これまで数多くの俳優やアーティストを撮影してきたフォトグラファー中川真人氏が、憧れの人の本当の姿を引き出す「まことのはなし」。第13回のゲストは演劇界のレジェンド・白石加代子さん。インタビュー後編は、32年間役者を続けてきたなかで、学んだことや変化についてお話してくれました。
昨日の演技をなぞることはしない。 すべて忘れて、次の日は演じます(白石)
中川さん(以下敬称略)舞台の話に戻りますが、白石さんのライフワークともいえる朗読劇「百物語」が昨年、フィナーレを迎えられましたよね。
白石さん(以下敬称略)フィナーレといっても、もうやらないというわけではないの。今年は新しい作品が続いて忙しくなりそうなので、いったん中断しようかと。「百物語」の台本を読み返すと、やりたいものがいくつもあるんです。
中川 32年間続けてきたなかで、学んだことや変化はありましたか?
白石 劇団にいたころは、「観客に迎合するな」と言われていたんです。だからお客様と交流することは一切なかったけど、「百物語」を始めてからは交流を楽しむようになっちゃった。ほかの舞台に出ていても、芸達者な人と共演するとつい相手のお芝居をじっくり見てしまって、自分のセリフを忘れちゃう(笑)。でもね、そういう私もいいなと思っています。
ジャケット¥165,000、トップス¥41,800、パンツ¥55,000/すべてエンフォルド、イヤリング¥7,020/アビステ
自分がやってきたことをいったん捨てるのは凄いこと(中川)
中川 6月はシェイクスピアの「夏の夜の夢」をベースにした「ナツユメ」が控えています。アバターとして出演するという未知の挑戦ですね。
白石 私も実はよくわかっていないの(笑)。でも新しいことに挑戦するのは楽しい。そりゃ少しはプレッシャーもあるけど、好奇心の趣くままに。私はある時期まで、自分がやり続けてきたことを大事に守ってきたんです。でもあるとき、これはよくないと思って。人の評価も失敗も怖くないという心境になった。
中川 きっかけがあったんですか?
白石 「百物語」を始めたとき、「日常的な演技ができない」とこっぴどく演出家に怒られたんです。それまで私がやっていたのは一定の型にはまったお芝居だったから、例えばコンセントを抜くといった、ごく普通の動きが舞台上でできない。そこから日常的な動きというものを研究して、私の中でいろんなことが入れ替わったと思います。
中川 長く続けるなかで、お芝居に対する情熱が冷めたり、マンネリ化した時期はありませんでしたか?
白石 劇団にいたとき、「劇的なるものをめぐって」という作品がいまでいうところの大ヒット。何度も再演して、お芝居が自分の体に染みついていた。でもあるとき、雑誌の批評家が「白石加代子は自分の演技をなぞっている」って。当時はさんざん褒められて幸せの絶頂にいたから、すごくショックでしたね。これからどうしよう……と考えていたとき、富山県利賀村でやった演劇祭にその批評家の方が来てくださって。
中川 わざわざ、富山まで足を運んでくれたんですね。
白石 普通、批評家は言いっ放しでしょ(笑)?だけどその方は私を見にいらしたんだと思う。そのときの舞台で改めて、「なぞる」ということはするまいと決めたんです。
中川 でも、やってきたことをいったん捨てるって、難しいですよね。
白石 お芝居って毎日同じことをするけど、昨日の演技は全部捨てるつもりで、翌日はやるの。いまも舞台に立つときは、そう考えています。
シャツジャケット¥108,900、パンツ¥91,300、ガウン¥203,500/すべてエムエー デザビエ、イヤリング¥6,930/アビステ、靴¥30,000/バナナ・リパブリック、中に着たTシャツ/白石さん私物
Information
白石さんがA Iアバターで出演!宮川彬良×木村龍之介「ナツユメ」
「マツケンサンバⅡ」やNHK Eテレ「クインテット」でおなじみの作 曲家・宮川彬良氏と、シェイクスピア作品を中心に手がけてきた演 出家・木村龍之介氏のタッグで、シェイクスピア原作「夏の夜の夢」 を大胆リメイク。AIが主体となった未来社会を舞台に「ナツユメ」 として舞台化されます。白石さんは事前に撮影・計測したデータを 元に作成したAIアバター(人口知能を搭載した仮想キャラクター) として登場。豊かな生演奏と最新テクノロジーを用いた注目作です。
【日時】2025年6月6日(金)~8日(日)
【会場】KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ
【問い合わせ先】natsuyume2025@gmail.com
profile
白石加代子さん
1941年、東京都生まれ。1967年、早稲田小劇場(現SCOT)へ入団。「劇的なるものをめぐってII」「トロイアの女」などで世界80都市を巡演。1989年にSCOTを退団した後は蜷川幸雄氏の演出作品にも数多く出演し、映画やテレビでも幅広く活躍。1992年から始まった「百物語」の公演はライフワークとなっている。2023年、演劇界からは初となる日本芸術院会員に選出。
撮影・インタビュー/中川真人〔magNese〕 スタイリスト/宋明美 ヘア&メイク/MICHIRU〔3rd〕 文/工藤花衣
※素敵なあの人2024年4月号「フォトグラファー中川真人のまことのはなしVOL. 13」より
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撮影・インタビューしたのは 中川真人さん
1969年生まれ。ファッション誌や広告など多岐にわたって活躍中の写真家。雑誌の表紙やポスターなど、時代を象徴する俳優やアーティストたちを数多く撮影し、被写体や撮影スタッフからの信頼も厚い。昭和のスターが大好きで映画やテレビの作品やCMなどにも精通している。
この記事を書いた人 素敵なあの人編集部
「年を重ねて似合うもの 60代からの大人の装い」をテーマに、ファッション情報のほか、美容、健康、旅行、グルメなど60代女性に役立つ情報をお届けします!