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何にお金を使えば幸せになれるのか…最新研究で判明「買うと幸福度がもっとも上がる商品」の種類

  • 2025.3.15

何にお金を使えば幸福度が高まるのか。拓殖大学教授の佐藤一磨さんは「これまでの研究では体験・経験への消費は、モノにお金を使うよりも幸福度を高めるとされてきた。しかし最近、これに異を唱える研究が出てきた」という――。

※写真はイメージです
実質賃金は3年連続で低下

私たちの住む地球の資源は、そのほとんどが有限です。

同じく、私たちが使えるお金も有限です。このため、お金をどう使うのかは人生における重要な問題です。

日本人のお金を取り巻く環境を見ると、収入(名目賃金)は微増していますが、物価も上昇しているため、普段の生活はむしろ苦しいと感じることが多くなっていると思われます。厚生労働省の発表を見ると、2024年の物価を考慮した働き手1人あたりの実質賃金は、前年比マイナス0.2%でした。ちなみに、2022年、2023年も実質賃金は低下しているため、3年連続の低下となります(*1)。

また、内閣府の「国民生活に関する世論調査」によれば、「将来に備えるか、毎日の生活を充実させて楽しむか」という質問に対して、「現在より将来に備える」と回答した割合がコロナ禍以降、増加しています。これは日本人が支出を切り詰め、倹約に努めていることを意味するでしょう。

このように普段の生活に余裕がない中において、できればうまくお金を使って幸せを実感したいものです。

実はこの点は多くの研究者からも関心を集め、これまで数多くの分析が行われてきました。

今回はこれらの研究成果をもとに、「何を買うことにお金を使えば幸せになるのか」という点を考えてみたいと思います。

モノをたくさん買っても幸せになれない

消費と幸せの関係を考える際、まず注目したいのは、「消費量と幸せの関係」です。欲しい商品が多く買うことができれば、幸せになれるのでしょうか。

直感的には幸せになれそうですが、研究結果を見ると、商品の種類によってその影響が異なることがわかっています。

世の中の商品を手に取ることができる「モノ」と、手に取ることができない「体験・経験」の2種類に大雑把に分けた場合、実はモノを数多く買ったとしても幸福度が上がり続けないのです(*2)。

多くのモノを買いすぎると、ある地点から幸福度が伸びなくなってしまいます。また、ある研究では、多くのモノを買いすぎると、むしろ幸福度が低下すると指摘されています(*3)。

「過ぎたるは及ばざるが如し」というわけではありませんが、多くのモノを買うと、その商品から得られるワクワク・ドキドキ感も減っていき、消費による幸せを実感しづらくなってしまうのでしょう。

体験・経験への消費は幸せにつながる

モノをたくさん買ってもあまり幸せにつながらないのであれば、体験・経験への消費はどうなのでしょうか。

実はこの体験・経験への消費は、モノにお金を使うよりも幸福度を高めてくれることがわかっています。

コロラド大学のリーフ・ヴァン・ボーベン教授とコーネル大学のトーマス・ダシフ・ギロヴィッチ教授の研究によれば、コンサートや旅行といった体験・経験にお金を使ったほうが服や靴といったモノにお金を使うよりも幸福度に強い影響を及ぼすということなのです(*4)。

背景にあるのは、「思い出効果」です。

コンサートや旅行といった体験・経験は、良い思い出となり、自分の人生の糧となります。「初めていった海外旅行で見た海辺の夕日」「恋人と行ったレジャー施設で乗った絶叫マシーン」、「推しのアイドルのコンサート」といった体験・経験は長い間残る記憶となります。これらの体験は手に取ることができませんが、自分の中で生き続け、私たちの幸福度を高めてくれるというわけです。

この「モノより体験・経験が重要」という指摘は確かに納得できます。しかし、最新の研究でこの考えに異を唱えるものが出てきました。

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モノと経験の対立構造はおかしい

その研究とは、USCマーシャルビジネススクールのエヴァン・ウェインガルテン助教らが2022年のジャーナルオブ・コンシューマーサイコロジーに発表した論文です(*5)。

ウェインガルテン助教らは論文の中で、「モノと経験を対立する構造で捉えることに問題があるのではないか」と指摘しています。というのも、世の中の手に取ることができる商品には、新たな体験や経験につながる場合も多くあるからです。例えば、スマートフォンやスマートウォッチ、またキャンプ用品はモノではありますが、そこから色々な体験や経験につながります。

