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「トランス女性が女性用トイレを使うこと」に拒否感を持つ人がいる理由

  • 2025.3.16

近年、トランスジェンダーの存在が認知されるようになり、職場でもさまざまな配慮がなされるようになった。トランスジェンダーであることを職場で周知した上で、生まれた時の性別とは異なるトイレや更衣室の使用を認め、問題なく運用できている企業もある。

しかし、「トランスジェンダー女性が女性用トイレを使うこと」に対し、不安を感じる人、またはヘイトコメントをする人も存在している。

「トランスジェンダー女性が女性用トイレを使うこと」と違って、「トランスジェンダー男性が男性用トイレを使うこと」に反発し、嫌悪する人は少ない。それはなぜだろうか?

男性の暴力、性加害にトラウマがある女性の多さ

それは、女性の多くが男性から性加害を受けた経験があるからだろう。

令和元年の犯罪白書によると、性犯罪被害を申告した人のうち、85%が女性だった。また、令和2年の「男女間における暴力の調査」(内閣府)によると、これまで無理やり性交された経験がある女性は6.9%、男性は1.0%だ。さらに、令和3年の調査では、女性の45%、男性の9%に痴漢被害の経験があることが明らかにされた。

これらの統計は、性加害のごく一部にフォーカスしたものに過ぎない。痴漢だけでも約半数の女性が被害を経験しているわけだが、さらに、露出狂、性的な言葉を投げつけられる、強姦未遂、強姦などを考慮すれば、全く性加害を受けたことがない女性の方が少ないと推察できる。このようなトラウマが、トランス女性のトイレ使用に対する不安につながっているのだろう。

書籍『ノンバイナリー協奏曲』に見る不安の実態

『ノンバイナリー協奏曲 「もう息子と呼ばないで」と告白された私の800日』(集英社)でも、過去のトラウマからトランス女性のトイレ使用に不安を感じた気持ちが率直に語られている。

本書は、日本生まれのアメリカ人アミア・ミラーが、31年間息子として育ててきたアレックスに、ある日突然ノンバイナリーであることを告げられた葛藤を綴ったものだ。アミアは、アレックスのジェンダー・アイデンティティを尊重し、必死でアライであろうと努力する。しかし、アレックスの結婚相手であるセーラ(シスジェンダー女性)と「トランス女性の女性用トイレ使用」について話した際、価値観の違いから気まずい思いをすることになる。

「外見が男性に見えるトランスジェンダー女性が女性用トイレや更衣室に入ってくるのが私は怖いの」。アミアがそう発言した途端、セーラの表情が険しくなったという。セーラからすると、この発言はトランス女性に対する差別に思えたのだろう。

アミアは決してトランス女性を差別しようとしたわけではない。ただ単純に、「怖い」というのが本心だったのだ。彼女は12歳のときに性暴力を受け、50代の現在もトラウマを払拭できず、カウンセリングに通っていた。性犯罪はありふれた犯罪であり、またいつ被害に遭うかわからないという現実の中で、不安を感じるのは自然なことだろう。

トランス女性が女性用トイレを使うことで性犯罪は増えるのか?

アミアは本書の中で、「トランス女性が女性用トイレを使用することで、性犯罪が増えるというデータはどこにもない」と記している。

例えば、カリフォルニア州やニューヨーク州では、20年近く前から幼稚園から高校生までの学生が性自認に基づいたトイレやロッカールームを使用する権利を法律で認めている。しかし、このような法律が成立した後、性犯罪が増加したというデータはないという。

そのため、「トランス女性が女性用トイレを使えば、女性の安全が脅かされる」という主張は、「トランス差別を行う人たちの典型的なやり口」だという意見もある。

しかし、単純に「データがないから安全」とは思えない人もいるのが難しいところだ。データを知ったからといって、実際に強姦やDVの被害にあった女性の恐怖心が消え去るわけではない。

トランス女性の女性用トイレ使用に対する最高裁の判決

2023年、経済産業省に勤めるトランス女性が、女性用トイレの使用を制限されるのは不当だとして国を訴えた裁判が行われた。最高裁判所は、女性用トイレの使用を制限した国の対応は違憲であると判断した。つまり、日本の司法のトップは「トランス女性は女性用トイレを使えるべきであり、使えないのは法律違反」と判断したということだ。

この判例が一つの後押しとなり、学校や企業において、性自認に合わせたトイレやロッカールームを使用する流れが加速していくことが予測される。

その際、性被害を受けた女性の声が置き去りになってはならないだろう。性犯罪がゼロになれば、誰がどのトイレを使おうが何の問題もない。しかし、現状では性犯罪者の存在により、トランス女性が「女性用トイレを使うな」という差別を受けている。性犯罪者により、女性は不安を感じ、トランス女性は差別を受けていることになる。

誰にとっても安心・安全な環境を確保するためにも、一刻も早い性犯罪の厳罰化や取り締まりの強化が望まれる。

参考:

内閣府 第2節 ストーカー行為,性犯罪,子供に対する性的暴力等 

読売新聞 女性の45%が痴漢被害を経験、場所は「電車内」8割…東京都が1都3県でアンケート

東京新聞 女性用トイレ利用巡る「違法」判決 

原宿なつき

関西出身の文化系ライター。「wezzy」にてブックレビュー連載中。

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