質があります。放射状にバランスよく草姿を整えるには、葉姿を見ながら鉢を回転させて調整しましょう。
増やし方
クンシランは、種まきと株分けで増やすことが可能です。それぞれの増やし方についてご紹介します。
【種まき】
種子を採取する場合は、開花時に雄しべの花粉を筆にとって、雌しべの柱頭に撫でつけて受粉させるとより実がつきやすくなります。なるべく午前中に行いましょう。無事に受粉がすむと、秋に果実がつきます。花茎ごと切り取って室内で保管しておきましょう。
クンシランの種まき適期は4〜5月で、適温は15℃前後です。果実から種を取り出して流水できれいに洗い、黒ポットに培養土を入れて種をまきます。発芽後、株が大きくなるごとに鉢の号数を大きくして植え替え、育苗しましょう。開花までは5年ほどかかりますが、手をかけた分だけ喜びもひとしおです。
【株分け】
クンシランの株分け適期は4〜5月です。株を植え付けて数年が経ち、大きく育ったら株の老化が進むので、「株分け」をして若返りを図ります。株を掘り上げて、数芽ずつつけて根を切り分け、再び植え直しましょう。それらの株が再び大きく成長し、同じ姿の株が増えていくというわけです。
クンシランの花を毎年美しく咲かせるには
開花が終わった花は早めに摘み取りましょう。そのままにしておくと実がついて、繁殖するために体力を消耗してしまうためです。また、11月〜翌年4月の間に、約60日間は5〜10℃の寒さにあわせることもポイント。寒さを経験することで、花芽がつき、翌年の開花の充実につながります。
クンシランの豪華な花を楽しもう
クンシランは、温度管理や葉焼けに注意を払う必要があるなど、手のかかる植物の一つといえます。しかし、コツを掴んで手をかけた分だけ応えてくれるので、満開になった時にはその分喜びも大きくなります。豪華な花姿が魅力のクンシランを、ぜひ庭先やベランダなどに迎えてはいかがでしょうか。
Credit
文 / 3and garden
スリー・アンド・ガーデン/ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。