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新時代のアニメ映画『Flow』『劇場版モノノ怪 第二章 火鼠』を絶対に劇場で見てほしい理由

  • 2025.3.17
3月14日より全国公開の『Flow』と『劇場版モノノ怪 第二章 火鼠』が、どちらも「映画館で見てください!」とお願いするしかない、すさまじいクオリティーと面白さでした! それぞれの魅力と、知ってほしいポイントを解説しましょう!(※画像出典:(C)Dream Well Studio, Sacrebleu Productions & Take Five. (C) ツインエンジン)

3月14日より「劇場映え」という言葉がとてつもなく合う、必見のアニメ映画2作が公開されています。第97回アカデミー賞長編アニメーション映画賞を受賞した『Flow』と、高い人気を博したテレビアニメの映画版第2作『劇場版モノノ怪 第二章 火鼠』です。

どちらもアニメとしての表現そのものに大きな感動がありますし、物語では今の時代に大切なことを訴求しつつも、まるで「テレビゲームのような」特徴と面白さもあります。そして、どちらも「音響」に手が込んでおり、劇場で見てこその没入感もある作品なのです。それぞれの魅力と、知ってほしいポイントを解説しましょう。

『Flow』は「世界」の作り込みがスゴい「セリフなし」のロードムービー

ラトビアのギンツ・ジルバロディス監督による『Flow』は、簡単に言うと「猫と動物たちのロードムービー」で、その最大の特徴は「セリフなし」であること。劇中のキャラクターはみんな動物で、しゃべることはなく、説明らしい説明も一切ありません。
すさまじいのは、同作における「世界」の作り込みです。世界が大洪水にのまれるという衝撃的な冒頭と、その災害から命からがら船に逃げ込む様子から目が離せず、洪水後の世界も「箱庭」のように感じつつも、まるでどこまでも続く世界のような「広がり」をも感じさせるのです。大胆かつ巧みなカメラワークも含めた「空間」の見せ方、「音」も含めたリアリズムと心地よさも相まって、開始1分で「あっ……これは、大傑作」と確信したほどでした。
旅の道中を映し出す風景も美しく、「荒廃」しているためにどこか寂しさもあり、時には漠然とした不安や恐怖も呼び起こします。「セリフなし」「説明なし」ながらも、つい見入ってしまう構成であるがゆえに、「なぜこのような世界になったのか」「すみかを離れた動物たちどこへ向かうのか」など、想像する楽しさがたっぷりあるのです。

『Flow』の猫は「嫌なヤツ」? 監督が考える動物たちの特徴

加えて動物たちの特徴と、旅を通じて協力する様、もっと言えば友情が芽生えているように思えるのもまた、面白いところ。プレス向け資料に書かれていた、ジルバロディス監督によるキャラクターたちの個性も興味深いので、引用してみましょう。

「・猫……初めのうち、猫はとても自立していて、他の動物と一緒にいたがりません。率直に言うと嫌なヤツのように振る舞ってほしかったのです。猫は時にとてもわがままで無礼な動物だからです。でもかわいいので許してしまいますけどね。

・犬……いつも誰かの後についていきます。でも最後には、より自立し、自分で決断するようになります。猫と正反対の旅をする犬のキャラクターでバランスを取りました。

・キツネザル……たくさんの物を集めていて、所属の欲求があることがわかります。鳥も、所属したい、群れに戻りたいと切望しています。

・カピバラ……物語の中であまり変化しないので、ちょっと異色です。この物語にカピバラを選んだのは、カピバラがあらゆる動物とうまく付き合い、ライオンやワニと一緒に穏やかに眠っている映像を見たからです。」

こうした言葉から動物に対して、「擬人化」したような印象を持つかもしれませんが、実際の監督の意図はその逆。「動物たちが人間のように行動したり、人間のように考えたりする姿を見せたくなかった」のだそうです。

(C)Dream Well Studio, Sacrebleu Productions & Take Five.

