1. トップ
  2. 恋愛
  3. だから高校生も経験している…大人が知らない違法薬物より深刻に広がる「市販薬乱用」の実態

だから高校生も経験している…大人が知らない違法薬物より深刻に広がる「市販薬乱用」の実態

  • 2025.3.15

高校生も含めた若年女性に薬のオーバードーズ(過量摂取)が急増している。現場に詳しい朝日新聞記者の川野由起さんは「現在、規制対象になっていない成分のオーバードーズが深刻化している実態がある」という――。

※本稿は、川野由起『オーバードーズ くるしい日々を生きのびて』(朝日新書)の一部を再編集したものです。

急増する若年層のオーバードーズ

現在規制対象になっていない成分のオーバードーズも深刻化している。コロナ禍前後で顕著な増加傾向にあるのが「デキストロメトルファン」だ。

前回述べた2022年の国立精神・神経医療研究センターの調査では、市販薬を主に使う薬物とする症例の薬のうち「デキストロメトルファン含有群」は男性7.6%、女性18.2%となり女性で多い。

調査によると、デキストロメトルファンも咳中枢に作用する成分だが、乱用することで幻覚を誘発したり、興奮・錯乱状態を引き起こしたりする危険性がある。また、柑橘系果汁と合わせて服用することで代謝が阻害され、最悪の場合には血中濃度が急激に上昇し自発呼吸が抑制され、死に至る危険性もある。

また、21年に同成分を含む製品が市販薬として販売が始まったことに触れたうえで「20年調査ではデキストロメトルファン含有群に該当する市販薬は、乱用薬剤として浮かび上がってこなかった(略)。このタイプの市販薬が、この1、2年のうちに急速に若年層のあいだで支持を集めている可能性が危惧される」と関連を指摘した。

そのほか、睡眠改善薬や抗アレルギー薬に含まれる「ジフェンヒドラミン主剤群」は男性3.4%、女性15.5%となり女性で多かった。調査は「デキストロメトルファン含有群やジフェンヒドラミン主剤群という新たな市販薬の台頭がみえてきた」とし、また「女性は男性と比較し市販薬について幅広く使用し、また同時に複数の市販薬を使用している可能性が示唆される」と結論づけた。

※写真はイメージです
「自らを罰したい、傷付けたい」若い女性たち

また、救急搬送された症例をみると、高い自殺願望がうかがえるなど深刻な状況だ。21年から22年に市販薬のオーバードーズで救急医療機関7施設に救急搬送された122人を対象にした埼玉医科大学などの調査(救急医療における薬物関連中毒症例に関する実態調査:一般用医薬品を中心に)では、いくつかの傾向が明らかになっている。

まず、女性が97人と約8割を占め、平均年齢は25.8歳と若年女性が多い。また、目的は「自傷・自殺目的」が97件と最多で、「自傷」のなかには、「いなくなってしまいたい」「自らを罰したい、傷付けたい」といった理由もあった。

「その他の目的」のなかには、「元気を出したい」「嫌なことを忘れたかった」「楽になりたかった」「薬をたくさん飲みたくなってしまうから」など、現実逃避を目的としていたり、薬の依存性につながるような理由もあげられた。

薬の入手経路は実店舗での購入が6割強で、オーバードーズに使用された市販薬は83種類189品目に及んだ。

日常的にオーバードーズ、自殺の危険性も

21年から22年に埼玉医大に市販薬のオーバードーズで搬送されたり来院したりした25人を対象とした調査では、女性が6割強の16人、平均年齢は23.3歳だった。目的は「死ぬため」が最多の17件、「気分不快感の解消」「気分や意欲をあげるため」が続いた。

また、乱用や依存度の重症度を測ると、外来治療や集中治療が必要とされる中度以上が9人と3割超、日常的にオーバードーズをしていて依存が進行しているのが7人と3割程度だった。