世の中にある商品を純粋にモノと経験の2つに分けることは難しく、両方の側面があるということです。

このため、モノVS経験という対立構造ではなく、購入した商品を「モノとしてどの程度満足を感じることができたか」「得られた経験によってどの程度満足を感じることができたか」という2軸で評価することが適切ではないかと考えられます。

そこで、ウェインガルテン助教らは、3288人に対して、最近購入した商品のモノとしての満足感、体験・経験としての満足感、そして幸福度を調べました。これらの関係を検証した結果、幸福度を最も高めてくれる商品の特徴がわかってきたのです(図表1)。

モノと経験の両方で満足する場合が最も幸せ

最も幸福度を高めてくれるのは、商品のモノとして満足感が高いだけでなく、得られる体験・経験の満足感が高い場合でした。

具体的には、キャンピングカー、パドルボード、子供のおもちゃ、iPhone、スマートウォッチ等がこれに該当します。これらは使った経験が思い出となるだけでなく、身近にあって触ることもできます。この手に取れる実感がより幸福度を高めてくれるわけです。

次いで幸福度を高めてくれたのは、商品のモノとしての満足感が高いものの、経験としての満足感が低い場合です。これに該当するのは、パソコンのモニター、椅子、セーター、宝石箱等でした。

その次に幸福を高めてくれたのは、商品のモノとしての満足感が低いが、経験としての満足感が高い場合です。これには、ホテルへの宿泊、飛行機での移動、ゲームといったものが該当します。これらは純粋な体験・経験の消費の場合だと言えるでしょう。

最後に幸福度の上昇が最も低かったのは、商品のモノ・経験としての満足感が両方とも低い場合でした。これには庭の花や野菜などの種などが含まれていました。これらガーデニングに関連する商品は、うまく育てば良い経験となる消費なのですが、うまくいかないことも多く、満足感が上がりづらいのかもしれません。

出典=Weingarten et al. (2023)の結果を基に筆者作成
気の置けない友人や家族と過ごすためのモノへの消費が最適

以上の結果が示すように、モノ・経験の両方で満足感が高いと幸福度が最も高くなるということでしたが、これには納得できます。

ちなみに、この具体例として、キャンピングカー、パドルボード、子供のおもちゃ、iPhone、スマートウォッチ等があげられていましたが、その他にも個人的に思いつくのは、ホームプロジェクターです。

近年、有料・無料の動画コンテンツが多数あり、スマートフォンさえあれば手軽に楽しむことができます。この動画を見るという体験をプロジェクターというモノを使って拡張すれば、いつもとは違った新鮮な体験となり、満足感も高まるのではないでしょうか。

さらに幸福度を高める消費として、モノの購入を通じて、誰かと体験や経験を共有できる場合ではないかと考えられます。

というのも、ヴァン・ボーベン教授とギロヴィッチ教授の研究によれば、経験的な消費の中でも、誰かと一緒にその体験を共有した場合のほうが幸福度が高まることがわかっているからです(*4)。

私たち人間は社会的な動物であり、気の置けない仲の友人や家族と過ごす時間から大きな幸せを得ています。これの人達と時間を共有するためのモノへの消費は、幸福度を高める最適な消費の一つだといえるでしょう。

〈参考文献〉
(*1)厚生労働省(2025)「毎月勤労統計調査 令和6年12月分結果確報」
(*2)Van Boven, L. (2005). Experientialism, Materialism, and the Pursuit of Happiness. Review of General Psychology, 9(2), 132-142.
(*3)Csikszentmihalyi, M. (2000). The Costs and Benefits of Consuming. Journal of Consumer Research, 27(2), 267-272.
(*4)Van Boven, L., & Gilovich, T. (2003). To Do or to Have? That Is the Question. Journal of Personality and Social Psychology, 85(6), 1193–1202.
(*5)Weingarten, E., Duke, K., Liu, W., Hamilton, R. W., Amir, O., Appel, G., Cerf, M., Goodman, J. K., Morales, A. C., O’Brien, E., Quoidbach, J., & Sun, M. (2023). What makes people happy? Decoupling the experiential-material continuum. Journal of Consumer Psychology, 33, 97–106.

佐藤 一磨(さとう・かずま)
拓殖大学政経学部教授
1982年生まれ。慶応義塾大学商学部、同大学院商学研究科博士課程単位取得退学。博士(商学)。専門は労働経済学・家族の経済学。近年の主な研究成果として、(1)Relationship between marital status and body mass index in Japan. Rev Econ Household (2020). (2)Unhappy and Happy Obesity: A Comparative Study on the United States and China. J Happiness Stud 22, 1259–1285 (2021)、(3)Does marriage improve subjective health in Japan?. JER 71, 247–286 (2020)がある。

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