「動物のそのままの姿と動き」が映し出された「自然さ」も素晴らしいのですが、一方で猫がボートを操縦しようとする現実にはあり得ないシーンでさえも、想像すると「きっとこう」だと思えるほど、リアルでした。

物語上で展開される「価値観も行動規範も異なる種族が連帯する」ことは、今の世界だととても尊くも大切なものにも思えます。

『Flow』の宮崎駿監督へのリスペクト、前作ではゲームの影響も

ジルバロディス監督は宮崎駿監督をリスペクトしており、「映画を作り始める時、物語の結末さえ決めておらず、創作していく過程でそれを見つける」ことに宮崎監督と自分との共通点も見つけたそうで、「過程はまったく同じではありませんが、脚本が完成した後も物語が発展し続けます」と語っています。

(C)Dream Well Studio, Sacrebleu Productions & Take Five.

なるほど、『Flow』の冒険には「まだまだ描ききれていないこと」があり、物語および世界にも「余白」がある。だからこその奥深さと面白さがあることも、宮崎駿監督作と一致しているのかもしれません。

ちなみに、ジルバロディス監督の前作『Away』も、『未来少年コナン』や『母をたずねて三千里』などの日本のアニメ、さらには『ワンダと巨像』や『人喰いの大鷲トリコ』のゲーム作品に強い影響を受けたと監督自身が明言しており、実際の本編もオープンワールド(広い世界を地続きで移動していける)のゲームらしさを強く感じる内容でした。
今回の『Flow』での、水没した世界の光景はそれこそ『未来少年コナン』『ルパン三世 カリオストロの城』『天空の城ラピュタ』などの宮崎監督作にとても近いですし、個人的には水の表現や世界の広がりからゲーム『ゼルダの伝説』シリーズも連想しました。

また、絵画のような画が立体的に動き、さらに動物それぞれの「らしさ」をアニメで見られる喜びと面白さは世界中で絶賛され、アカデミー賞アニメーション映画賞にノミネートされています。これは、2月7日から公開されている『野生の島のロズ』とも親和性があるといえるでしょう。併せて見ると、アニメ映画の表現が「次」の時代へと移ったという実感がより得られるのかもしれません。
最後に、本作『Flow』を見るにあたっては注意点もあります。それは「水が押し寄せる」という、洪水や津波などの災害に遭うという日本人にとってはより恐怖を覚えるであろうシーンがあること。公式にも注意書きがされています。そのことを認識して、劇場に足を運んでほしいです。

『モノノ怪』は「定義」と「ルール」にのっとったサスペンス

『劇場版モノノ怪 第二章 火鼠』は、フジテレビの「ノイタミナ」枠で2007年に第1シーズンが放送されたテレビアニメ、その17年越しに2024年に公開された『劇場版モノノ怪 唐傘』に続く劇場版第2弾です。しかし、後述する理由もあってテレビアニメシリーズや前作を見ていなくても楽しめる内容となっています。
ジャンルは「限定的な場所で謎を解き明かすサスペンス」。超自然的な現象が巻き起こるファンタジーでありながらも、理路整然とした「定義」と「ルール」にのっとって、事態を解決しようとするのです。その定義とルールを、プレス資料から抜粋してみましょう。

「・モノノ怪……抑えられぬ“ナニモノ”かの情念と妖(あやかし)が結びついた時、生まれるもの。表面上の悲しみではなく、その奥の奥。その本人にしか分からない深い感情と結びつくため、その“理(ことわり)”を知るには時間がかかる。

・退魔の剣……モノノ怪を唯一斬ることができる、主人公の「薬売り」が持つ剣。ただし、退魔の剣は「形(かたち)・真(まこと)・理」を示さなければ抜けず、薬売りはモノノ怪が生まれた真相を暴かねばならない。