考察では、「メンタルヘルスの不調を抱えながらもどうにか社会生活を送っていて、精神科医療や相談支援等につながっていない若者が自殺手段や不快気分の解消、つらい現状を忘れる方法として市販薬を過量服用している現状がある」「『市販薬の過量服用』であっても、自殺する危険性が高い心理状態であること、さらには依存症が加わると自殺の危険性がより高まること」「若者が捉える多様な心理社会的問題に対して、医師だけでなく看護師、薬剤師、臨床心理士、精神保健福祉士等が協働し、患者一人ひとりに対しての精神的治療を含む支援を提供することが重要である」などをあげている。

※写真はイメージです
高校生に広がる市販薬の乱用

若年層全体では、どの程度の浸透がみられるのか。精神科臨床や救急医療の現場で若年層の市販薬乱用の増加が顕著にみられることをうけ、国立精神・神経医療研究センターでは21〜22年、全国の全日制高校に通う高校生を対象に、初めて市販薬の乱用実態について調べた(薬物使用と生活に関する全国高校生調査)。

飲酒や喫煙を含めた薬物使用の状況や、インターネットの使用時間などの生活実態を把握するための調査で、大麻などの違法薬物に加えて市販薬の乱用経験についても聞き、4万4613人を分析対象とした。

市販のせき止め薬、風邪薬、解熱鎮痛薬を、過去1年間に治療目的ではなく「ハイになるため、気分を変えるため」に決められた量や回数を超えて使用することがあったかどうかを聞き、全体の1.6%が「ある」と推計された。男性が1.2%、女性が1.7%と女性の経験率が高く、学年が上がるにつれて増加していた。

一方、大麻や覚醒剤などの違法薬物についての使用経験では、大麻使用の経験率がもっとも高く、大麻の過去1年の経験率は全体が0.16%、男性が0.17%、女性が0.08%で、同様に学年が上がるにつれて増えた。これと比較し、市販薬乱用の経験率は10倍に相当する。

調査では「市販薬の乱用が違法薬物よりも深刻に広がっている可能性を示唆する結果といえる。また、市販薬乱用の経験率は男性よりも女性の方が高く、性差という観点においても大麻とはリスク層が異なる」と指摘している。

薬物依存症になる可能性を知っているのか

また、市販薬乱用の経験をもつ高校生は、経験がない高校生に比べ、睡眠時間が短い、朝食の摂食頻度が低い、家族全員での夕食頻度が低い、大人不在で過ごす時間が長い、親しく遊べる友人や相談ができる友人が少ない、悩み事があっても親(特に母親)に相談しない、コロナ禍でストレスを感じているといった生活上の特徴がみられた。インターネットの長時間使用(1日あたり6時間以上)の割合が高く、インターネットゲーム障害のリスクも高いという。

川野由起『オーバードーズ くるしい日々を生きのびて』(朝日新書)

一方、22年の全国の中学生を対象にした調査(飲酒・喫煙・薬物乱用についての全国中学生意識・実態調査)では、5万3623人から有効回答を得た。市販薬を乱用することによって薬物依存症になる可能性があることについては「知っている」が全体の71.6%、一度に大量の薬を飲むことで死に至ることがある可能性は「知っている」が78%を占めた。

15〜64歳を対象にした23年の全国調査(薬物乱用・依存状況の実態把握のための全国調査と近年の動向を踏まえた大麻等の乱用に関する研究)では、3026人から有効回答を得た。

市販薬の過去1年間の乱用経験率は、全体の0.75%で、過去1年以内に市販薬の乱用経験がある国民は約65万人と推計された。年代別でみると、15〜19歳が1.46%と最多で、次いで50〜59歳の1.24%だった。

市販薬の乱用で薬物依存症になる可能性があることを「知っている」は77.5%、一度に大量の薬を飲むことで死に至る可能性を「知っている」は86.6%だった。

川野 由起(かわの・ゆき)
朝日新聞記者
1993年生まれ。朝日新聞記者。仙台総局、さいたま総局を経て東京本社。子どもの虐待、社会的養育、ヤングケアラー、生活保護の扶養照会などを取材。NPO法人ASK認定依存症予防教育アドバイザー。

元記事で読む
の記事をもっとみる