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ロエベはジョナサン・アンダーソン集大成のスクラップブック── 過去と未来を紡ぐクラフツマンシップ【2025-26年秋冬 パリコレ】

  • 2025.3.15

テーマは“スクラップブック”

アンセア・ハミルトンによる「Giant Pumpkin No 2(2022)」

アンダーソンが今季の会場に選んだのは、かつてカール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)が住んでいた18世紀の邸宅のオテル・ド・メゾン。1階と2階にある17のテーマに別れた部屋を巡るという、珍しいコレクションの発表方法をとった。邸宅に入ってすぐに私たちを出迎えてくれたのは、巨大なかぼちゃのオブジェ。これまでもロエベが協業を続けてきた英国人アーティストのアンセア・ハミルトン(Anthea Hamilton)による彫刻で、ランウェイショーやキャンペーンに登場し、店頭にも飾られていたことからロエベファンには馴染みのある作品だ。このように、会場には過去の協業アーティストによる作品が各部屋に展示されており、「あの時のあれ!」といううれしい発見があった。

庭には2023年のミラノサローネで発表された「LOEWE Chairs」のキノコのオブジェが並んでいた。

アンダーソンはこのコレクションを「アイデアのスクラップブック(A scrapbook of ideas)」と表現している。彼がロエベで築いてきたクラフツマンシップや工芸、新しいシルエットへの挑戦、そして遊び心を反映させたアイデアが満載で、過去のアイコニックなアイテムを通じて、その集大成が見られる空間となっていた。

軽さと重さのコントラスト

最初の部屋で目を惹いたのは、オーガンジーのチューブを束にして仕立てられた色鮮やかなドレス群。チューブの中にパールを入れてワイヤーで固定し、熱を加えた後にパールを取り出すことによって、波打った質感を出したという手の込んだもの。連なったパールの残像が重厚感を与える一方、シースルーで軽さと柔らかさを実現している不思議なドレスである。

また袖や身頃がスライスされたレザージャケットは、従来は隠れている内部を覗かせることで、堅固なファッションの概念に、透過性を与えるアイデアが取り入れられているという。

トロンプルイユを極めたドレス

ロエベのお決まりのトロンプルイユ(だまし絵)も健在だ。ニットトップスとシアリングをあしらったレザーのスカートがドッキングされたドレスや、シアリングをあしらったコートとニットトップスが一体化したドレスなど、より近くで見ることでそのギミックに気付けるピースが並ぶ。

アルバース夫妻とのコラボレーション

今季アンダーソンがインスピレーション源に挙げているのが、20世紀のモダニズムの先駆者として知られるジョセフ&アニ・アルバース夫妻の作品。夫のジョセフの代表作である絵画シリーズ「Homage to the Square」を、シルクシフォンのスカートにスクリーンプリントしたり、"パズル"や"アマソナ"といったアイコンバッグにレザーのマルケトリー(象嵌)の技術で柄を表現したりと、作品のポップな彩りがコレクションに添えられている。

またアーカイブから選んだ妻アニの5つの代表的なテキスタイル作品を、メカニカルウィービングで忠実に再現し、コートや“フラメンコ”バッグなどに採用。特徴的なドットのモチーフは、約7000個の飾り玉を手作業で縫い付けて表現しているという作り込みだ。

メンズと共通する柄やシルエット

コレクションの多くはウィメンズとメンズで共通しており、同じアイテムが異なるアレンジで登場している。例えば、1950年代のファイヤーマンジャケットをヒントにしたレザージャケットや、網目の大きなトリコットステッチのコートなどは色や丈の長さを変えることで一貫性を持って連動している。

また動きが感じられるシルエットやプロポーションで遊び心があり、後ろに反り返ったトラペーズのシルエットのショートパンツ、デフォルメされたサイハイブーツ、つま先を長く誇張したクラウンブーツなど、ユニークなディテールが際立つ。2025年春夏にデビューしたばかりの“マドリード”バッグは、一回り大きなLサイズが新たに加わった。

飛び出す衣服と技巧を凝らしたアイテム

中でも印象的だったのが、衣服がクローゼットから飛び出そうとしているようにセットされた演出の部屋。裁縫用具のピンクッションに着想を得たという、カラフルなまち針を巨大化させたようなビスチェ、ナスやブルーベリーなどをミニチュア化したジュエリーなど、ズームインとズームアウトといった視点を取り入れたアイテムが面白い。

また、プリンス・オブ・ウェールズのチェック柄のモヘア生地に薄いメタルシートを貼り、その上にプリントを施したコートや、1000〜1400個のクリスタルをあしらったシューズなど、技巧を凝らしたアイテムに目が眩む。

“スクラップブック”から見える未来

今季、アンダーソンは"スクラップブック"というテーマのもと、過去の思い出と未来への期待を視覚的に表現し、自身の成長とともにロエベが進化してきた様子を映し出していた。同時にクラフトやアートに対する深い情熱が感じられ、彼の哲学も色濃く反映されている。

退任の噂が絶えないアンダーソンだが、2013年に30歳の若さでクリエイティブ・ディレクターに就任以来、スペインの由緒あるレザーグッズブランドをグローバルな文化的存在へと高め、アートとクラフトの融合を追求する先駆者として、伝統と革新が共存する独自の世界観を築いてきた。彼が生み出してきた実験的なシルエット、工芸技術への深い敬意、そして現代アートとの融合は、確実にロエベのDNAに刻まれている。このコレクションは集大成にとどまらず、ロエベの未来に向けたビジョンを示すものであり、今後も彼の功績がブランドに大きな影響を与え続けるだろう。

コレクションをランウェイショーで見る良さもあるが、見落としがちなディテールをじっくり堪能できるのは展覧会形式ならではの魅力だった。ロエベは大型展覧会「ロエベ クラフテッド・ワールド展 クラフトが紡ぐ世界」を東京・原宿で3月29日(土)〜5月11日(日)に開催予定。この貴重な機会に、アンダーソンが紡いできたファッションと工芸の豊かな対話をぜひ体感してみてほしい。

Photos: Courtesy of Loewe Text: Mami Osugi

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