・形 ……モノノ怪となりし妖(あやかし)の名。

・真 ……事の有様。モノノ怪が生まれるきっかけとなった事件の、伏せられた真実。

・理……心の有様。モノノ怪となってしまうほどの深い情念、晴らしたい恨み、届けたい気持ち。」

「謎を解くために3つのものを集める」ことはテレビゲームのようでもありますし、状況やセリフから事件の発端を推理する「探偵もの」と言っていい魅力があります。薬売りと一緒に「何が起こっていたのか?」「このセリフはどういう意図なのか?」と頭をフル回転しながら楽しんでみるのがいいでしょう。

『モノノ怪』は「大奥」で描かれる封建社会や女性への抑圧の問題

前作『唐傘』に引き続き、物語の舞台は「大奥」。名家出身の「大友ボタン」が厳格な差配を行っている一方、町人出身ながら天子の寵愛(ちょうあい)を一身に受けているため、御中臈(おちゅうろう)「フキ」との亀裂が深まっていく……といった「対立」が生まれています。

(C) ツインエンジン

さらに「人体発火」事件が起こり、それを引き起こしたであろうモノノ怪の「火鼠」がどのような理由で生まれたのかを薬売りは探っていくのです。

女性が生き方を自由に選べず、「世継ぎ」を巡る謀略が渦巻き、やがて悲しさや苦しい情念が見えてくる様は、チャン・イーモウ監督の中国映画『紅夢(こうむ)』も思わせます。

物語および舞台の根底にある、男性が強大な権力を握り、女性が男性のために「子どもを生むための存在」として見られるといった、封建社会や女性への抑圧の問題もはっきりと描く作品にもなっているのです。

(C) ツインエンジン

さらに、前作から「和紙の質感」「カット割り」「空間を感じさせる3D作画」などアニメとしての作り込みと表現の面白さを受け継ぎ、主人公の薬売りのかっこいいアクションがさらに進化。終盤には「場所」「音」と、それに至るまでの伏線と感情の積み重ねもあって、涙があふれるほどの至福の体験となりました。

(C) ツインエンジン

人間の歴史や社会ある問題に踏み込み、かつ「シスターフッド」ものの映画でありながらも、とことん見る人を楽しませるエンターテインメントであることは、現在公開中の『ウィキッド ふたりの魔女』とも共通しています。『モノノ怪』も『ウィキッド』も女性人気が高い作品ですが、描かれる問題からすれば男性にこそ見てほしいです。

『モノノ怪』は前作から「タイト」「分かりやすい」内容へとシフトチェンジ

前作『唐傘』はアニメとしての表現が絶賛されながらも、物語の方は「よく分からない」「ついていけなかった」などの声も寄せられていました。その難解さや「煙に巻かれる」ような印象もまた魅力といえるものの、正直に言えば複雑な要素をまとめきれていないのではないかと、やや散漫な印象も持ってしまいました。

しかし、今回の『火鼠』は「ギュギュッとタイトに仕上げた」「分かりやすい」内容へとシフトチェンジをしている印象です。実際に、中村健治総監督と鈴木清崇監督は、脚本開発や以降の作業においても、要素を「足す」よりも「削る」作業、テーマを明快にするための「剪定(せんてい)」に比重を置いていたそうです。

(C) ツインエンジン

そのためもあってか74分と上映時間もコンパクト。多くのキャラクターの「感情」も、過不足なく示すことに成功していたと思うのです。時間軸と舞台は前作の続きでありながらも「新しい事件」から始まりますし、登場人物もほぼほぼ一新されている(一部引き続き登場する人物もいる)ため、前作を見ていなくても問題なく楽しめる、というわけなのです。

(C) ツインエンジン

このように『Flow』と『劇場版モノノ怪 第二章 火鼠』には、どちらも間口が広くて奥が深く、なんとしてでも映画館で見てほしい理由があることを分かっていただけたでしょうか。ぜひ、「今のアニメ映画って、こんなにすごいのか!」という感動と驚きでいっぱいになってください。

この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「マグミクス」「NiEW(ニュー)」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。

文:ヒナタカ

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