Text by 高橋アオ
今月16日に開催されたJ1第6節湘南ベルマーレvsヴィッセル神戸戦は激しい球際の競り合いや空中戦が見られ、ダイナミックな展開となった。
勝敗は神戸が2-1で勝利するも、両チームの複数サポーターから筆者に「なんでそれ(ラフプレー)を(審判は)吹かないの?」と言った声が届き、複数のサポーターにこの試合についてコラムを書いてほしいと頼まれた。
『2025Jリーグ開幕イベント』で野々村芳和(よしかづ)Jリーグチェアマンが掲げた『アクチュアルプレーイングタイム(APT)』(ボールのラインアウト、反則などにより途切れた時間を除いた実際のプレー時間)を伸ばす方針に弊害があるのではないかというサポーターの声もあった。
そこで当該試合のノーファウル数を独自でカウントし、実際にAPTが弊害となっているのかを考察した。
接触プレーによる転倒、妨害と見られるノーファウルは25回
実際のファウル数は接触プレーによって与えられる直接フリーキック数を数えれば判明する。当該試合の公式記録によると、直接フリーキックの獲得数は湘南が6本、神戸は15本と明記してあった。
両チーム合計で実際に受けた接触プレーのファウル数は21回だが、これは氷山の一角の可能性がある。
当該試合をフルタイム視聴して思ったことは確かに接触プレーや接触プレー妨害が流されているシーンが多くあったという印象を受けた。
そこで『接触プレーによる転倒』と『接触プレーによるプレー妨害(ユニフォームや腕を引っ張るなどのプレー妨害)』を独自にカウントして、実際にどれだけ接触プレーでノーファウルになったかを算出した。
結果は『接触プレーによる転倒』が23回、『接触プレーによるプレー妨害』が2回、計25回の接触プレーが関係すると思われる転倒やプレー妨害が確認できた。
これはあくまで筆者が独自でカウントした数字であり、筆者の主観で「恐らくこれはファウルだろう」とカウントした数のため信ぴょう性はない。
ただ主観であってもこれだけの接触プレーによるファウルと思える事象が取られなければ、両チームの接触プレーのハードルが下がってしまう可能性がある。
特に後半42分1秒(DAZN表記では87:01)に発生した湘南DF鈴木淳之介と神戸MF井出遥也との接触プレーは、ラフプレーによるイエローカード(C2)を鈴木に提示されてもおかしくない接触プレーに思えた。
審判の接触プレーの基準が緩ければ、当然接触プレーの度合いもエスカレーションする危険性があるため、この傾向を野放にすれば負傷者が増加する恐れがある。
APTを伸ばす方向性
そもそもJリーグはAPTをなぜ伸ばす方針となったのか。
先月10日に開催された『2025 Jリーグ開幕イベント』で野々村チェアマンが、APTの増加とプレー強度の向上を目標に掲げた。
この目標が審判のジャッジにどのように影響を与えているかは分からないが、今季は接触プレー後のノーファウルが増加したというサポーターの体感がよく耳に入ってくる。
世界基準のAPTとプレー強度の水準まで向上させることで、エンターテイメントとしてJリーグが世界に通用するコンテンツにまで成長させたいといった思惑があるのかもしれないが、選手の疲労度などを考えるとこの傾向は本末転倒なのではないかと疑ってしまう。
なぜなら2023シーズンまで全18チームが所属していたJ1は、昨季から2チーム分チーム枠が増加したことにより、4試合増えてしまった。
リーグ杯、天皇杯とカップ戦も多く、AFCチャンピオンズリーグエリートなどの国際大会も控えているチームからすれば4試合の増加は非常に重たいものだ。
それにも関わらず、今季は他のシーズンと比較して開幕が早まり、プレー強度もこれまで以上に要求されてしまえば、選手の負傷リスクが高まってしまうのではないかと心配してしまう。
筆者が抱く危惧は杞憂(きゆう)なのかもしれないが、プレイヤーズファーストと謳っているにも関わらず、きょう開催された湘南vs神戸戦はそう思えるような内容ではなかった。
APTを伸ばすのであれば、オフサイドディレイを減らす方向で調整するなど、他の施策も目標に掲げてもいいかもしれない。接触プレーをノーファウルと判定しても、痛がっている選手がいればゲームを止めて、ドロップボールでプレーを再開してしまえば本末転倒だからだ。
主観しかないコラムになってしまったが、選手が安心安全にプレーできる環境をJリーグは提供できているのか。選手を被害者にしてはいけない。今回開催された湘南vs神戸戦を観た上でJリーグは「安心安全か?」と問われたら、私は「安心安全なプレー環境です」と答えられそうにない。